パンのゴーレム
小麦もミルクも水も火も、全てが値上がりして、パン屋としてやっていくには数をもっと作らなければいけなくなった。でも、独りでやっていお店だから、できることには限界がある。だから、パン屑で人形を作って、手伝わせることにした。人が土の塵でできているのなら、パン屑でできた人形は人間よりもハイランクな気がする。
パン屑の人形はよく働く。身を粉にして働く。元々が粉なのだから、それは当たり前なのかもしれない。
パンに関することならなんでもさせられる。少なくとも、パンを焼くまでは任せられる。惣菜パンの中身を作るのは苦手だし、接客などはもってのほかだ。
そうやってなんとか食いついないでいたが、また全てパン屋を続けていくことに必要なものの値段が上がった。一人と一体では到底まかないきれない。
それだったら、もう一体、作ったらいい。
もう一体作ると、それもよく働く。前のと合わせて2倍どころか3倍の効率になった。
けれど、そこまでして黙々と働かせるのが気になってきた。もちろん、何も言わないし、何か経費がかかるわけでもない。パンから生まれたのにパンにならずパンを焼いているものが不憫になったのか、あるいはただ働いているものを見るのが嫌になったのか。パン屋なんてそこまでしてやるものではない、と思ったのかも知れない。
だから、思い切って辞めてしまうことにした。
最後の営業の日が終わって、さて、どうしようかと考えた。
(まあ、食べるか…)と言うのが正直な感想だった。他にどうすることもできないから、胃の中に収めてしまうのが合理的だろう。
とはいえ、パン切りナイフで切り刻む気もせず、牛乳に浸してしまうわけにもいかず、どうにもしようがない。
仕方がないから連れて帰って、家のことをさせてみた。ぎこちない動きながらも、水場の仕事以外はなかなかうまくこなしてくれた。
そうこうする内に私が土に帰る番になった。
crumb/パン屑
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