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西鶴の才覚に嫉妬――1682年の覗き×CMNF×おねショタ

エー。むかし井原西鶴(1642~1693)という、浮世草子の偉い作家がいましたね。浮世草子というのは江戸中~後期のエンタメ文芸で、庶民の暮らし向きや世相を大いに反映してきたジャンルのことですね。

わてが西鶴ですやで

西鶴の処女作&代表作は言わずと知れた『好色一代男』(1682)。これが実にクセになる味わいで、折に触れては現代語訳で読み返し、毎回、途中で飽きてやめてしまう(飽きるのかよ)。大まかなあらすじは以下の通り。

主人公の世之介は7歳で腰元をくどき、12歳で風呂屋女(湯女)と寝るような早熟ぶり。放蕩のすえ勘当され、地方を遍歴する。その後遺産を相続して大金持ちとなり、名高い遊女たちとの好色生活を続け、生涯で相手にした女は3742人に男725人。光源氏と並ぶ日本文学史上最大のプレイボーイの好色生活を描き、元禄期、作者・読者・流通の常識を覆した日本初のベストセラー小説。

光文社『好色一代男』 井原西鶴/中嶋隆 訳 商品ページより

…本当は『好色一代男』はエンディングが秀逸で、60歳で7人の同志とともに「好色丸(よしいろまる)」という船を作り、強壮剤やセックストイを満載し、伝説の「女護島(にょごのしま)」に渡ろうと出立して行方不明になるんですね。どうですか、この明日なき暴走は。オレはもう『バニシング・ポイント』('71)かと思った。

コワルスキーばりの破滅への疾走

『好色一代男』は島田雅彦の新訳(河出書房新社)を含めていくつかの版に目を通したんですが、光文社の新訳(光文社古典新訳文庫)の版が最もユーザーフレンドリーな仕上がりなのではないでしょうか。もっとも物語の解像度が高い現代語訳というか。
…島田雅彦版、期待して読んだらイマイチこう、作者は原典の描写を理解して書いてんのかなと思ってしまうような曖昧なところが多く、ひっくり返ってしまった思い出がございますな。

閑話休題。前述の理由(飽きる)でディンゴ的に読み返す機会が多いのは圧倒的に前半なので、どちらかといえば、世之介の少年時代のエピソードのほうに思い入れが強いわけです。まあ少年時代の世之介のほうがかわいらしく思えて、読んでいて楽しい気もいたしますしね。

光文社版の表紙

で、この光文社版の表紙は「人には見せぬ所」という本編中の1エピソードを基に描かれたもの。このお話は世之介が9歳の折のお話なんですが、ディンゴ的には割と一押しのエピソードだったりします。あらすじは以下の通り(※ディンゴ訳なので、内容に責任は持てません

「人には見せぬ所」ディンゴ要約

五月四日の夕暮れどき。軒下の木陰、薄暗くなったところで仲居のお姉さんが菖蒲湯で行水している。まさか誰もみてはいまい…と油断しきってカラダを洗う仲居さんだが、しかしこれを目撃していたのが世之介(9歳)であった。望遠鏡を持ってあずま屋の屋根にあがり、行水の模様をイヒヒと眺めていると、そのうち向こうが世之介に気づく。手を合わせて「坊ちゃん、堪忍、堪忍やで」と懇願するのだが、世之介はイジワルに覗き続ける。たまりかねた仲居さんは行水を切り上げた。

同シーンの、初版の挿絵だそうです

で、逃げる仲居さんにトテトテと駆け寄る世之介(9歳)。「今夜、部屋に行くからな。おれのいいなりになれよ。いうことを聞かないと、いま見たことを話すからな」と脅迫する。仲居さんは正直「?」なんですが、まあ子供やしな…仕方あらへんな…と思って一旦、受け入れる。
その夜、仲居さんが自室でくつろいでいると、果たして世之介がやってくる。おもちゃでもやれば帰るだろう、とご機嫌取りに動くんですが、世之介の目当ては仲居さんですから、彼女に膝枕をさせ口説きにかかる。
こんなところを見つかったらたまらんなあ、と思いつつも世之介の体を撫でてやる仲居さん。このまえはホンの子どもと思いましたのに、今日はえらい雰囲気がちがいますなあと笑いつつ、さあいらっしゃいと世之介を懐に抱き入れるが、しかしこれは仲居さんの一計であった。そのまま立ち上がる仲居さん。
仲居さんは世之介を抱きかかえ抵抗させないようにしたまま、表へ出て世之介の乳母の部屋に向かう。出てきた乳母にむかって「世之介さまは、お乳が恋しいようですわ」と伝え、世之介を赤ちゃん扱いして逆襲する仲居さん。仲居さんは乳母に今日の一部始終を話し、乳母は「まだ子どもだと思っていたのに、スミにおけない子だねえ~」と呆れる。

どうやねんどうやねん

いかがでしょうか。要は調子に乗ってる世之介(9歳)が仲居さんをいいなりにできないというだけのお話なんですが、そこに覗き×CMNF×おねショタという因果なファクターが集合してくることでなんともこう、たまんねえなと思わせられる「人には見せぬところ」。

※CMNF=Closed Male, Naked Female(男性着衣、女性脱衣)

オレはもともと割と好きな話だったんですが、後年、光文社の新訳(↑)がこのエピソードの絵を表紙に採用したことを知り、大いに勇気づけられたものです。やっぱりみんな好きやったんや!

そういうわけですので、皆さんもレッツ西鶴!(なげやり

【追記】

もりもと崇『難波鉦異本』('01)にも井原西鶴が出てくるのでした。

『難波鉦異本』、名作です

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