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風の神様

 伊勢に行くのは、小学校の修学旅行以来でした。6年生の年の4月に私をとてもかわいがってくれていた祖父が亡くなったのですが、内宮に入る前に、付き添いの先生から身内に不幸があった人は鳥居をくぐってはいけませんといわれました。「なんでですか?」と聞くと、「決まりだから」と簡単な言葉で片づけられたことがずっと胸の奥に引っかかっていました。神宮には、内宮にも外宮にも、たくさんの鳥居があって、その都度脇へと列を外れていたので、特に印象に残ったのかもしれません。

 それから20年後、32歳。広告代理店から千年の森シンポジウムの事務局担当として伊勢に向かいました。
 伊勢の宇治山田駅でご案内くださる神職さんと待合せました。その日は7月のとても暑い日で、宇治山田駅から外宮さんまでは歩いて5分ほどですが、伊勢の神社は一つ一つがとても大きいので、中に入ってからよく歩きます。
 外宮さんを参拝した後、バスで猿田彦神社へ向かい、そこからはおはらい町を通って内宮までは約1kmくらいでしょうか…宇治橋についたときにはもう汗びっしょりでした。
宇治橋を渡り、五十鈴川の御手洗場(みたらし)で身を清めて、瀧祭神(たきまつりのかみ)にご挨拶をして、そこから緑の道を抜けると宇治橋を小さくしたような橋にでます。この橋を渡ったところの両脇にそびえる高さ30mくらいありそうな、緑のコケが付いた大きな木を見上げていると、とてもさわやかな風が通りすぎていきました。

 「ここは風が気持ち良いですね」…と、思わず声に出すと、ご案内してくださった神職さんがおっしゃいました。
 「ここには風の神様がいらっしゃるのですよ。新しいお社ができましたので、来週あちらにお移りになります。」
 「風の神様がいらっしゃる」・・・ なんとも優雅で美しい神職さんの涼やかな語り口に、目を閉じると、ひんやりと心地よい風が私の頬をひと撫でして通り抜けていったのです。
 その風を感じた瞬間、伊勢神宮ができた1300年以上も前に、この場所で、今の私と同じように風の心地よさを感じた人たちが、風の神様をおまつりしたのかな。緩やかで、風に神を感じる柔らかい感性が好きだなぁ と思いました。
 人間ももちろん自然の一部で、だからこそ、風の神様と一体となって、1300年以上も前の人たちに、心を寄せることができたのだと思います。
このお社は、「風の日を祈る宮」とかいて、「かざひのみのみや」とよみます。

 こうして、風の神様に出会ってから、私は何をするために生まれてきたのだろうかと考えるようになりました。
 そのころの私は、命をつなぐという意味で、子どもを作ることは当たり前だと思っていました。
 けれど、こればっかりは神様の授かりもので、結局、子どもには恵まれませんでした。
 それならば自分や人間だけが幸せになるのではなく、1300年前の人たちが風の神様をお祭りしたように、森や海、光や風や水など、言葉を持たないすべてのものに心を寄せて生きる方法はないかと、考えました。
そうして考えてみると、日本には「鎮守の森」がありました。森には水があり、食べ物があり、木は材木にも燃料にも繊維にもなります。人が生きる上で必要なものをすべて賄ってくれる森、そこにこそ神様がいるのだと私自身が思うようになりました。田畑を作っても、森を切り開いたことを忘れないように、自然に対する感謝の場として残したのが鎮守の森です。そこに人々は集い、お祭りをし、収穫を祝い、また一年、この場所で生きていこうという覚悟をします。そうした自然と共に生きた人々の暮らしや知恵を伝えていく役割なら担えるのではないかと思いいたったのです。

この年、伊勢では20年に一度、1300年も続いている「式年遷宮」という行事が行われていました。遷宮というのは「お宮を遷す」と書きます。神職さんがおっしゃった「新しいお社ができましたので、来週あちらにお移りになります」という言葉の通り、わかりやすく言うと「神様のお引越し」。
これを機に、猛烈に神様への興味がわき、外宮さんのトヨウケノオオカミとは何者かとか、猿田彦神社には猿田彦の妻となったアメノウズメもまつられていてうれしくなったり、ツクヨミノミコトをまつる「月夜見宮」は「月夜を見る宮」と書くものと、「月を読む宮」と書くのと2種類あることに気が付いたり・・・

ここからは、ラジオではお話していない伊勢のお話。

伊勢には、「神路通り」という細い道があります。長さ4~50mのどこにでもあるありふれた道なのですが、この道はツキヨミノミコト(月夜見尊)の月夜見宮と、トヨウケノオオカミ(豊受大神)の外宮を結んでいて、神様がお通りになる道です。地元の子供たちは、親から「道の真ん中を歩いてはいけないよ。真ん中は神様が通るからね。」と教えられます。伊勢に行かれたら、ぜひ、この道も通ってみてくださいね。

私が伊勢に行くときはまず外宮さんからお参りをして、神路通を歩いて月夜見宮に向かい、その日は河崎町を歩いて河崎商人館にご挨拶をして、近くの「つたや」でかつ丼を食べ、夕方には伊勢市駅近くの「向井」という居酒屋さんで食事。翌朝、早朝にもう一度外宮さんに参拝し、外宮さん前の茶屋で朝がゆをいただき、それから内宮へ。内宮さんを参拝した後は、おはらい町で昼食をとり、夏なら赤福で赤福氷をいただき、猿田彦神社へ。

もう少し時間に余裕のある人は、朝熊山と瀧原宮はぜひ行ってみてください。そして、お土産は二軒茶屋餅が私は好きです💛

長くなるので、神様のお話はまたの機会に。




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