【短編小説】チューインガムの日
ぷくーっと膨らませて、パチンと弾ける薄い膜。
何度も噛むうちに段々味は消えてきて、何で噛んでるんだろうって思い始めるけど、なんとなく惰性でそのままもぐもぐと口を動かしたままになってしまう。
薄っすらと白からオレンジになりかけの空を教室の窓越しに見ながら、味のしない弾力をぐにぐにしてはぷくっと膨らませて。パチンと弾けてはもう一度を繰り返してたら、いつの間にか待ち人が来てたみたい。
「何してんの」
「んー?ふくらましてる」
「限界ためしてるとか?」
「んーん」
「じゃなんで」
「なんとなく」
私の返事に呆れたようにはぁっと溜息をついたキミはごそごそとポケットを探ってから、ん、とティッシュを差し出した。
「どうせ捨てるタイミング無かったんでしょ、ハイ」
「ん」
そういう訳でもあるけど、言わずともわかってるのがキミだなぁなんてちょっと嬉しくなりながら、差し出されたティッシュを受け取って、口元にあてる。
「何その顔」
んふふ、ってちょっと嬉しそうな声が漏れたからか、キミに不審そうな顔をされちゃった。
「あのね、今日って、チューインガムの日、なんだって」
「へぇ?」
「だからね、なんとなく買って、なんとなく噛んでたの」
「どおりで。珍しいと思った」
手の中のティッシュに、これまた、なんとなく思うところを感じて、すくっと立ち上がる。教室の端にあるゴミ箱へティッシュをぽんと放って、すぐ目の前のキミにずいっと顔を近づけた。
「珍しいけど、でも噛んでる感触は悪くなかった」
「そう」
ぐっと近づいた顔に、何をされるのかと訝しそうな顔をしてみせるけど、大丈夫。そんなに変な事じゃないよ。ちょっとした思いつきだから。
「ただ、ずっと噛んでたのが無くなっちゃって口寂しいから、代わりが欲しいな」
口元を指さしてニヤリと笑う。
「……、今?」
察したキミはちょっとイヤそうに言うけれど、少し赤くなった頬が、揺れた瞳が、キミが照れているだけだと雄弁に語っている。
「誰もいないよ」
「そ、うじゃ、なくて」
「今がいい」
はぁっ、と特大の溜息をついたキミは、むぅと口元を尖らせてから、ふふふっと笑う私の顎に手をかける。
とっても恥ずかしそうにしつつもくちびるが触れた一瞬は、パチンと弾けたガムみたいだった。
「帰る」
「待って待って、置いてかないでよ」
すっごく照れてぶっきらぼうで、でも優しいキミはちゃんと私の事を待ってくれるって解ってる。期待した通り数歩先で立ち止まったキミから差し出された手を見つめて、んふふってまたヘンな声が出てきた。
ガムを噛むのもたまにはいいかもしれない。
本日は「チューインガムの日」だそうです。日本記念日協会さまより。
他にも色々ありましたので、どれにするか悩みましたが、最近はあまり噛んでいないなと思いこれにしました。
今日から、不定期になるか、毎日になるかわからないですが、記念日一覧の中から一つテーマをもらって、短編を書いてみたいなと思っています。どこまで続くかわからないですが、不定期でいいよと自分に厳しく課さずにいれば、続くかなぁと。ほんの2・3行のものになることもあるかもしれません。
何はともあれ、やってみたいと思います。がんばりまーす!