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輔弼大官は横目で私を見た。

「御前は私に名付けられることを望むのか?」
蛇は私の問いに気を良くしたようだった。
「これはこれは、全女性に共通する望みを儂に叶えさせてくださるとは。
それが出来る御方であれば、名付けられることを否むはずがないな」
公爵が小声で説明した。
「全女性の望みというのは自ら望むことを成す事だ。老婆が昼か夜かの半日だけ若娘に戻れるという伝説のネタだったか。」
宰相が
「するとこの受け答えがテストということか」
と呟いた。

私は少し愉快な気持ちになって、
「何か呼ばれたい名はないか?」
と尋ねた。

「名で呼ばれたくはない。呼び名については、王子様が儂の事を我が主と呼ぶなら、王子様のことを我が長と呼ぼうと思って居る。」
面白いと思い、そうすることにした。

私は名を考えた。
「この木の頭文字の音、fはどうだ?」
「悦ばしいことだ」
こうして蛇は我が主となった。

未だ水は引いていなかった。
待つのは苦手ではなかったが、井戸の上は狭すぎて退屈を打ち消す一切の手段が絶たれている。為にストレスは異常に溜まる。
耐え切れなくなって私は、木に登ることを宣言した。
宰相が賛成した。他の影も反対はしなかった。
ただ我が主は「疲れ切って木から手を放し、真っ逆さまに落ちるかもだぞ?」といった。
私は笑って頷いた。
主は頷き返して、器用に幹を上り始めた。
私も続いて上りだした。
影はやはり影らしく付いてきた。

植えたときには背丈十倍ほどの高さに見えたが、その3倍ほど登っても梢を見ることすらならなかった。
疲れが問題ではない、ここでも問題になるのは単調さであった。
私は主に、少し休むと声をかけ、手ごろな枝に体重をかけて下を見下ろした。

見渡す限り水であった。

風か潮か、はたまたあふれ出た勢いの余剰か、水はぐねうねと蠢いていた。

主が私の顔の方へとにじり寄って、
「巨人になったようだな」
とささやいた。

そうして
「長の目線の反対側、丁度幹で隠れたところに島影を見つけた。どうする?」
と問うてきた。

「方法があるなら、ぜひともそこへ行ってみたい。」
「方法はある。この木を舟とするのだ。」
「なるほど、しかし、作業の場がなかろう。」
「儂が梢へたどり着けば、長の権能で瞬時にこの木は船と化す。問題はそこではない。」
「では、どこに。」
私は主の目を覗き込んだ。

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