新しいバベルの塔
人類は人類によっては滅ぼされない、絶対に。
そんなこと言ってももう遅いよ、と笑う人たちから死んでいった。私は、そして私たちはそれを笑わなかった。だから、こうして、毎日煉瓦を積んでいる。
大きな戦争が四回あった。それで、人類のほぼ全てがいなくなってしまった。残った人類は長い時間をかけて一つの場所に集まり、また、最初から全てをやり直すことになった。何もかもが無くなった。でも、やり直せる。
住居、衣服、食物。そういうものを一つずつ作っていった。誰もが働かなければいけない。生きるためだから死ぬ気で働かざるをえない。大人も子供も。
そう、子供もいる。子供達は働いてばかりでは未来を信じられなくなるし、大人たちもそう。だから、たまには休む。祭りはこういう時に必要なんだというのが身に沁みてわかった。歌を歌い、舞を舞い、遠い記憶を辿って、物語を紡ぐ。そうやって、みんなで繋がっていく。これが絆だ。
しかし、繋がっても、言葉だけは、どうしてもみんなで揃えられない。昔覚えた言葉は捨てられない。私もそう。私は私の言葉しか話せない。私の子供は他の言葉を話せるけれど、全部ではない。言葉がわからない人たちと笑い合い、泣き合うことはできる。でも、深いところで通じ合えない。
だから、一緒に作ることにした。平和の塔だ。高い塔を作って、そこにみんなで住む。一心同体だ。目標があることで、心が繋がり、言葉も繋がっていく。
段々と塔が高くなる。空が近づいてくる。嬉しい。この空の上には何も無いことは分かっていても、嬉しい。私はよく一番上の階に行って祈る。何にかはわからない。
そうしたら、天使が来た。羽が生えて、火のような瞳の、大きな大きな人だ。
「よくがんばりましたね。さあ、ここに、人を集めて来なさい」
「それはどうしてですか?」
「言葉を一緒にしてあげよう。そうすれば、この先もずっと人類は存えていくはずだからね」
「いやあ、神は偉大です」
「ほんとうに。人を集めて、それで一気に刈り取ってしまうとは」
「言葉が通じないことがこれほどまでに人を不安にするとは」
「神は以前言葉を分けたのを後悔されていました。最後の時のためには一つであれば良かったと」
「これで地は獣で、空は鳥で満ちる。もはやこの地球を壊すものはいない」
「…あれ、どうやら、2人だけ、人が残ってしまったようだ。どうしよう?」
「人が2人で何ができる。放っておこう」
swept/一掃する