冷透実験
建物の脇に密やかについている石の階段を降りて両開きの鉄扉を開けると延々と続く廊下がある。その行き止まりの扉を開けてさらに進むにつれてだんだん空気がひんやりとしてくる。廊下にまで冷気は漏れてきてはいないはずだから気分の問題だろうけれど、そもそも最奥は冷えに冷えているのだから、それが伝わってきているのだとも思う。しかし、外界から完全に遮断されているはずという前提は崩れているのかも知れない。
防寒服を着て扉を開ける。そこにはたくさんの管に繋がれた透明なカプセルが安置されている。いわゆる冷凍計画で、中に被験者が入ってから既に300年が経つ。その間に技術も進歩し今更こんな装置を使わなくても良くはなってきているが、科学遺産として、未だメンテナンスされている。メンテをするのは院生の中でも下っ端だが、ここにある中の一つだけは、私が常に経過を観察している。
というのも、中に透明人間が入っているからだ。
「まさか」
「うん、俺もそう思ってた。でも、300年前のデータにまさしくそう書いてあるんだ」
引き継いだファイル(紙!)には確かに被験者が透明人間であったと記されている。国主導だったのだから嘘は書いてあるまい。
透明なカプセルの中にいる透明人間は当然のことながらどうやっても見えない。しかし、毎日見ていると、人の形に結露が付いているような気がしないこともない。
しかし、起きた時、誰が気づくのだろうか。
frost/凍りつく
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