タフであることの尊さ――あの日の「金崎あい」が教えてくれたこと
エー皆さんは「金崎あい」嬢をご存じでしょうか。
'11年の5月から半年ほど、控えめに活躍されたAV女優さんですね。
ブログによれば「事実上の引退作」は映天の「蛇女 Vol.4 金崎あい」で、これは'11年10月の発売(※引退作品なのに、映天の商品ページの説明テキストには「エロエロニューフェイス出現!!」とか書いてあって、実に可笑しい)。
ま、ただ彼女の作品で最も語り草なのは、なんといってもデビュー作のひとつであるSODクリエイト『お願いっ―!私を「マジックミラー号」に乗せて、メチャクチャに犯して!!』('11年5月)でしょう。監督は木村真也。今回はこの作品について、ちょこっと見どころというか、感じ入った部分を紹介させていただきやしょう。
※「マジックミラー号ってなに?」とか、「どういう内容なの?」といった基礎的な部分で疑問をお持ちの方には、どこかヨソで調べてきてもらうこととする!
アダルトビデオのあらすじ
本作には三人の女優さんが登場するんですが、金崎さんはその三人目。ビデオのトリを飾ります。
お話は'11年、3月の世田谷からはじまる。午前8時、某駅で待ち合わせをした金崎さんを迎えにむかうMM号クルー。…このとき、「MM号は待ち合わせ場所のチョイ手前で止めて、徒歩で迎えに行く」とかテロップで説明してくれて、謎のディテールの細かさが可笑しい。
スタッフ「ゴメンナサイ。お待たせしました。すいません。大丈夫ですか… 何時に起きました?」
金崎「うんと、6時です」
スタッフ「6時すか。駅…は隣とか、隣の隣ぐらいですか?」
金崎「…まあ、近いところです」
スタッフ「撮影自体は簡単な撮影なんで、…ちょっと。リラックスしてほしいな、と、思うですね」
金崎「ハイ」
スタッフ「あちらが、マジックミラー号です」
金崎「おお~、すごい。へえ…。面白そう」
テロップ「なんだかつかみどころの無い 不思議な女の子です」
…いやスタッフが悪くね?
ま、つかみどころのないスタッフはともかく、MM号に搭乗する金崎さん。流れで自己紹介。
金崎あい
神奈川県出身、23歳のフリーター。
B:100(G~Hカップ)/W:62/H:90
以前はごく普通の昼職、OLをやっていたが、住民税・健康保険・年金を滞納しまくり、延滞金が雪だるま式に増えて支払えなくなったため、一発逆転を期して水商売に転向。…そんなわけで、二か月前からキャバクラのバイト一本。
元カレがAVファンだった影響でAVに興味をもった。非日常の体験に憧れがある。また、可愛いコスプレをやってみたい。
…どうですか、この陳腐さは!!
(※シナリオじゃなかったらすいません。土下座します)
で、自己紹介オワリで今回の企画タイトルが発表。題して…
都心から1時間でイケルッ!
超イヤシスポットだらけの関東のリゾート
千葉・南房総 マジックミラー号の旅
…ま、ともあれドライブすよ。MM号初のフェリー乗車で、南房総を目指すと…オレは土地勘がないんでわかりませんが、ロープウェーも出てきましたんで鋸山のほうですかね。
で、フェリー内で軽いプレイを撮影したり(※本当はダメだと思う)、とびっこ装着状態で散歩したり、ややおざなりな仕事が続きまして。いよいよメインといいますか、とにかく道の駅かどこかの駐車場に停めたMM号でカラむと。軽いインタビューが挿入。
金崎「なんか、フシギな感じです。どうなるんだろうこれは、って思いますね」
スタッフ「いま、どんな状況ですか、股間は」 ※言い方~
金崎「いや…熱くなってます♡」
…どうですか、この陳腐さは!!!!(デジャ・ヴ
ここでカット。…で、次のシーンはいきなりスタッフの緊迫した声。以下、できるだけ聞いた通りに文字起こし。(※男性スタッフは複数人おられます)
スタッフ「うおおおおおっ! すごいな!!」
金崎「すーごい、地震!!!!」
スタッフ「えっ、えっ、いま外もすごいですか?」
スタッフ「外もすごい!」
スタッフ「立ってらんないぐらいですよね」
スタッフ「やっばい、やっばい。や、コワイコワイコワイ…」
金崎「えっ、えーっ。こんな揺れんの!? やばい」
スタッフ「長いし、しかも」
スタッフ「…津波あるっぽいな」
スタッフ「外もやばいんですか?」
スタッフ「外もやばい!」
金崎「え、こういうドッキリじゃないんですか?」
スタッフ「(笑)。ドッキリじゃない!」
スタッフ「やばいっすね…」
金崎「まだ揺れてるもん!」
そう、これは2011年3月11日14時46分。東日本大震災の瞬間なんですね。
記録映像と化していくAV
遠景で、駐車場の様子をとらえたショットが挿入。オロオロする人々の挙動が、あの日のことをリアルに思い起こさせます。
テロップ「道行く人たちは呆然と立ち尽くし、警報が鳴り響いていた」
情報交換で、地元の人々と会話を交わすスタッフ。
おばあちゃん「震度いくつぐらいなんじゃろねえ…」
スタッフ「5って言ってました」
おばあちゃん「5かい。…すごいねえ」
テロップ「色々な事がありますが、それでも撮影は続きます。」
続くのかよ! と思いますが、でもMM号のセット(※荷台)って、一旦入ると中からは空けられないらしいんですね。
このときは携帯電話が不通になったかなにかで、外のスタッフと連絡が取れず…しょうがないので、カラみを撮っておくことに。気もそぞろな感じで、でもとりあえずいろいろ済ませる金崎さん&男優氏。
ただ、撮影終了後も車外スタッフとの連絡がつかず、狭いセットから降りられない皆さん。
テロップ「終わってからも、外に出られず、軽いパニック状況に…」
金崎「閉所恐怖症!」
スタッフ「広いじゃん(笑)」
スタッフ「三畳ぐらいはある」
テロップ「結局、ドライバーさんが異変に気付き開けてくれました…」
金崎「やったー。生還!」
スタッフ「生還した~」
スタッフ「助かった…」
もう誰もいない駐車場が画面に映る。
テロップ「皆、避難したのでしょうか…人っ子一人いなくなっていました」
それでも撮影を続けようとする金崎さん&スタッフ。浜辺の画を求めて移動中も、何台かの消防車とすれ違う。
消防車のアナウンス「津波警報が出ております! 避難してください!!」
浜辺には近寄れないということで、結局もとの、誰もいなくなった駐車場に戻ってカラミの続きを撮影。スタッフが「こんな結局、誰もいないし、景色もよくないところで、ごめんね…」的なことを言ってました。ヒドい状況なんですが、ただ、金崎さんがずっと前向きな感じを見せようと頑張ってくれてホロリとくる。健気やな~、イイ子やな~と思わせられます。
撮影後、誰もいない駐車場でセルフィーを撮っている彼女。
テロップ「うまく言えませんが、不思議な魅力を持った女の子です」
わかりますよ。
…で、震災AVのその後
もちろんですが、撮影後の帰路も大変だった様子で…。短い映像が収められています。
テロップ「信号も街灯もつかない下道を使って帰る」
テロップ「大渋滞につかまり12時間走っても 結局、千葉から出れなかった」
スタッフ「どうやって帰るんだ、みんな…」
実家に電話してる金崎さん。「まじでェ!?」と、どっかの方言丸出しで驚いている。
金崎「…実家の塀と倉庫が、倒壊したらしいです!」
あの日って、全国各地でそんな調子でしたよね。
テロップ「この日の帰京は諦め 車に泊まることになった」
テロップ「翌朝、車を諦め 電車で帰ることに。」
さすがに疲労困憊といった表情で、電車の座席に座り込んでいる金崎さん。
テロップ「彼女はすっかり被災者の顔になっていたが、そのままキャバクラに出勤するという」
タフですね。で、東京に着いて、金崎さんとスタッフの別れ際の会話。
スタッフ「次こそは(もっといい撮影を)、ね」
金崎「うん。次こそは!」
テロップ「どこまでも前向きで タフな女の子だった」
オレは正直、ちょっと泣けましたよ。金崎あいはAV史に残る名女優、大スターではなかったかもしれないですが、でもこのビデオの中で見せた前向きさ、タフさには大いに学ばせられるところがありました。そしてそういうタフさは、すっごく魅力的でもありましたね。
むすびは雑に、自分の話にしてしまいますが。大人になると、矢鱈「仕事の質」みたいな話をされるじゃないすか。知らねえよ! と思うわけです。「仕事」するほうはありものの材料でやっつけるしかねえんだから、夢みたいなことをガタガタ言ってくる連中のほうが全然、プロじゃねえと思うわけです。まず現実を知れと。逮捕するならしなさい!
「仕事」には、そんな夢みたいな「質」のハナシよりも、もっと大事なことが色々あって…それはたとえば、本当にたとえばですが「何にもうまく行かなくなったとき、誰も責めずに笑ってるようなタフさ」だったりするとも思う。逆張りをかけるつもりではなくて、本当にそう思ってます。逮捕するならしなさい!!(二回目
本作、AVとしての質はともかく、記録された金崎あいさんのアティテュードからは色んなことを学ばせていただきやした。震災当時、オレもまだ20代でやんした。やんしたやんした