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学士団長はこう語った。
「嘗てバビロニア王がアラビア王を自らの迷宮に招き、その迷う姿を笑った
それでアラビア王はバビロニアを征服し王を砂漠に置き去りにしたのだ

また、有る天才は自らを狙うものを罠にかけ、鏡で囲まれた空間に閉じ込めた
時間がたって水を求め出した彼らに対し、彼は雨の音を流してやったそうだ

また、ある迷宮の部屋の一つもやはり砂漠でできているらしい
そこは花嫁と花婿が式を挙げる部屋でもあるのだが、互いが互いに近づいたときにはもう相手が自らの伴侶と認識できなくなっているそうだ

こうしてみると、砂漠というのは迷宮に違いあるまい」

なるほど。私は納得した。
私がすべきことは女王を見つけ、迷宮を抜け出すことなのだ。

「では、お前たち。女王は何処にいるのか。」
彼らは薄ら笑いを浮かべ、互いに話すのを譲り合うそぶりをした。

ややあって公爵が答えた。
「女王は、この世界の果てにいる」
「そうか、どの果てだ、東か西か。」
言ってから方角がわからないことに気づいた。
「ここから左に進んだ果てか、正面か」

公爵は首を横に振った。
「御前は時間と空間は元来一つなことをご存じか
女王はこの世界の、時間の果てにいる
どの方角の空間の果ても、正に女王のいるところではない」
時間と空間が一つであることは、聞いたことがあった。然しその原理はよく理解し得なかった。

「時間の果てには、どうやってたどり着くのだ。」
また、彼らは譲り合うそぶりを見せた。
今度は宰相が答えた。

「その問いには、我ら六人とも自らの答えを有している
互いに食い違う六つの答えを
然し、その答えは何れも御前にとっての答えではない
御前にとっての答えは、お前自身が見出さねばならぬ」

「ふむ。求婚者たる王子にとってふさわしい試練だ。」
私は言った。言いながら、この試練の不可能性を感じた。
然し私はやはり求婚者であり王子であった。
この試練が不可能であっても、この試練に挑むことに、深い喜びを感じていた。

私は六人に、それぞれの答えを説明させようとした。
しかし、彼らは影であり、筋道を立ててその答えをべることが出来なかった。
彼らは分岐点の一方を示すこと、私に何事かが起こった時の対応方法について述べることしか出来なかった。

やむを得ない。私はとりあえず正面方向へ歩き出した。
影は影らしく、私についてきた。

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