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私のドッペルゲンガーは相変わらず実に嫌な笑顔をこちらに向けて
「御挨拶ですな 私はただ貴方に我がクイーンの恵みをあげようと思っただけなのですよ」
と言うと、内大臣が汲んでいた海水に袖を浸してからこちらにやってきた。
「さあ 舐めて見なさいこの砂糖中毒者」
グラスの隙間から奴の濡れた袖が差し込まれた。
私はしばらくためらっていたが、奴が焦るでもなくニヤニヤしながらこちらを見下ろしてくるのが続くのがいい加減嫌になって、奴の袖から海水を舐めとった。
と、ワイングラスの硝子上に白い靄のようなものが現れた。
それは見る見るうちにグラスの表面を覆い、ついにすっかり周りが白くなった瞬間にガラスは消失した。
そして私は目の前の奴と同じ姿に戻った。

私は明文にこの状況について問うた。
「あれか?某大賢者の如く決闘するやつか?」
「残念ながら私は影ではないのでね それにこの姿は騎士のものではない」
「ならこいつが騎士になればよいのか?」
いきなり主が会話に入ってきたので私も奴も一瞬黙った。
ややあって奴が
「やってみる価値はあるんじゃないか?」
と言った。
主は頷いて
「ディン ロ ルーテミア メット、
ネック レゲツァーエク FF ミン ウフディディクスメン」
と唱えた。

その瞬間、私は背後から気配を感じて振り向いた。
トビウオが一匹、ものすごい勢いで私めがけて飛んで来て、私はそれにぶつかって明文もろともぶっ倒れた。

気づくとなるほど私と明文は銀の鎧をまとう騎士の恰好になっていた。
そして影たちが私と奴を取り囲んでいた。
内大臣、楽師団長、輔弼大官は相変わらず鳩、雀、鴉をそれぞれ頭に止らせており、内大臣は人間サイズになった鍵盤ハーモニカを、公爵はまだ羅針盤を、そして宰相は赤ワインと思しき液体の入ったワイングラスを持っていた。

その宰相が一番に発言した。
「酒が間に合ったようで何よりです それで 武器と場所は指定しましたか」
言われて私たちは武器を持っていないことに気づいた。
しかし鎧をまとっているのに拳で殴り合った所で攻撃側がダメージを負うのみである。
私たちはしばし何を武器とするか考えた。
条件は同じなのだから、なるべく手になじんだものが良い。
「トング」
明文がそう声を発したのは、私がペットボトルを思いついて、正に言おうとした瞬間だった。

「よろしい ではもう一人の方、場所を決めてください」
宰相はそういって船倉へと向かった。
私は
「女王の面前」
と叫んだ。

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