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【短編小説】シーザーサラダの日

『しゃっきしゃきのれたすとー』
『シャキシャキのレタスとー?』
『ぴかぴかのみにとまととー』
『ピカピカのミニトマトとー?』
 階下から聞こえてくるのは夕飯を用意する娘と妻の微笑ましいやりとりだ。幼稚園の年中さんになった娘は年少さんが入ってきたことで、お姉さんになった自覚を急激に表し始めた。妻がやる家事のあれやこれやをやりたがり、もうおねえさんなんだからわたしにもできるもん!が口癖だ。
 その流れで料理にもやはりというべきか興味を示し、ママといっしょにつくる!と言い出した。出来るに越したことはないけれど、妻が一人で作るのに比べ、手間も時間もおそらくめちゃくちゃかかるに違いない。それでも、妻はやりたいならやらせてあげましょうか、と苦笑しながら娘の言葉に頷いて見せた。
『あまくておいしいきゃべつとー』
『甘くて美味しいキャベツとー?』
『ちっちゃくてかわいいやんぐこーん!』
『ちっちゃくて可愛いヤングコーン』
 ただし、朝食は時間が無いのでママの担当。お昼は幼稚園で食べてくるからノーカウント。夕食のサラダを一緒に作る、という話でまとまったらしい。
 サラダなら、基本的には洗ってちぎって皿に乗せればいいし、キャベツの千切りだけ妻が先に作っておけばいい。包丁は小学生になったら、お子様包丁を買ってあげるという約束になったので、それまではちぎったり乗せたり調味料を混ぜたりがメインの仕事らしい。とはいえ、いつまでこのおねえさんなんだから、が続くかわからないのだけれど。
『さいごにー』
『最後にー?』
『しーざーどれっしーんぐ!』『シーザードレッシーング!』
 二人綺麗に揃った声で、サラダが完成したらしいのが解る。きっと二人ともにこにこの笑顔で、嬉しそうにしていることだろう。目の前に見えるようだ。その光景を思い浮かべてクスクス笑っていたら、画面の中から声がかかった。
「随分楽しそうですね、何かいい事ありました?」
「いやぁ、ちょっとね」
 リモートワークの良い所は色々あって、どれが一番とは決めがたいけれど、こうやって二人の声が聞けるのはかなり良いポイントだと思う。
「ごめんごめん、どこまで話したっけ?」
 でもそちらに気をとられてしまって仕事の手を止めてしまったのは良くないから、きちんと深呼吸して手元の作業を再開させる。
「えーっと10段目の数値の……」
 今日の夕飯は何だろう、とりあえずサラダはシーザーサラダらしいから、美味しいよとしっかり褒めてあげないと。そんな事をちらと考えながら、同僚との打ち合わせに集中しなおした。


 本日は「シーザーサラダの日」だそうです。日本記念日協会様より。

 サラダ記念日という俵万智さんの短歌が昔爆発的に流行ったそうですね。その世代ではないですが、流れ聞いた位の世代ですので、シーザーサラダの日と見て、最初に思い浮かびました。サラダ記念日自体は明後日7月6日のようです。サラダは今日使ってしまったので、明後日は……違う記念日をキーワードにしようかな(苦笑)
 コロナ禍になったことでリモートワークが推奨され、5類に移行した後には大分また出社が必要となった企業様も多いようですが、まだリモートでお仕事してらっしゃる方もそれなりの数おられるみたいですね。私の立場というか立ち位置的に言うならば、一人で家事を好きなようにこなしたいために、会社へ行ってお仕事しておいで?と言いたくなってしまいますが、仕事をする側としてはリモートはやはり楽なんだろうなとも思います。会議中に家族やペットが乱入、なんて話はコロナ禍の間によく聞きましたね。ネコに邪魔される、というのもあるある話のようで?羨ましい!と思いつつ、片手で犬を撫でたりしていました。
 そんなわけで、本日はリモートワークでありそうな、微笑ましいワンシーンでした。

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ぺん
小説を書く力になります、ありがとうございます!トイ達を気に入ってくださると嬉しいです✨