Trampauline『This Is Why We Are Falling For Each Other』ライナーノーツ
これを書いてる時点で明日の話ですが、2/11のLali Puna × Trampaulineの来日公演が楽しみすぎるので、直前すぎますが以前ぼくが書いたTrampauline『This Is Why We Are Falling For Each Other』のCDライナーノーツを公演が終わるまでアップしてみようと思います。皆さんぜひライヴへ足を運びましょう。
http://dum-dum.tv/html/topic29.html
http://trampauline.bandcamp.com/album/this-is-why-we-are-falling-for-each-other
http://www.amazon.co.jp/This-Why-Falling-Each-Other/dp/B007VYI4S8
「これが私のリズムなんだと思う。曲がりくねった道をグルーヴィーに。四角い箱よりも、うねうねしたタコみたいになりたい。そっちのほうが楽しそうでしょ?」
韓国・ソウルで活動するシンセ・ポップバンド、トランポリン(Trampauline)の摩訶不思議な音楽性について、中心人物のチャ・ヒョソンはこのように表現している。エレクトロニックな音色を前面に押し出しているが、どこかアコースティックでオーガニック。女性の四肢を思わせる丸みを帯びたそのサウンドは、涼しげで切ない響きをもつヒョソンの歌声とともに穏やかに揺れる。
トランポリンは実質的にヒョソンのワンマン・プロジェクト。クールな表情の奥底に熱い気性をもつという彼女は、学生時代を朝鮮半島の東南端にある工業都市、蔚山(ウルサン)で過ごす。女子高育ちで、ときにラブレターをもらうこともあったそうだが(本人はそこまで人気者でもなかったと述べている)、退屈な日常に光を与えたのが音楽。13歳のときには単身バスに乗り込み、はるばるソウルまでニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックのライヴを観に行ったとのこと。
その情熱が制作意欲をかきたて、トランポリンとしての活動へと繋がっていく。2002年に設立され、韓国の優れたインディー・バンドをジャンルを問わず紹介し、一方でM83やシー&ヒム、くるりなど国外のアクトも積極的にライセンス・リリースする、かの地の超優良レーベルPastel Musicに見染められ、2008年にデビュー・アルバム『Trampauline』をリリース(2011年にはリマスタリングを施され、同レーベルより再発)。現在の作風にも通じるエレクトロニック・サウンドをこの時点で披露しているが、チープさがキュートに作用しているプロダクションは、ドイツのMorr Musicが輩出してきたアーティストなどとの類似性も感じさせる。そこからワン・アンド・オンリーな個性を確立したのが、セカンド・アルバムとなる『This Is Why We Are Falling For Each Other』だ。
韓国では2011年8月に先だってリリースされた本作は熱烈な支持を集め、権威あるミュージックアワード『Korean Music Awards』において2部門にノミネート。また、世界的に著名なファッション誌『Harper's BAZAR』『GQ』の韓国版に取り上げられるなど、バンドは多方面から注目を集めるようになる。その鮮烈なヴィジュアル・イメージがもっともわかりやすいのがミュージック・ヴィデオ。ソウルを拠点とするヴィデオ・ブログRECANDPLAY.NETによって撮影された三本のライブ動画での、ヒョソンの履く白いスニーカーとショートカット、簡素なファッションは、音楽性ともフィットしてあまりに眩しい。ソウルの地下鉄や深夜のタクシー乗り場をバックとした映像は、演奏はもちろんカメラワークも抜群で、YouTubeでも視聴できる。この日本盤ではその白いスニーカーを大々的にフィーチャーしたアートワークが採用され、撮影時のヒョソンの写真もブックレットと裏ジャケットに掲載されている。
アルバム収録曲のすべての作曲をヒョソンが手掛け、ギターは当時のメンバーであるキム・ナウン(先述のヴィデオでも演奏。この時期のトランポリンは彼女も擁するデュオ編成であったが、2012年にバンドを脱退)、さらにサポート・ベーシストも加えた三人でレコーディング。リズムパートをよりパワフルにしようと考えたヒョソンは、韓国でDJ/プロデューサーとして名を馳せるeunchurnにプロデュースとミキシングを依頼し、彼の再編集によってビートはより強固でダンサブルに仕上がった。ヒョソンの愛するアナログ・シンセの暖かな音色と、ナウンが奏でるミニマムなギター・フレーズが心地よく絡まる。昨今隆盛を誇るチルウェイヴ的なサウンドとの近似性も感じさせるが、どこか土着的でアジアンな趣もあり、ノスタルジックなイメージを喚起させる。
最後に、彼女の恋愛観についての発言を引用してこの文章を締めくくろう。
「最近、ジョン・カサヴェテス監督の『ラヴ・ストリームス』という映画を観たの。愛とはとめどなく流れるもの。それぞれのやり方で揺れ動こうとして、注がれたり移ろったりしていく。一度でもその動きが静まると、あなたのまわりの世界も止まってしまう。そして、あなたは死ぬ」
小熊俊哉