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【短編】防犯の日

「ねー、鍵閉めたー?」

 廊下の先から声がする。

「閉めたー、と思うー」
「思うー、じゃないの、ちゃんと閉めてよ」

 ごめんごめんと言いながら、靴を脱いで数歩あるいた分を戻る。
 ツマミを回して、きちんとカチャンという音と共に閉まった事を確認して踵をかえした。

「ちゃんと閉めたよー」
「よし、んじゃ手洗いうがいね」

 そういった本人はこっちが鍵を閉めなおしてた間に終えたらしい。廊下の奥の洗面所からひょっこり覗いた顔は口元が少し濡れている。

「はぁい。お湯になってる?」
「お湯にしといてあげたわよ。感謝しなさい」

 この季節の一番手は凍るような冷たさの水と格闘しなきゃいけない。ありがたい気持ちでへへーと頭を下げつつ、タオルを持って立つその前を通って洗面所へ向かった。

「ねぇ、鍵かけるの何で毎回忘れちゃうのさ」
「いやー、なんでだろうねぇ」
「最近物騒なんだし、出かける時も帰ってきた後もちゃんと閉めてよ。田舎じゃないんだからさ。てか田舎だって物騒すぎて鍵ちゃんと閉めないとヤバいんだから」
「そうだねぇ…どうしたら忘れないかな。思い切ってオートロックにするとか?」

 ザバー!っという音と共に温かいお湯が蛇口から流れてきて、そこに手を浸す幸せ。
 ああ、気持ちいい。

「……聞いてる?オートロックにするにもお金かかるんだよ?自分が忘れなきゃ良いだけでしょうが」

 聞いてる聞いてると鏡越しに頷きつつも、心は手元のお湯に引っ張られてしまう。ぼーっとほかほかの心地よさを堪能して、それでも出しっぱなしは良くないなとキュッと蛇口を閉めてほかほかに別れを告げた。

「ごめんって、忘れないように気を付けるからさ」

 うがいも済ませて、廊下を挟んだ向かいのリビングへ、ちゃんと見ずに足を向けたら、ぼふ、と何かにぶつかる感触がした。何かじゃない、先に入って行ったその人がそこにいた。

「だからさぁ……鍵、閉めてって言ったじゃーん」

 こちらを見るその人の顔はふんっと少しばかり不服げで、すっと横へ伸ばした指先は玄関の方面を指していた。
 その指を辿り玄関扉を見ると、先ほど確かに回したはずのツマミが戻って……つまり鍵が開いている。

「へ?なんで?さっき確かに閉めたよ?」
「じゃあ何で開いてるのよ」

 どすどす、というあからさまに不機嫌です!という足音をたてながら玄関へ行ったその人は自分の時よりも少し大きくガチャン!と音をたてて鍵を閉めた。
 おかしいな、確かに閉めたんだけどなぁ…ともう一度思いながらリビングへ続く引き戸を開けて。
 瞬間、それまでの思考は吹っ飛んだ。
 ほかほかだった心はぎゅっと引き絞られて、さぁっと血の気が引いていく。

 散乱する見覚えある品々。有体にいえばぐちゃぐちゃの室内。

 脱いだ上着片手にこちらへ来たその人も、自分の隣に並んだあと、動きが止まってしまった。

「……だ、から、さぁ、閉めてって……」
「……うん、……ごめん。……とりあえず、警察、と、あとは…オートロックついてるとこに引っ越し、しよっか」
「そ、だね……」


 本日は防犯の日だそうです。久しぶりの記念日短編がこんな不穏でどうするよと思いましたが、思いついちゃったし、まぁある意味王道だよねということでそのまま投稿しちゃいます。
 昨今かなり物騒な世の中になってきちゃいましたねぇ。私の生まれ育った田舎は、さすがに夜は鍵をかけますが、昼日中は鍵なんてなんのその。玄関ドアも縁側もあけっぱなし。人がいないとわかっている家でも開けっぱなしでした。いいのかそれでと今なら突っ込み満載ですが、田舎はそれが当然であり普通だったんですよね。今では考えられない話です。
 詐欺業者や闇バイト系の強盗が怖いから家電は出ない方がいいし、家中鍵をかけていても窓ガラスを割り侵入なんていう手口も無い訳ではないですから気が抜けないですよね。物騒さはなんでかって、みんなお金が無くて、じゃあどうしたらいいかって政府の方々にちゃんと収入を得られるような社会にしてほしくて……と言い出すとキリがないですが、でもほんと、安全な日常になってほしいものです。
 みなさま、防犯、気をつけましょう。です。

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ぺん
小説を書く力になります、ありがとうございます!トイ達を気に入ってくださると嬉しいです✨