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【短編小説】生姜の日

 赤と白で、細長くて、酸っぱい匂い。
 小さなころ、定食屋の実家を手伝っていた時、よくお魚料理の上にもりつけるように言われたソレは、一体何なのだろうとずっと思っていた。

「ねー、はじかみって知ってる?」
 夕食時、テーブルの上にはサラダと一品と味噌汁と白米に囲まれた中心に焼き魚が置かれている。その焼き魚を見てふいに思い出した。
「へ?なにそれ」
「はじかみ、っていう、こう……細長くて、上半分が赤で下半分が白い食材?食べ物?でさ、酸っぱい匂いするの」
「いや、なんのことだかさっぱり」
 だよね。私も覚えてるのは名前と見た目だけだし、それだっておぼろげだ。定食屋の手伝いをしていた時に、母から「はじかみのっけて」と容器に入ったそれを渡されて、一本を取り出し魚料理の上に斜めに飾り付けた。それくらいしか馴染みが無い。実際に食べた事もないし。
「ちょっと調べてみよう。気になる」
「どういうの?」
 ご飯時にスマホを弄るのはマナーとして相手に対してあんまり良くないけど、気になって仕方ない。彼もうんうんと頷いていることだし、と少し離れた位置にあったスマホを取って、検索してみた。
 そこには予想していた見た目のそのままの物が表示され、その画面を彼に見せる。
「こーいうの」
「……は、じ、か、み、生姜……へぇ、こんなのあるんだ」
「魚料理につける、んだって。ふぅん、魚の生臭さを無くしてくれる……だからつけてたんだ」
「それがどうかしたの?」
 彼からのもっともな質問に、私はさっき思い出していた実家での一幕を告げる。すると納得したように彼はもう一度うんうんと頷いてくれた。
「なるほどねぇ、定食屋でかぁ。そういえば、あそこ、会社近くのちょっと古い定食屋さん、そこで魚料理頼むとついてくるかも」
「ああ、あの、安くておいしいって?」
「そう。ずっとただのかざりかと思って避けてたけど、そんな役割があったんだ。今度食べてみよ」
「そうして。感想聞きたい。どんな味なんだろ」
「それより今度一緒に行こうよ。二人で食べてみたら楽しそう」
「いいね、そうしよう」
 一区切りついた事で、夕飯が再開される。その日のご飯は次のお出かけが楽しみな気持ちで二人ともニコニコだった。
 ずっと、身近にあったもので、見た目も名前も知っていたけれど、実際にどんな役割でなんのための物なのかをきちんと知らなかった。今日思い出さなければ、調べることも無かっただろうし、きっと知らないままだったに違いない。
 この世の中にはそんなものが沢山溢れているのかも。名前だけ、見た目だけ知っている。それらを一つ一つ全て思い返して調べる事は難しいかもしれないけれど、気になったものはその時々で一つずつ調べて知っていくと、きっと今より楽しくなるに違いない。
 今日の私達のように。


 本日は「生姜の日」だそうです。日本記念日協会様、今日は何の日~毎日が記念日~さまより。

 はじかみの話は私の経験談です。昔、焼き魚の上にのせてと渡されるそれを、言われるがままに箸で取り出して斜めに格好よくなるように飾り付けていました。コレ何かなと思ってはいたものの、今日が何の日かを調べるまですっかり忘れていたものです。
 はじかみという名前は知っていたし、どんな形状色雰囲気かも知っていたけれど、実際の用途と目的を知らなかったんですね。母はきちんと知っていたからこそ私に盛り付けるように言ったはずですし、でなければそのものはその場に無かったはず。けれど私は「そういうものなんだな」とわかったつもりでいて、母に確認することをしなかったんですね。疑問を持たなかったというべきか。まぁ、当時は提供する時間を争う場でもあったので、流してしまったのかもしれませんが。結果として一度も質問することなく何十年と経ってしまいました。
 でも、今、思い出し、調べて知ることができて良かったと思っています。知識として知っている事、それを調べてさらに深く知ること、自分の中に新たな知識が増える事は、思考の幅を広げ、行動の幅も広げるのかもしれない。そんな風に思えた今日でした。また何かひっかかったら、調べて知って自分の行動の幅を広げていきたいと思います。

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ぺん
小説を書く力になります、ありがとうございます!トイ達を気に入ってくださると嬉しいです✨