呼ばれるまでに
「ここは何の順番待ちですか?」
そう聞かれて答えようと口を開いたが、言葉が出てこなかった。確かに、ここで待っていてくださいと言われたはずなのだが、それが曖昧な彼方に消えてしまうほどの時間が経っている。
しかし、さっきもらった券を一瞬で失くすこともあるから、案外、2分前とかかも知れない。
「あんまり把握できてなくて」
そう言って曖昧に笑った。そもそも急に話しかけないでほしい。
「なるほど」
そう言って、その人は少し離れたソファに腰掛けた。気づくと、周りにはけっこう人がいる。誰もが自分が待っていることに気が付かないふりをしながら何かを期待しているように見える。
と言うことは、何か良いことだっただろうか。
一人、立ち上がって歩き始めた。明らかに呼ばれたのだろうが、どうやってだろう。その人の足取りは重い。やっぱり嫌なことだっただろうか。
その人が行ってから静かになった。息を殺す音が聞こえる気がする。