シアノバクテリアと概日リズム
「お主、概日リズムって知っておるかな?」
「姫、なんですか?急に、アカデミックですね???」
「妾は、いつでもアカデミックじゃ!」
「(そうだっけ?)はいはい!それって、1日の今、何時か?っていうのは、実は、個体が覚えているってやつですよね???」
「個体がっていうか、な・・・。実は一つ一つの細胞に時刻を記憶している証拠があるんじゃな。」
「細胞レベルで、覚えているんですか?」
「そうじゃ!それも、かなり原始的というか、小さいシンプルな生物でもそれを持っていることがだんだん明らかになりつつある。」
「へー、なんかすごいですね!?」
「シアノバクテリアっというのは、な。光合成(や窒素固定などの還元)機能を持った微生物の総称じゃが、そのうち、水生のシネココッカスってやつは、単細胞で、とてもシンプルに生きているんじゃがな、こいつでも、概日リズムがあるんじゃ!」
「へー!?っていうか、何のことだかわかりませんね。そこまで行くと???」
「例えば、光合成には、日光がいるじゃろ?すると、夜と昼をいち早く区別できた方が、準備ができて効率が良い。」
「それはわかりますけど?でも、目があるわけでもないし、そもそも細胞一つっきりなんですよね???」
「そうじゃよ。それも、こいつはこいつ自身が、光合成をする葉緑体自体のようなやつなんじゃな。」
「あ、それは聞いたことあります植物の葉緑体ってやつは、もともと、光合成して、有用な有機物を還元合成できる別の微生物を取り込んだんだそうですね。」
「それが、今いるシアノバクテリアの祖先と同じやつなんじゃ!」
「へー!すごいですね。で、それが光合成の準備をするために、時刻も覚えているってわけですか?」
「「目的的に」いうとそういう面もあるんじゃが、まあ、もともと進化は偶然の産物じゃからな!たまたま、そういうことができる奴が、変異などでできると、効率良く暮らせるので、できないやつより、適応度が上がるじゃろ?すると、適応度が低い株を駆逐して、それが優勢になる。」
「なるほど、そのような小さな「改善」の繰り返しが、長い時を経ると、決定的に違う生命になるというわけですね。まるで、トヨタの”カイゼン”みたいですね!確かに、たゆまぬ改善が、長時間経過後には他を引き離していますね!」
「それが、いわゆる大進化じゃけどな。ま、今日は、そこまでツッこんだ話はせん!」
「でなぁ、シアノバクテリアについては、2004から2006年頃のサイエンスに出た論文で、ちょっと、面白いことがわかったことが報告されているんじゃよな。」
「へー!?なんですか?」
「普通、細胞レベルでの概日周期、概日リズムっていうとな、いわゆる生物学のセントラルドグマ(DNAに書き込まれた遺伝子のコードするタンパクを、mRNAへの転写を介して、リボソームというところで、翻訳生成する仕組み)の枠組みで、決まった時刻には、ある特定のタンパクのコードのデコードが始まり、必要なタンパクを前もって作り始める、というのが一般的で、これは様々な生命現象で知られている。ほとんどの生命体が持っているじゃよな。しかしな、それよりより、シンプルなある特定のタンパクで、そのリン酸化ー脱リン酸化のサイクルが、二十四時間周期で変わることがわかったんじゃ!」
$ これは、名古屋の近藤孝雄先生の研究室の業績で、一連の結果が、
$ サイエンスばかりでなく、より専門性の高い学術誌などに
$ 今でも、バンバン出ている。さらに、それを見て、様々な分野
$ から、その仕組みを明らかにしようと研究が進んでいるらしい。
「リン酸化ー脱リン酸化は、様々なエネルギー代謝や物質の代謝のサイクルで、本質的な役割を果たすのでな、これが二十四時間周期で自発的に変わるというのは、そうだとすれば、もちろん、納得できるものじゃが、しかし、実験室で、きちんと確かめたのはすごい!」
「本当に、すごいですね。進化の仕組みとセントラルドグマはシンプルなだけに、長い年月は掛るものの組み上がった建造物には畏敬の念を抱かざるを得ないことが多いです。」
「シアノバクテリアの祖先が生まれたのは、今から、18億年ほど前とも20億年以上前とも言われているが・・・・・な。いわゆるカンブリア爆発が、5億4000万年ほど前じゃからな、それまで、数億年、着々と酸素の蓄積を作ってくれてたとも言えるんじゃよなぁ。」
「偉いやつですねー!」
「ま、本人たちは、光合成(や窒素固定)は、自分たちが生きているために必要だからやっているだけで、酸素を作ることが目的ではない。むしろ、酸素は悪いやつで、二酸化炭素から、炭素を還元・分離して、もっと役に立つ有機物の合成に使っている。酸素は、いらないから、捨てているんじゃよな。」
「しかし、こいつらが生まれてから、10億年以上もせっせせっせと廃棄物として、酸素を吐き出してくれたおかげで、それを使って、活動する別の生命体が生まれ、どんどん進化して、現代の状況にあるんですよね。」
「そうじゃよ。それは人工ではなかなかできぬ。とても、あの小さな体に詰め込まれているとは思えない、精巧で、繊細、かつダイナミックな機能じゃよ。」
「脱炭素って言いますが、本当は脱酸素なのですかね?炭素や窒素にくっついた酸素を外して、炭素や窒素を、もう一度、役に立つものにリサイクルすることが大切なんですよね。」
「窒素固定もそういう見方もできるな。酸素がくっついている状態が燃えかすで、それを還元すれば、原料・燃料に戻せる。」
「空中の窒素も、還元されるんですか?」
「N^2 は、三重結合を伴う強固な分子で、これを開いて、窒素還元物にするのもなかなか大変じゃよ。」
「水俣などで、事件がありましたよね。」
「そうなんじゃよね。人工でこの窒素固定をやる方法は、昔から、ハーバー・ボッシュの方法というのが知られているんじゃが、これはかなりの高温高圧状態を作って、非常に暴力的に無理やり三重結合を開くらしい。」
「シアノバクテリアは、高温高圧でも生きていられるんですか?」
「いや、違うんじゃ、窒素固定をするシアノバクテリアは、ノストックやアナベナ のような奴らなんじゃが、常温常圧で、スルッと還元して見せるんじゃよ。」
「へー、すごいじゃないですか?」
「そうなんじゃ、このような窒素固定ができるのは、このノストック亜目のシアノバクテリアのほか、根粒菌やアーバスキュラー菌根菌など、微生物だけなんじゃ。基本的な組成を人工でやろうとすると、大抵、最初は、巨大で、大げさで、莫大なエネルギーが必要になる。」
「生命現象をお手本にして、もっと、滑らかにしなやかにやろうとする試みは様々な分野で今、進んでいるんですよね???」
「窒素固定もそのうちの一つじゃな!」
「それでな、色々な発見がたまにニュースになる。少しづつ進んで行くので、SDGsなども睨んで、ぜひ、そのような基本的な基礎研究にも、回るような仕組みを増強して欲しいな。」
「より良い仕組み、システム、プラントを作って行くには、まずは、そのようなしなやかな生命現象の仕組みをなるべく、精密に解き明かすことが必要じゃな!」
「はい、皆さん、頑張って欲しいです。」
「地球温暖化なども、持続可能に対応するには、こういった基礎的な研究がものすごく大切じゃ!遮二無二やると、結局どこかで、高エネルギーを使うことになり、それを賄う過程がネックになり、問題を横にずらしただけになりかねない。」
「おっしゃっていること、わかります。難しいでしょうけどね。」
「数理科学も、そこで、傍から、様々な知恵を出して、お手伝いできるポテンシャルは秘めていると思うぞ。」
「ぜひ、色々な方面から、知恵を結集してください。」
「遺伝子レベルから地球規模までの見据えた基礎的な研究が、ますます大切な時代じゃと思う。」
「同感です。頑張りましょう!」
「そうじゃな!」
「SDGs や地球温暖化阻止などのアクティビティも、大声で文句をいうだけのアジテーションではなく、もっといい方向へ向かうことを祈っています。」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?