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大野地区の生物多様性を豊かにするために。KITENが実践する“ビオトープ計画”。

KITENの「生物多様性調査」は、オーガニックコットン畑のあるいわき市四倉町大野地区の生物多様性を調べながら、今ある環境を知り、自然にも生き物にもやさしいものづくりをするために“何をすべきか”を考えるためにスタートしました。(初回の調査については、こちらのnoteを読んでもらえると嬉しいです!)

大野地区に受け継がれてきた自然と文化を守りながら、共生し、循環するものづくりをするために、どんな未来を描けばいいのだろう。このnoteでは、生物多様性調査を通して、これからの未来を考えていきます。

※この調査は、東京大学 総合研究博物館 研究事業協力者の須田真一先生と、日本自然保護協会様にご協力をいただきながら行っています。

2024年、夏の生物多様性調査

今年の夏も、すこぶる暑い。年々暑くなっていて、生き物たちは大丈夫なのかと心配になる。人間のわたしと言えば、エアコンの部屋から出られず、活動は早朝と日が暮れてから。自然環境も人間活動的にも、このままでいいわけがないと思わされるのが最近の夏である。

さて、そんな夏真っ盛りの8月。春に続いて生物多様性調査を行いました。
メンバーは、昆虫界の歩くグーグル先生こと生物学者の須田先生、自然保護のため全国を駆け回っている日本自然保護協会の岩橋さん、LUSHジャパンのバイイングチーム、KITENの酒井さん、金成さん。今回もオーガニックコットン畑を起点にぐるりと裏山を一周して、どんな虫たちが生息しているのかを調査します。

酒井さんの昆虫採集ファッションが突き抜けていた!

昨年の夏の調査では、一歩歩くごとに昆虫を見つけるのでなかなか前に進まなかったけれど、今年は不思議とさくさく進みました。「暑い時間帯は虫たちも林の中で休んでいるんでしょう」と須田先生。虫たちもやはり暑さは苦手なようです。

そんななかでも、ハグロトンボやアジアイトトンボ、ウスバキトンボ、コノシメトンボ、オオシオカラトンボ、アキアカネなど、トンボを中心に様々な昆虫に出会うことができました。

ハグロトンボ。かつては普通に見られたが、 生息環境の減少により個体数が減っている。
東京都区部では絶滅危惧Ⅱ類に選定されている。
湿地帯や田んぼなどに生息するオオシオカラトンボ。
成熟したオスは体に青い粉をまとう
ショウジョウトンボのメス
コノシメトンボ。昨年の調査ではいなかったので、今回初の採集。
よくいるノシメトンボにそっくりで、文字通り「小さいノシメトンボ」が名前の由来

トンボから考える日本の生物多様性

大野地区で生物多様性調査をはじめてから、世の中にこんなにトンボがいたの!?と思うほどさまざまなトンボを見かけました。いったい日本には何種類のトンボがいるのでしょう?

ー須田先生:日本では200種類以上、世界では6000種類ほどですね。日本は、世界の中でも面積的に考えると非常にトンボの種類が多いんですよ。たとえばヨーロッパ全体では100種類、イギリスでは60種類ほどしかいないんです。

トンボのめがねは何色めがね?

ヨーロッパでトンボが少ない理由はあるのでしょうか?

ー須田先生:ヨーロッパは全体的に緯度が高いので、北に行くと単純に種類が少ないというのはありますよね。あともう1つ。北ヨーロッパから中部ヨーロッパは、氷河期時代に雪や氷に覆われました。それにより、それまでの生物がすべてリセットされているので生物進化の歴史が浅いんです。だから生物多様性が低い。一方で、日本は国土全体が氷河に覆われたことがないので、非常に古い時代から生物進化してきた歴史があるんです。イギリス本島と本州はほぼ同じ面積ですが、哺乳類の固有種がイギリスは1種類もいないのに対し、日本は約50種類もいるんですよ。

※固有種=特定の地域にのみ生息する生物の種のこと。日本では、ニホンカモシカ、ニホンザル、ヤンバルクイナなど

ー岩橋さん:イギリスの植物の種類と高尾山の植物の種類を比べても、高尾山の方が多いって言われているくらいなんです。だからこそ、ヨーロッパの人たちは自然に対する憧れが強いのかもしれませんね。

自然保護協会の岩橋さん。KITENの生物多様性調査になくてはならない存在!

ー岩橋さん:イギリスやドイツなどのヨーロッパは、産業革命時代前後の工業化と都市化が急速に進行する中で森を破壊してしまいました。一度森を伐採してしまうと気候が厳しいこともあって、再生することは難しいんですよね。

ー須田先生:たぶんだけど、ロビンフットの時代はイングランドは森に覆われていたんじゃないかな。でも、もうその時代には戻れない。だから、ヨーロッパの方は日本の里山保全の考え方を理解できないんです。「なんで木を切ってしまうんだ!?」って(笑)でも、日本は定期的に木を切らないといい森にならないでしょう。実は、木を切ったまま放っておくだけで再生できる国ってアジアなどのごく一部の地域だけで、世界から見たら非常にレアなことなんです。

そう聞くと、毎度雑草に悩まされることすらもありがたく感じた

ー須田先生:世界に生物多様性のホットスポットは35カ所あるんですが、日本は国土全体がホットスポットです。国で登録されているのは、日本だけ。それぐらい世界的に見て稀有な自然環境なんですよ。

※生物多様性のホットスポット=生物多様性が多様であると同時に危機的な状況であること

ー岩橋さん:昔から「自然は支配するもの」という思想がヨーロッパ。だから森は切り拓くものだったんです。一方日本は古来から「自然は根底にあって、自然には神がいる」と信じられてきました。だから森は共に暮らすもので、多様な生き物が守られてきたんです。

ー須田先生:でもね、ヨーロッパは徹底的に自然を破壊してしまったことに反省もしていて、環境問題に関する意識が非常に高く、個人の取り組みや新しい環境政策への順応性も高いんですよね。一方で、日本は適当にやってもどうにか再生できてしまうから、自然環境に対する意識が低いままなんです。日本でも森や自然環境の大切さに国全体で気づくことができれば、保全再生の思想が芽生えるんじゃないかな。

普段は穏やかな須田先生だけど、昆虫を発見すると急に走り出す機敏さ!

自然に対する価値観の違いで、未来が大きく変わることに身震いしてしまいました。できることなら自然を破壊した後に気づくのではなく、今、この豊かな生物多様性を、四季のある美しい自然を守っていきたい。経済優先の社会から、自然との共生へ。健全な自然環境があるからこそ、私たちはおいしいごはんを食べられるし、元気に働くことができる。それは決して当たり前のことではないと一人ひとりが自分ごととして認識し、行動していくことが求められているような気がしました。

学校プールを活用したビオトープ計画

さて、2年目の生物多様性調査にさしかかったところで、KITENの能動的な動き出しが始まろうとしています。春の調査で「生物多様性を生み出すためにビオトープ作りをしてみては」とアドバイスいただいたことで、何かいい方法はないだろうかと探ってきました。

生物多様性調査時には大野第二小の見学にも行きました。校庭を眺めながら休憩のひととき。
キンキンに冷えた麦茶が沁みました!

KITENは、現在いわき市好間町にある事務所からの移転を予定しています。移転先は令和3年に148年の歴史に幕をおろし廃校となった「大野第二小学校」。オーガニックコットン畑のある大野地区に拠点をかまえることになったのです。

地域で親しまれてきた小学校を、来訪者にとって開かれた場所にするために利活用方法を考えあぐねていたところ、須田先生と岩橋さんから「プールはビオトープ作りに最適ですよ!」と教えていただいたのでした。

「プールで水草を育てると、そこへゲンゴロウやヤゴなどの水生昆虫がやってきます。生態系の回復が期待できる効果に加え、自然観察会などもできるので、地域の人や子どもたちが自然と触れ合う機会を作ることにもつながります」と須田先生。

調べてみるとすでに、ほかの地域でも事例があるようでした。

まだ構想段階ですが、次年度から大野地区の生物多様性を豊かにするために新たな試みが始まりそうです。生き物たちにとっても、地域に暮らす方たちにとっても、循環するものづくりを目指すKITENにとっても、大切な一歩となるような気がしてわくわくしています。

KITENの酒井さんと金成さん。

text by   奥村サヤ



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