インドの説話より:ゴータ山
はるか昔のインドにナラダンカという並ぶものなき富と権勢とを誇った王がいた。
ある時、ナラダンカ王は大勢の家来を従えてゴータ山に遊山に出かけた。ここは都からも近く日頃の憂さを晴らすにはもってこいの場所だった。
その中でもナラダンカ王の気に入っていたのは、ゴータ山中腹にある崖から下の的を目掛けて皿を投げる遊びであった。しかし、今日は皿ではなく別に趣向があった。それは、金貨を投げるのである。
金貨は重く皿よりも飛ばないのでなかなか当たらない。全て投げ終わってしまうと、ナラダンカ王は並いる家来たちに言った。
「崖の下にある金貨を取ってきたものにはその金貨を丸々与えよう」
崖の高さを前に怯む家来たちの中から出てきたのはアニ・ハカラン、これは道化であった。
「わたくしめが」
アニ・ハカランは傘を広げるとパッと崖から飛び降り、ふわふわと下に着いた。
「お見事!」
「ありがとうございます」
「どうやって上がる?」
アニはギュッと言葉に詰まったが、急に服を脱ぎ始めるとそれを細く裂いて結び合わせて一本の縄にした。その先に石を結えて投げると、崖の途中の竹に巻き付いたので、思いっきり引っ張ると弾みで崖の上まで飛ばされ、そして戻ってきた。
「えらい、褒美をつかわす」
「ありがとうございます」
「して、金は?」
「あ、置いてきました」
これを聞いて釈尊は言った。
「二兎追うものは、と言うが、兎は後から後からとびでてくるのだ」
plate/皿