パーキングエリアの食堂で
「あんまり人いないっすね」
眠そうな目をしてバックパッカーは食堂を見回した。深夜のパーキングエリアでテーブルに座っているのは俺たちの他には一家族しかいなかった。
トラックは4時間半走ったらかならず停まらなければならない。今日も下道に降りる前のパーキングでその時間を迎えた。ただ、今日がいつもと違うのは、前のパーキングで一人乗せてきたことで、今までそんなことをしたこともないのに急にそんな気になった。
バックパッカーは「どこどこまで!」と書いたスケッチ帳を持って車の前に飛び出してくる。跳ねてもいいと思うくらい嫌いだから見向きもしてこなかったが、今、乗せているのは少し違った。
行きのパーキングで見かけたのが、帰りに同じパーキングにいたのである。
「何してんの?」
「いや、なんか、もう、疲れちゃって」
特に行き先はないらしい。じゃあ、というので乗せてみることにした。乗せた瞬間に眠ってしまった。
パーキングに着いてそのまま車中に置いておくわけにはいかないから連れ出したが、疲れ切っているのか、まっすぐ歩くことができない。ようやくテーブルに座らせて、こちらはうどんを食べ始めた。
「これで休んだ後に下道に降りるから。降りたいところがあればそこで降りてもらって」
「ありがとうございます」
ぼんやりとうどんを見ている。ご飯をご馳走してやるほどの義理はない。そもそも、乗せてやっているのだから。
「ここら辺は何がありますか?」
「そうだな。渓谷だ」
「じゃあ、今、降りても意味ないっすね」
「つまんないだろうな」
バックパッカーはすっと立ち上がって水を二つ持って来た。
「俺の分あるよ」
「あ、ああ」
ぼんやりとコップに口をつけて飲んでいる。
ふと、俺にはこういう時間が全然無かった、というのを思った。楽しいんだろうか?
「ごちそうさまでした」
「もう行きますか?」
「いや、仮眠を取る」
「じゃあ…」
「うん?」
「あ、いいです」
diner/食堂