一匹狼のダブルエージェント
ぼくはどうしたらいい?
首に歯が入ってくるのがわかる。これがもうすぐ息を吸うところを潰して首の骨を折る。そうしたら終わり。ぼくもずっとこれをやってきた。だからわかる。
ぼくはどうしたらよかった?
雪の上に血が飛び散るだろう。ぼくの肉はだれが食べるだろうか? 鳥だろう。
ぼくは…。
ぼくは生まれた時から何かが違っていた。
ほんとうに?
確かに、ぼくは小さい。でも、ぼくより小さい狼はいくらでもいる。
大きいか小さいか、強いか弱いか。これだけが狼の基準。でも、ぼくには最初からそれ以外の基準があった。あったらしい。
「お前は違うんだから」と言われて育った。
家族がいなかったから? 狼は群れで生活するから、家族がいなくても生きていける。
ぼくが他の狼と仲良くしなかったから? そうかも知れない。仲良くなるということがわからなかった。だから、常に遊びまわって、バカなことをして。それがダメだった?
大きくなる前に群れを転々と渡り歩いた。群れ同士はみんな敵。だからぼくもずっと余所者。
「お前、あの群れにいただろ? 今度、どう動くか聞いてきてくれよ」
聞けるわけがない。でも、出かけていって、じゃれ回って、怒られて、静かにしている時に、他の狼が話しているのを聞いて、それを話した。
群れは全滅させられた。
それから、他の群れに出かけていって話を聞くようになって、それを話した。群れと群れとの間が居場所だった。
最初に頼まれた群れのことも、もちろん、話した。段々と群れの数が少なくなって、そうすると群れと群れとの間が無くなるから、ぼくの居場所もなくなる。誰か話を聞きに来ないかな。
その時、最初に全滅させられたと思ってた群れで唯一生き残ってた子供に、今、殺されかけている。他の狼たちも見ている。みんなの中心にぼくがいる。それを考えると、居場所が見つかった気がする。
ぼくは最初からこうしておけばよかった。
thief/泥棒
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