車移動
うとうととしてから目を覚ます。そういう時に、はっ、と目が覚めたと言えればいいのだが、そうではなく、目が覚めたから覚めるのであって、しかもその度に動悸がしている。
窓の外はずうっと暗い。日が落ちてから出発したから仕方がないのだが、今、自分がどこにいるか見当がつかない。
しばらく、寝て目覚めてを繰り返すうちに、寝られなくなった。目が覚めているわけではない。ただ、胸の中に苦しい塊がある。
イヤホンを外した。音楽はとっくに終わっていた。車内の人はみな寝ているらしい。携帯電話の灯りが見えない。運転席と助手席は低い声で話している。何を話しているかは聞こえない。
普段なら、まだ着かないんですか、と声を掛けるのだが、今日はそれすらできない。じっとしているだけで体が自分の椅子からはみ出ていくような気がする。声を出したらもはやそれをとどめられないのではないかと思う。
荷物をカバンの中に入れ直した。しかし、それもうまく収められない。暗いからカバンの底がどこにあるかわからない。後から後から中身が膨らんでいくような気がする。仕方ないから、膝の上に乗せて窓に寄りかかった。寝られないのはわかっている。しかし、時間は潰さなければならない。おそらく、後1時間は乗っていないといけないだろう。その間、全てを持て余しながら、目覚めているのと寝ているのとの間にいなければならない。
次に目を覚ますと、高速を降りたところだった。速度が変わると目が覚めやすい。他の人たちもぼちぼちと動き始めていた。
「ああ、お城がある」
一人が呟くのでそちらの窓を見ると、いかにも張りぼての城が国道の脇に立っていた。
「あれは、何?」
「あれは、お菓子屋さん」
そう言えば、そんな話を聞いたことがある気がする。饅頭か何かが有名ではなかったか。しかし、あれはここよりだいぶ遠い県の話だったようにも思う。
その城だけが明るく、後の景色はまた暗闇の中に呑み込まれていく。田畑すらないような、がらんとしたところを通っているようだ。下道に入ってから30分はまだかかるのだが、それにしても目的地がこの先にあるとは信じられない。
信号で止まったところにコインランドリーが見えた。オールドスタイルで、中の洗濯機や乾燥機の塗装が剥げているのが車の中からもわかる。もしかしたら今日はあそこに行かなければいけないかも知れないと思うと、急に視界がはっきりしてきた。
ennui/アンニュイ