ブラックボックスを減らす
―中尾
先週、エネルギーの話をしましたけど、全く時間が足りなかったので、続けて良いですか?
そもそも、石油って何ですか?
―澁澤
石油ってね、詳しくはまだわかっていないんです。何らかの有機物であることは間違いないんです。
―中尾
そうなんですか?プランクトンの死骸とか、言われてますよね。
―澁澤
その説が有力なのかもしれません。
―中尾
だとしたら、限界がありますよね?
―澁澤
あります。もう半分以上使ってしまいました。
―中尾
でも、誰もそういうこと、言いませんよね?
―澁澤
石油資源ってね、ずいぶん前1900年代の後半くらいに、オイルピークっていうのですが、もう半分以上使ってしまったといわれてます。
その時点で、あと残っている石油資源、今まだ使えてない岩の中にしみこんでいたりとか、砂と混ざっていたりとかものすごく思い重質というのですが、そういうような今使われていないもの、それからこれから見つかるであろうと予想されるもの、それをすべて含めても富士山1杯分もないのですよ。
―中尾
それは、30年前に私が初めて澁澤さんの講演を聴いた時からおっしゃっていましたね。
―澁澤
そうです。だから今はもっと少なくなっています。ただ、岩の中にしみこんでいるオイルシェールというのですが、そういうようなものを岩から抜き出す、そういう技術が発達しましたから、そういう意味ではもう少しこそぎ取れる感じですかね。
―中尾
もういい加減、ない人生考えましょうよってことですよね?!
―澁澤
不思議なんですよね。誰もそれを考えないんですよね。
―中尾
というか、誰もなくなるって言いませんよね。
―澁澤
まあなくなるだろうから、例えば水素エネルギーにしましょうとか、原子力もそもそもそこから出てきた発想ではあるんですけど、なかなか明日なくなるかもしれないから、皆さん我慢してなんて言うと政治家も落選するし、経済人もそれじゃあまずいということもあって、皆さん言わないのでしょうけど。
―中尾
でもね、これだけ情報が誰でも見られる世の中だし、どんなことでも調べられるじゃないですか、その人たちごまかせると思っちゃいけませんよね。
―澁澤
だけど、ごまかせて来れちゃったんですよ。小学生でもわかるんですよ。統計数字はちゃんと出てるんですよ。何とか環境館というようなところに行けば、ほとんどその数字は出ているんです。
―中尾
見ないようにしてるんですね?
―澁澤
そう、要するに私たち消費者が見ないようにしている。
―中尾
だけど、自分は見ないようにしてもあと数年の命かもしれないけど、自分の子供どうですか?孫はどうですか?その子たちが将来困るのは嫌じゃないですか?と思ったら、考えますよね?
―澁澤
そう思ったら考えますが、やっぱり今が良ければよいかとみんな思ってしまったということなんですよ。
―中尾
いいこと言ってくれる人に乗っかりたいんですね。
―澁澤
希望の方に乗っかりたいんです。コロナだってもう終わるんじゃないかという方に乗っかりたいんですよ。
―中尾
だけど、今ニュースで地震も実際に去年の倍起きているっていうし、いつ何が起きてもおかしくないわけですよね。もしかしたら北海道にロシアがやってくるかもしれないし、昔そういうことを経験したことのある人は危機感を持っていますよね。だけど経験のない人たちが不安になるのは嫌だから良い方に乗っかろうとするんですけど、もう一つ年代を越えて今の若い20代前後の人たちはこれから長いですから、ものすごい危機感を持っていますよね。
―澁澤
今のZ世代と言われている人たちは、その意味ではとても冷めてクレバーに、冷静に見ています。
―中尾
だとしたらば、その人たちに向けて、この年代がどうやって100歳まで生きるかというところに焦点を当てた方が良いですよね。
―澁澤
長く見ればその通りで、そういう社会にならなければいけないと思います。ただ、この放送を聞かれている多くの方たちは、自分たちは今日が大変なんだ。今日のローンが落ちるか落ちないか、今日の電気代がいくらなのか、そんなことを言う余裕があるのは澁澤さんと中尾さんですよねということになってしまう。そういうことによってある意味、安心してしまうのです。一方でガソリン代がとても高くなりましたといいます。だけど、冷静に考えてみると、ガソリンというのは、1億数千万年かけてつくられた、石油資源の本当に揮発性のある上澄みの部分、本当にわずかな希少部位なんです。それが1リットル170円です。では、生ジュース1リットルいくらですか?コーラは?本当に安い値段です。高くなったといっても、湯水のように使っているのです。
―中尾
そうですよね。実際現実がそうなんだということは、考えなければいけないと思います。
―澁澤
経済は進化します。科学技術も進化します。それはまさに右肩上がりで後戻りはしません。だけど地球は進化しないんですよ。同じ分量のものが同じ太陽エネルギーによって何億年とグルグル回ってきた。これが地球というものですから、そこに人間が合わせることができないと、人間という種はこの地球上には多分生きられないんですよ。
何となくその切迫感は持っていて、ちょっとみんなの考え方がぎすぎすしてきた。それによって、世の中がおかしくなりつつあるのかなという気はします。
―中尾
そう考えたら、この先日本はどうやって生きていくの?という日本の問題ですよね。
―澁澤
私はやはり地方が多いですから、地方にいくと荒れた農地、人が住まなくなった村、どんどん増えて、みんな都市に行きます。しかもその都市の生活はまさに海外[中尾1] に資源とエネルギーを依存した暮らし。だけど一方の日本の野山は荒れ放題になって、その上をソーラーパネルが覆って、そのソーラーパネルはまだ20年後に回収して、どうやってリサイクルできるかという方法はまだ見つかっていないし、20年間ソーラーパネルがあったら、その下の土の生態系は全部破壊されますから、そこを農地にすることもできないし、山は土砂崩れするし、本当に悲惨な問題です。それは農村の問題、過疎地の問題ではなくて、今の日本人の心を映しているのが日本の風土だと思います。
―中尾
だから、太陽と土と水と、日本はちゃんと利用しましょうよ。もったいないですよ。世界中にあるものではないですよね。
―澁澤
その中の暮らしをどう作って行けるかだと私は思います。
そういう意味では、わからないものをなるべく減らしていきましょう。
生活の中のブラックボックスを一つずつ開けていきましょう。
自分の使う電気はどこから来た電気で、あるいはどのくらいの電気量を使えばよいのか、あるいは食べ物は自分がつくらないにしても、あの人があの場所で作った食べ物を今日食べるんだと。そういうような自分が生きるということのすべてを、なるべく自分でハンドリングできる暮らしにもう一度戻していく以外に、その中で心の安らぎだとか喜びを見つけていかない限り、人類はこの地球上では長くは生きられなくなると私は思います。
―中尾
それは何も、私たち薪を持っていないから薪でお風呂沸かせないよじゃなくて、今遊んでいる土地と自分の生活をどうつなぐかとか、いろんな考え方がありますよね。
―澁澤
今、Z世代の人たちがとてもキャンプが好きですよね。それはもう一回自分の肉体や自分の命を自然の中に置いてみたいという、ぎりぎりの切羽詰まった心の現れかもしれないんですよね。
―中尾
土地と地球と人間と一体化した生活をもう一度考えませんかってことですね。
―澁澤
イザベラバードという人が幕末に来て日本のことを書いているのですが、鉛筆で農地を耕したように一本の雑草もないし、全く無駄な土地もないし、ものすごく手をかけて日本人たちは生きている。それがとても美しい光景だと書いているんです。
―中尾
江戸の末期ですね。
―澁澤
そういうような、自分たちが生きていくものとして、どう地球を利用して、遊んでいる地べたをつくらないで、その中で必死で生きて来て、だけど喜びは見つけてきた時代。その時代に戻るのではなく、新しい時代をつくらなきゃいけないかもしれない。
―中尾
それ、楽しいですよね。どんな生活にしようか、どれくらい働いて、どんなものを食べて、10年後、20年後どういう生活をしようかって考えるのはとても楽しいです。
―澁澤
私と中尾さんは両方を見てきていますからね。ものすごい便利な今と、だけど江戸時代と大して変わらない生活をしていた60年前と。
―中尾
たった60年。私生きてましたからね。だからできるよって言えます。