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家を買ったら転勤命令、そんなの当然じゃないですか


この世界には、「家を買ったら転勤を命じられる」という都市伝説がある。

確かに私自身も、会社員時代にこの怪奇現象を幾度となく目にしてきた。

当初は「人事って性格悪いんだなー」くらいにしか思っていなかった。
が、転勤制度のある様々な会社(特に日本の大企業)でもこの謎の現象が同時多発しているようで、どうやら私がいた会社の人事だけがねじ曲がっているわけではなさそうだと思うようになった。

これは、どういうことか。

「家を購入するタイミング(多くは30~40代)が、社内で中堅ポジションとなりキャリアアップの時期と重なるから」という説もあるようだが、私は違う見解を持っている。




近年の住宅価格は急騰しており、都心近くであれば最低でも8000万円はするそうだ。

そんな超高額な買い物を、会社員が現金一括で払えるわけがないので、人々は当然のようにローンを組む。

驚くべきことに、昨今では50年ローンも一般的になりつつあるようだ。



ローンを組んだ瞬間に会社にバレるかどうかは知らないが、少なくとも住宅ローンの存在は年末調整で会社にバレる

機転を利かせ、住宅ローン減税の申請を年末調整ではなく、確定申告することで、隠密突破を試みる者もいるかもしれない。

しかし、そうはさせまいと会社は防衛線を張っている。

その防衛線とは、住宅手当をはじめとする福利厚生だ。

持ち家の有無によって給与が変わるようであれば、従業員はイヤでも申告せざるを得ない。

住宅関連の福利厚生を設定している企業の真の狙いはもはや、持ち家の有無を監視し、その背後にある住宅ローンの存在を察知するためなんじゃないかとすら思う。

会社は基本的に、従業員が持ち家に住む=家を買った=ローンを組んだ、と認識する。
例外ケースは無視できるほど少ないのだろう。

すると、どうなるか。

「あなたは多額の借金を返済しなければいけないのですから、少々キツい人事をしても、会社を辞めませんよね。んん?」

となる。

配置をミスっても辞めないとわかっている人材なら、会社は思い切った人事異動ができる。

こうしてめでたく、ローンを組んだと思しき従業員は、”酷使OK人材”として認定される

言い換えれば、ローンを組んで家を買うことは、会社への忠誠を誓うことにもなる。

もちろん、これはイチ企業としての問題に留まらない。

“家を買ったら飛ばされる現象”が日本のいたるところで観測されているのは、もっと根深い構造があるからだと考えられる。




そもそも国は、国民から少しでも多くの税金を徴収したいのに、なぜ住宅ローン減税という策を打ち出しているのか。

国土交通省によれば、住宅ローン減税制度は以下の目的のために創設された。

  • 住宅取得者の初期負担を軽減して住宅取得を促進する

  • 住宅建設の促進を通じた内需の拡大等に資する

要するに、住宅購入の支援と経済活性化である。表向きには。

特に経済が冷え込んでいる時に、国は減税策を拡大してきた。
そこには、「どうしても国民に家を買ってもらいたい」という思惑が透けて見える。


では、住宅ローン減税政策における国の本音はなんなのか?

「家を買ったらお金がかかるよね。大変そうだよね。だから少し税金を安くして助けてあげるよ。」


な わ け な い !


真の狙いは、労働力の確保だろう。

“夢のマイホーム”なるものをちらつかせ、人々を借金漬けにすることで、長期間働いてもらうことができる。
長期間働いてくれれば、その人からより多くの税金を取ることができる。

つまり、国の立場からすれば、長期的な徴税メリットが、短期的な減税によるデメリットを大きく上回るからだと考えられる。

為政者としては、人々がローンを組んでくれることはとても良いことなのだ。


さらに、人々が働いてくれていると、税金を徴収できるだけでなく、統治体制の強化にもつながる。

「大衆は忙しくさせろ」という鉄則がある。大衆にヒマを与えると、良からぬことをたくらみかねない。

エジプトでピラミッドが建造された目的だって、雇用創出と労働者の確保による「中央集権体制の強化」と言われているほどだ。



だから国にとっては、安定した収入のある人には積極的に、かつできるだけ多額の借金をしてもらいたいのである。
私のような無借金FIRE民は、国にとっては迷惑な存在にちがいない。

大衆を借金漬けにさせることが国策だとすれば、住宅ローンを組むということは、勤め先のみならず、国に対しても忠誠を示すことになる。

国民が「将来、年金もらえない」などとどれだけ不満を述べようが、住宅ローンを組むという"行動"で国家に忠誠を示している以上、国は安心できるのである。

少なくとも住宅ローンを組む人は、このような視点も持っておくべきだろう。




会社員時代、北海道で比較的幸せに暮らしていた私が、東京転勤を命じられてからしかばねになったように、「どこで生きるか」は極めて重要な問題である。



前職の会社では、異動辞令は密室で口頭伝達するという慣習があった。
おしゃべりな上司に、その真意を訊いたことがある。


「なんで異動の辞令っていつも口頭で伝えるんですか? メールでよくないですか?」

「本人が辞令を承諾したかどうかを、少しでも早く確認したいからね」

「え? じゃあ承諾しませんと言うこともできるんですか?」

「できるけど、社命に従わないことの報いは受けるよ」

「・・・」


部下に異動辞令を伝える上司だって、内心ではビクビクしている。転勤が伴う異動辞令は、さらに心臓に悪いらしい。
「じゃ、会社やめますねー」なんて部下が言い出さないよう、平穏にコトが済むのを祈っているとのことだった。

そんな上司にとって、ローンを組んで家を買った部下とは、さぞ格別な存在なのだろう。




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