小熊が選ぶ、2018年ベストソング60続き
以下、30位〜1位です。
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30.Sandro Perri/In Another Life
逆にこの曲は、24分が永遠のように感じてくる。ミュージックマガジンのクロスレビューでも書いたけど、ブルー・ナイルとドゥルッティ・コラム、『Another Green World』が渾然一体となったような音。とてつもない浮遊感。サンドロ・ペリすごいの作ったなー。
29.Free Cake For Every Creature/In Your Car
個人的に2018年一番夢中だったレーベルはDouble Double Whammyだったかもしれない。かつてフランキー・コスモスを輩出し、今年はHOVVDY、HATCHIE、SEAN HENRY、GABIと良作揃い。犬のロゴも可愛いんですわ。そのなかでFree Cake〜は、Kレコーズも想起させるローファイな日常感にグッときた感じ。福富優樹さん(Homecomings)もベストに挙げてますね。
28.boy pablo/Losing You
2018年のなんで来日公演に行かなかったんだ大賞(うっかり忘れてた)。自分のパソコンにステッカー貼っちゃうくらいには好き。瑞々しいギターポップの最前線。ノルウェーはやっぱり強い。といえば、Razikaが新作出してたのも嬉しかった。
27.Adrianne Lenker/cradle
Big Thiefのシンガーによるソロ作。共同プロデューサーでルーク・テンプルが関わっているのもあって、フォーキーかつ音数少なめでとてもよいです。それこそこの曲なんて、(今年の新作もよかった)イノセンス・ミッションあたりと重なるホーリーな感じも。冬によく合います。
26.Petal/Tightrope
イントロからエモくて甘酸っぱくて最高。アルバムのジャケットもすごくいい。すさまじく美人。アルバムの他の曲もこういう感じなのかと思いきや、ちょっと違ってたのは肩透かしだったけど。
25.Snail Mail/Pristine
Twitterでも書いたけど、この曲を聴くとUnrestの「I Do Believe You Are Blushing」を思い出してしまう。今年のロックでは決定的すぎる名曲。先の来日公演も含めて、昨今のインディでは“エモ”がキーワードなんだなーと改めて思い知らされる。
24.Ciara/Level Up
テンション上げたいときにひたすら聴いてた。なかなかすごい歌詞だ。
23.Drake/Nice For What
カルヴィン・ハリス&デュア・リパのアレとともに、流行ってる曲がかっこいいのは幸せだと実感させてくれた一曲。近所のパチンコ屋とか通りかかると普通に流れてて、そのたびに心が踊った。
22.Mura Masa & NAO/Complicated
2:30すぎ〜でネイオが「パパパパッパッパ〜♪」と歌うところが可愛すぎる。当然、来日公演ではこの曲も披露されたのであろう。行きたかった。なんか反省会みたいになってきた。
21.Tove Styrke/Say My Name
たまたまSpotify経由で発見して、電流が走ったような衝撃を受けた一曲。この透明感に富んだプロダクションに対して、あのジャケットを掲げているのも最高にクール。未来のポップ・ミュージックはやっぱり北欧からやってくるんだなー。
20.Natalie Prass/Never Too Late
転調するところが狂おしいほど好き。諸事情でボツにしたテキストがあるので、ちょい長いですがここに供養します。
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次はUSナッシュビルの女性シンガーソングライター、ナタリー・プラスについて。優雅なチェンバーポップと70年代ソウルの合わせ技が高く評価された2015年の1st『Natalie Prass』を経て、3年ぶりの新作『The Future And The Past』では前作の魅力も引き継ぎつつ、ファンク〜ディスコ〜R&Bを吸収した最新モードを提示。このMORとAORの実り多き折衷は、バート・バカラックとの共作でヒットを重ねた60年代のあと、80年代にメロウソウル路線で第二の黄金時代を築いたディオンヌ・ワーウィックの歩みを彷彿とさせます。そんな本作は言わずもがな、日本のシティポップ文脈にもど真ん中。すでに一部で話題沸騰中のようです。
一聴して心奪われるのは、オブスキュアな再発盤にも通じる「ありそうでなかった」響き。プリンス・マナーのシンセファンク「Oh My」、ガル・コスタなどブラジル音楽のエッセンスを内包した「Short Court Style」、初期のエリカ・バドゥを想起させる「Sisters」など、どの曲も参照元に独自の解釈を加えることで、懐かしさと新鮮味を絶妙なバランスで両立。ソングライティングの精度も突出しており、今時珍しいくらい豊かな転調が訪れる「Never To Late」のように、匠の技がそこかしこに詰まっています。
そして、日差しの香りがするキュートな歌声と、アルバム全編におけるクールな質感の「ちょうどよさ」こそが、このアルバムを単なるノスタルジーではなく、2018年の作品たらしめている要因でしょう。あくまでスムースな機能性に徹した音像は「インディR&B以降」とも形容できそうで、ソランジュやブラッド・オレンジの作品に携わったミキシングエンジニアが参加していたり、キーボードをDJハリソンことデヴォン・ハリスが弾いていたりと(この人はジャック・ホワイトの最新作でも大活躍でした)、制作陣の顔ぶれからも『The Future And The Past』なスタンスは窺えます。
19.KIRINJI/AIの逃避行 (feat. Charisma.com)
厳密にいうと2017年の時点でシングルとして発表されてるんですが、この曲のイメージにあったのがプリファブ・スプラウトと知ってから死ぬほど聴き返したので許してください。『愛をあるだけ、すべて』におけるポップスと新しさのバランスは、ナタリー・プラスにも通じるところがある気がします。インタビューしました。
18.Robyn/Because It's in the Music
ロビンの復活をずっと待ってたし、新作にはメトロノミーのジョセフ・マウントも携わっていたり、楽しみでしかなかったはずなんだけど。奇跡的ですらあった前作『Body Talk』に比べると、なんか落ち着いちゃったよね……っていうのが第一印象。でも、この曲をじっくり聴き直して考えを改めました。この時代にロビンが帰ってきたのは本当に意味があることだと思う。
17.FKJ/Is Magic Gone
天才は何をやらせても天才なんだなと痛感させられたスーパーシングル。このレベルの名曲をサラッと作ってそうだから末恐ろしい。
16.Louis Cole/Things
ルイス・コールからこんな真っ当にイイ曲が届けられたことが感動的すぎる。多幸感オブ・ザ・イヤー。クセが強すぎるけどやればできる人。
15.The Beths/Future Me Hates Me
昨年はチャーリー・ブリスがそうだったように、パワーポップ大好きだった自分を思い出させてくれるバンド。とにかくイイ曲が満載、以上!という清々しさがたまらない。ニュージーランドは熱いね。
14.Unknown Mortal Orchestra/Hunnybee
「Swim and Sleep (Like a Shark)」を死ぬほどリピートしたあの頃を経て、すっかり自分のなかでも最重要ロックバンドの一つになってしまった。いろんな要素を吸収しながら、今でもロックが猥雑さをのこしたまま進化していることを教えてくれる一曲。ギターの鳴りを筆頭に、あらゆる音のテクスチャーがいま一番カッコイイ。ニュージーランドは熱いね。
13.Tempalay/どうしよう
多くの人にとってもそうであるように、日本語ロックの2018年度MVP。たしかにこれは他の国から出てこなさそう。やっぱりビートの感覚から変わっていかなきゃダメなんだなって。UMOとの対バン、俺はなんで行かなかったんだろう(気づいたらチケット売り切れてた…)。
12.Disclosure/Where Angels Fear To Tread
ディスクロージャー復活!どころか、かつての名曲「White Noise」より好きな気がする。というか、時代と合っているんだろうな。最高のフォー・フレッシュメン使い。メリークリスマスってかんじ。
11.Trippie Redd/Topanga
トリッピー・レッドの『Life's a Trip』は今年のワーストジャケ(悪趣味すぎるだろ・笑)ながら、背景やリリックを置いといて曲だけ聴くと、滅茶苦茶いいんだよな……。その後に出たミックステープ『A Love Letter to You 3』もそう。なんであの容姿からここまで感動的な曲が生まれてくるのだろうか。エモ・ラップは美メロの宝庫なので侮ってはいかん。あとこの曲はキックが超図太くてかっこいい。
10.小袋成彬/Selfish
アルバム全体となると少しついていけなかったけど、この曲は素晴らしすぎる。「わからなくていい」「突き放してくれ」と言っておきながら、「でも、今日だけは会いにきて」って! それで曲名が「Selfish」って! わかりあえないことの葛藤を表現したかのようなストリングスの響き、散りばめられたノイズも新鮮だし、いかにも名曲然としたふてぶてしさもいい。大学(文芸学科)に通っていた頃のやるせない気持ちを思い出した。
9.A$AP Rocky/Purity (feat. Frank Ocean)
フランク・オーシャンはこの曲と「ムーン・リバー」のカヴァーだけで、2018年も十分に存在感を示していたように思う。「孤独ってのは快適だね、ファックザナックスだ」
8.Yves Tumor/Noid
「Sister, mother, brother, father / Have you looked outside? / I’m scared for my life」ってくだり、こないだの来日公演でシンガロングが起こってて驚いた。エクスペリメンタル界隈の新鋭というより、もっと大きなものを引き受けていくアイコンになっていくんだろうな。あと、ブレイクビーツが尋常でなくかっこいい。DJシャドウかよ。
7.Puma Blue/Moon Undah Water
2017年の個人的ベストだった、キング・クルール及びマウント・キンビーと同じ布陣で作られてる点でも特別なシングル。“コントーションズとジェフ・バックリーの融合”とはよく言ったもので、張り詰めたテンションには未来を感じずにいられない。大いに湧いたサウスロンドンのなかでも、本物中の本物はこの人だと思う。来日公演も凄まじかった。
6.88rising, Joji, Rich Brian & AUGUST 08/Midsummer Madness
界隈のスターが揃ったアンセムが、途方もなく切ないサマーソングっていうのがもう。今年のアジア快進撃を象徴するような一曲。「Fuck the ru-u-u-ules」のリフレインが泣ける。2019年1月の来日公演、ジョージはキャンセルになっちゃったから、この曲はどうなるんだろうか。サマソニ中、ハイヤー・ブラザーズに取材ドタキャン→まさかのメールインタビュー実現したのもよい思い出。
5.Kacey Musgraves/Butterflies
『Golden Hour』はむやみにトレンドと寄り添わなくても、新しい価値観を生み出せることを証明したアルバム。カントリーの枠組みを超えて、多くのソングライターを勇気付けたはず。名曲がたくさん詰まってるなか一つ選ぶのは難しいけど、この曲の風通しの良さとヴォコーダー使いにビビったので。アメリカでは本作以前から大スターなのに、日本のファンに対してサービス精神たっぷりに接していたのも感動的だった。フジロックでインタビューしました。
4.Mitski/Nobody
前作までの轟音ギターノイズでなく、キャッチーなディスコサウンドに乗せてこんな切ない歌詞を歌っているんだから、それは説得力しかないよねっていう。誰もが共感してしまいそうな優しさもあれば、誰ひとり寄せつけなさそうな気高さもある。
3.Ariana Grande/thank u, next
敬愛するソンドレ・ラルケはいつも年末になると、その一年を象徴する曲をカヴァーしていて。今年はずばり「thank u, next」を取り上げていた。チャーリーXCXに取材したとき、「他の人ではなくて、その人が歌ってこそ輝く音楽。それこそが理想的なポップ・ミュージックなんだと私は思う」と話していたのを思い出す。アリアナの「thank u, next」はそもそもの背景からして、彼女が歌って初めて意味をもつ曲であるのは間違いないけど、もちろん彼女のためだけに作られた曲ではないわけで。「過去に感謝を忘れずに、だけど縛られず前に進もう」というメッセージに心救われた人は多かったはず。
2.THE 1975/Love It If We Made It
ブルー・ナイルの「The Downtown Lights」を下敷きに、インダストリアルなビートをいまっぽく強調した一曲。ブルー・ナイルの原曲(?)では街の灯を見つめながら「どうやったら君の気持ちがわかるかな?」と歌っているのに対し、THE 1975のマシュー・ヒーリーは世界の惨状を見つめながら「でも僕ら、なんとかうまくやっていけたらいいよね」と歌っている。怒りの歌でもあるし、祈りの歌でもある。そんなTHE 1975が「thank u, next」をカヴァーしているのも意義深いというか、あの曲と同じ方向を向いているというか。彼らがこんなにスケールの大きなバンドになるとは思わなかった。デビュー当初はチャラいバンドだと思ってました、すみません。
『A Brief Inquiry Into Online Relationships』は、Realsoundで2018年の洋楽ロックアルバム1位に選出しました。
1.中村佳穂/そのいのち
「彼らから見ている私は私だし、私から見ている私も私だから。そこに差異があることも、擦り合わせることができるのも知っている。とはいえ、無理なところがあるのもわかる。それでも、私はあなたが好き。あなたもきっと、私のことが好きだと思ってくれている。〈じゃあいいじゃん、みんながんばろう!〉みたいな気持ちの曲で。(中略)〈みんな生きてこう〜!〉じゃなくて、〈わからんこともあるよね、でも大丈夫〉くらいの感じで、軽い風のように歌おうと作った曲ですね」
音楽の喜びに満ち満ちた、この曲のライヴ動画が2018年のナンバー1です。もちろん、生で観たらもっと感動すると思うので、みなさんライヴに足を運びましょう。
ご本人にインタビューしました。
ご本人以外のキーパーソン4人にもインタビューしました。
↓プレイリストはこちら