屋根の上の合唱(一幕物風)

 月も朧に。
 維納の「れおぽるとしゅたっと」区の屋根の上には今宵も辺りに住む猫たちが集まる。

マイステル  「皆の衆、揃ったか」
猫たち    「あい」
マイステル  「シュヴァルツ、今宵こそ楽器を忘れずに持ってきたか」
シュヴァルツ 「あい、ここに」
マイステル  「弦は張り直したろうな?」
シュヴァルツ 「あい、確かに。あのにっくきドブネズミ、ブラウンの髭を使ってございます」
ヴァイス   「シュヴァルツ、貴様、嘘をつけ。俺は確かにブラウンが「ぷらあたあ」公園を走るのを見たぞ」
シュヴァルツ 「走ってったってよかろう。髭を抜いただけで走れなくなるものではあるまいに」
マイステル  「喧嘩をしている暇はない。さあさあ、皆の衆、練習練習」
猫たち    「ハア」
マイステル  「今日からわしは「跳躍」というのに挑戦するが、どうだ」
ゲティーゲルゲ「跳躍とはなんでございましょう」
マイステル  「われら猫はどうしても歌う際に「ぐりっさんど」になってしまうのがいかん」
シュヴァルツ 「「ぐりっさんど」?」
マイステル  「たとえば、低く「ニャ」から始めて「オ」で高く終わる時に「ニャーオ」となってしまつだろう。これを「ニャ、オ」と低から高まで一気に行くのだ」
ヴァイス   「しかし、それでは香り高き情緒が出ないんじゃありませんか」
マイステル  「それが思案のしどころ。お前たちのコーラスはそのまま「ぐりっさんど」でわしの歌は跳躍するのだ。これこそが「ろまあん」と革新、われら猫の芸術の面目を一新するに違いない」
猫たち    「ヒヤヒヤ」
マイステル  「それではやってみよう。シュヴァルツ、お前は弦を掻き鳴らしなさい。他のものはわしに「ぐりっさんど」で続きなさい」

 屋根の上で猫たち、てんでに歌い始める。ところどころ、弦の掻き鳴らされる音に混じって、苦し紛れな単音の叫びのようなものが混じる。
 屋根の下の窓が開き、アルノルトが顔を出す。

アルノルト  「ええい、うるさいことだ。きゃつらめ、毎夜毎夜好き勝手に歌いよる。もう我慢ならん」

 アルノルトは引っ込み、銅鍋と箆を持って再び顔を出す。

アルノルト(銅鍋を箆で叩きながら)「うるさい! うるさいぞ!」
マイステル  「やや、鐘太鼓の無い時になんたる理解者が現れたことか。皆の衆、われらの芸術の暁の来たらん」
猫たち    「ヒヤヒヤ」

 猫たち歌い続ける。そこら中から抗議の叫び声が上がる。幕。

plunk/掻き鳴らす

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