世の終わりのスナック
この世が終わったのだからもう必要ないものはたくさんあるが、その中の一つがスナックだと思う。滅びを待つだけの中で何の用事があるだろう。
とは言え、滅びを見据えながら待つことは到底できないから、やっぱりスナックに行って飲んでしまう。
「いらっしゃい」
カランコロンというベルの音が、外の凄惨な風景と釣り合わない。
「何にします?」
「何があります?」
「今日はね、いろいろ増えました」
棚にはずらっと瓶が並ぶ。
その中にはドロっとした色の液体が入っていて、大小様々の実が漬かっている。
「え、こんなに、どこから手に入れたんですか」
「それがね、お寺の境内なんです」
「そんなところに?」
「ええ。近所の寺の庭に入って行ったら、果樹園みたいになっていまして。そこから、採りました」
「何か言われませんでしたか?」
「いやあ、静かにしてたんですけど、追いかけられましたね、罰当たり! て」
「それはそうでしょう」
マスターは磨いていたグラスをカウンターに置いた。
「それが、お坊さんじゃなかったんですよ」
「え、そうなんですか」
「グラサンに革ジャンで釘バットを持つお坊さんだったのかも知れませんが…」
「このご時世、なんとも言えませんね。それで、今日のおすすめは?」
「これ、かな」
見せてくれた瓶には実ではなく花が漬け込んであった。
「ケシの花です。なんとなく、漬けてみました。末世の感じがするでしょう?」
「いいですね、それをください」
snack/スナック