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不健康診断日和

先日新宿へ行ってきた。人混み苦手な私が乗り換え以外で降り立つのはここ暫く年1の健康診断の時だけ。なぜかうちの会社の健康診断は新宿なのだ。自他共に認める方向音痴の私は、今まで何回か新宿で遭難しかけてる。どうしても目的地へ着かない。地下から脱出出来ない。そんなこんなで新宿はプライベートで出向かない場所のひとつだ。

去年の健診は、確か地下繋がりで行こうとして路線またぎの出口が分からず右往左往し、健診前に不健康に陥る状態だった。普段は人に聞いて難なく過ごせるのだが、朝ラッシュ時の新宿は人がマシーン化してるので聞けるどころの騒ぎじゃない。能面のような顔した人達の流れが途切れることなく濁流のように動いてる。それ見るだけで気分が滅入る。そしてなぜか駅員が恐ろしく少ない。通路が多く複雑すぎて標識通りに進んでも迷う。そもそも朝ラッシュ時はそこら辺で立ち止まっていたら流れてくる人達の妨げになるので立ち止まることも出来ない。下手に止まると、携帯見ながら歩いてる人にぶつかられるか、無表情通勤者達の「なんでここに立ってんの?」的な視線に耐える事になる。端に避けると今度は案内表示が見えない。つくづくああいった場所を毎日通勤してる人達を尊敬する。私には無理。

で今年は初めっから地上へ出る事にした。多少遠回りになっても息できるだけいい。なんで毎回健診受けに行くのに不健康にならなきゃいけないんだ。目的地に着いたときには思いっきり疲れて気分が落ちてるので、どう考えても通常の数値が測れるとは思えないのだけど。
退職理由に「健診が新宿だから」って書こうかしら。それはそれでおもろいな。

と言うことで私にとって辿り着けば健診は終わったようなものなので、後は滅多に見ないもの達にキョロキョロして楽しんでる。
昨年と大きく違ったのが受診者の予約受付設定で、今のご時世反映して物凄く人が少なかった。確かいつも結構な人がワサワサ居て、次の検査待つ時もぎゅうぎゅうだったのだが、今年はその待ち合い場所も隣には人が座れないようスペース確保されているし、どこ行っても人同士が密接にならないよう配慮されてたので快適だった。

ああいったみんな同じ検査着とかになると、人間が出るなーといつも思う。これは銭湯とか温泉とか行って裸ん坊になったときもそう。洋服やアクセサリーなどの個性を表すものがなくなると、いや、みんなフツーの同じ人よねと思う。というより、より一層その人の持つ人間性みたいなのが現れやすくなってるんじゃないのだろうか。温厚そうな人はなんかそんな気配だし、ドヨーンとしてる人はそのまんま出てる。
看護師さん達も大変だなあといつも思う。健診やってる病院などはひたすら健診者が来るわけだから、その検査担当の仕事をずっと繰り返してることになる。受ける人は「初めまして」だから検査前に説明されるのだが、その言葉もまるで機械が喋ってるように一語一句同じ文言が繰り返される。言葉が出ている間合いも全く同じ。大変だなあ。あれもそのうちAI化されそうだな。
そのせいかは知らないけど、出してる声色は優しいし言葉遣いも丁寧なのだけど、目は全く笑ってない。生きてない。ここでも私は機械相手に喋ってる気になる。なんだかなー。

でもさすが看護師さんなのは、私がちょっと歩きにくそうだとかの気配を察すると、その機械だった目に一気に生気が戻り、ものすごい暖かな空気に変わる。彼女達は本来「助けたい」人達なのであり、その気配に人より敏感だ。そして相手に「安心感」を与える空気をかもし出す。そしてそのやり方がとても自然だ。相手に「やってあげてます」的な負担を与えることなく見守ってくれてる。ありがたいなと思う。そして私が無事事なきを得たことを確認すると、一瞬でまた能面の顔に戻り機械音声の文言が別人に向けて繰り返される。大変ね。

検査自体もどんどん近代化効率化されてくから、年1だとその違いに驚く。まあ去年と今年ではあまり変わってなかったけど。
身長体重測定も今じゃひとつの機械で一瞬でデジタルアウトされ、肥満率や筋肉量まで載った紙をその場で渡される。視力検査は言葉で「うえ。した。」と答えるなではなく、向きに合ったボタンを押すようになってるし、超音波も吸盤をペタペタ貼られるだけで一瞬で終わる。
バリウム検査は私は身体に合わないので、もうしばらくやってない。一昨年位までは「やりません」と言うと、受けないことでどれだけリスクがあるかとかコンコンと言われたりしてたが、最近はやらない人も増えてるから「分かりました」ですぐ通るので有難い。バリウム飲むとその後ものすごく気分悪くなって使いものにならなくなるからだったのだが、多分いま仮に受けたとしても、今度はあのクルクル回される機械で自分の身体を支えてられる握力が無いから、回される度にずずずーとずり落ちる事になるんだろう。それ想像するとやたら面白いから、それ見たさにやってみようかしらとか思っちゃう。いや、絶対撮影出来るレベルじゃないと思うんだよね。上下逆にされた時なんてどうなるんだろう。しかもゲップを我慢しながら。自分がひゃーひゃーしながら必死に耐えてる姿と検査担当者のあたふたした姿を思い浮かべるともう可笑しくって仕方ない。おもろいだろうなー。

検査終わって帰り前の受付待つ間に新宿の外を見る。ビルの上から新宿駅近くの人の流れを見る機会なんてそうないから(新宿来ないし)、信号変わる度に多方面から流れ出る人の動きをただただ不思議そうに見る。よくぶつからないなあ。キョロキョロしてる人もいない。みんなどこへ行くのか分かっているかのようにスルスルと流れていく。そして信号が変わるとピタッとその流れは止まり、代わりに車が一斉に動き出す。人も車もその数がハンパないから、上から見るともう何かオモチャでも動いてるようだ。現実味がない。
でもここが終わって下に降りれば、自分もあのオモチャの1つに入るんだなと思うとそれも可笑しい。きっとその1つのオモチャだけは、さっきの流れの中であちこちキョロキョロしてるんだろう。自分がどこへ行くのか分からないから。やたらデカイ看板に「デカっ!」と思うし、交差してる横断歩道で「私はあっちに行きたいのにー!」と思いながら交差できずにもう一回信号待ちしてるし、広すぎる道路の中央帯でもし信号変わったらあんなビュンビュン車が往来してる所じゃ風見鶏のようにクルクル回っちゃいそうだなあーとか思ってるし。

お家帰ったら人あたりで完全にやられてドヨーン。滅多にならない頭痛もなったりして、つくづく都会は向かないなぁと思う。
健康診断行って具合悪くなってるんじゃしょうがないなーと思いながら、速攻寝て翌朝には復活してた。いやはや。

それでも、そんなオモチャの世界でも、上を見上げると空は綺麗だった。
ちょっとビルが高すぎて多すぎて見えにくかったけど。
でも同じ空だった。
誰も上を見上げてはいなかったけれど。
空はキレイで 同じだった。


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kitoma
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