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生物多様性調査、2年目の春

2023年に続き、生物多様性調査の2年目がはじまりました。
今年も、東京大学  総合研究博物館  研究事業協力者の須田真一先生と、日本自然保護協会の岩橋大悟さんの協力をいただきながら、KITENの畑周辺を調査します!

1年目で見えてきた、コットン畑周辺の環境は?

KITENの畑の前を流れる袖玉山川の河川敷

2023年からスタートした、福島県いわき市四倉町大野地区の生物多様性調査。昨年は1年間かけて、KITENのオーガニックコットン畑周辺に生息する昆虫を採集しながら、地区の生物多様性を調べてきました。同じ場所を定点観測することで、その土地の環境が見えてくるのだそうです。

2年目の春、早速、気になることから聞いてみます。「昨年1年間の調査で、大野地区の生物多様性はどんなことが見えてきたのでしょうか?」

ー岩橋さん:生物多様性は、最低でも3年間は継続して調査しないと見えてこないことが多いんです。なので、まだ確実なことは言えませんが、現段階で言うと大きな特徴はなく、良くもなく悪くもなくというところでしょうか……。

ただ、東北地方全体で絶滅の危機に瀕している「カトリヤンマ」の姿を見ることができました。今後は、周辺の田んぼを調べるとより見えてくることがあるかもしれません。

かつては普通種で北海道から沖縄県まで広く分布していた「カトリヤンマ」は、農薬の散布や開発など水田地帯の環境変化により激減し、現在は絶滅の危機に瀕している

のどかな風景が広がるKITENの畑周辺ですが、生物多様性という視点で見ると、そう大きな特徴はないらしい。少しがっかりした気持ちでいると「ビオトープを作ってみるといいかもしれませんよ!」と岩橋さん。

ー岩橋さん:水辺ビオトープをというと難しく感じるかもしれませんが、要は“ため池”です。穴を掘って底にビニールシートを敷き、水が溜まるようにするだけで生き物たちの拠り所になるんですよ。

ー須田先生:水辺があることによって、ゲンゴロウやタガメなどの水生昆虫たちが来る可能性があります。虫たちが繁殖場所として利用するようになることで、生物多様性が生まれるんです。KITENの畑は目の前に川があって、裏には山があるでしょう。なので、トンボのいい休憩場所になっているんです。ここに水辺があればもっと発展性があると思うんですよね。

なるほど。多様性は失われていくばかりでなく、生きやすい環境を作ることで生み出すことができるらしい!目からウロコです。

KITENのコットン畑には、野鳥もたくさん住んでいます

今後、コットン畑にビオトープを作るかどうかは未定ですが、自分たちの手で多様性を生み出せるということを知ることができ、希望が湧いてきました。

春に出会った昆虫たち

芽吹きを待つコットン畑。この日は清々しいお天気でした

さて、今年も昨年と同じルートを辿って生物多様性の調査を行います。今年はどんな昆虫たちに出会えるのでしょうか。

早速、ヤマサナエを発見!
ヤマサナエは水質のいい川に住む習性があり、見かけたら近くにいい川がある証拠なのだそう。田んぼへ植えかえる稲の苗を早苗(さなえ)といい、田植えをする5月ごろに見かけることのできるトンボです。

次に出会ったのは、きらきら輝くアカガネサルハムシ。体長5mm~7mmと小さな体ですが、存在感は充分にあります。成虫は畑や雑木林の周辺でノブドウなどの葉を食べ、幼虫は地中で植物の根を食べて育ちます。ときに害虫になることもありますが、よく見るととてもきれいな虫です。

都会でもよく見られるアオスジアゲハ。幼虫は街路樹などに植栽されているクスノキを食べます。基本的には南に住む蝶で、浜通りではよくみられるのだそう。そう珍しい蝶ではないそうですが、見惚れてしまう美しさ!

その後もたくさんの春の生き物に出会うことができました。

4月〜11月にかけて成虫がみられるギンヤンマ
藤やツルなど豆科の植物を食べるコミスジ
歩く宝石とも呼ばれるアオスジキンカメムシ

須田先生はKITEN周辺を「里山環境として決して悪くない」とおっしゃいます。今後は、生き物たちが住みやすい環境を作り「ゲンゴロウ」や「ホソバセセリ」、「カトリヤンマ」の姿が見られるようになると、生物多様性の幅がぐっと広がるそうです。そのためにはコットン畑だけではなく、さまざまな環境があると良いとアドバイスをくれました。

生物多様性調査を通して虫たちを観察していると、山も川も森も林も田んぼも、すべてがつながって生き物が暮らしていることを実感します。たとえば、トンボが住みやすい環境はヤゴが生息する田んぼなどの水辺と、成虫がエサを採ったり休んだりする樹林や草地がある山の環境です。どれか1つの環境だけでは生き物たちの暮らしは成り立たず、豊かな山や川や森、人が手入れをした田んぼや畑があって多様性が生まれていくのだと教えられました。

生物多様性を守るために

いま、人間の活動や環境破壊によって生物多様性は急速に失われているそうです。里山は適度に人の手が入ることで植物や生き物にとって豊かな環境になっていましたが、経済を重視して里山に価値を見いだせなくなったり、高齢化で手入れが行き届かなくなったり、時間の経過とともに多くの里山環境を失ってきてしまいました。

ー岩橋さん:数千年にかけて形成されてきた日本の生物多様性が、実はこの50年から100年というとても短い時間のなかで急激に失われているんです。生物多様性が失われるということは、生き物のつながりが失われて、絶滅が加速する可能性があるということです。たとえば、いまは回転寿司に行けばマグロやカツオ、アジ、サーモン、いくら、エビ、タコ、イカ、うにとさまざまなネタを楽しめますよね。でも、将来はサーモンだけしか食べられないという日が来るかもしれません。食の恵みが失われるだけでなく、自然災害が増加したり感染症のリスクが高まったりもします。生物多様性は、わたしたちの生活に密接にかかわっているんです。

生物多様性があることで、たくさんの恩恵を受けてきたことに今さら気づかされました。多様性が失われていくということは、わたしたちの暮らしも脅かされていくということ。便利な生活を手放せないわたしたちは、その重要性になかなか気づくことができません。

ー須田先生:だからと言って、むずかしく考える必要はないんですよ。里山の豊かな恵みを守るべき場所はしっかり守り、切り分けて、現代のわたしたちの暮らしも継続していけばいいんです。そうやって戦略的に生き物たちを守ることで、自然資本を回復させていきたいとわたしたちは考えているんです。

KITENの畑がある大野地区も、これから戦略的に生き物が暮らしやすい環境を作ることで、多様性を生み出せる可能性があります。

そのために、これからも調査を継続して自然と人の営みが共存する豊かな環境を大野地区で作り上げていけるよう、できることを模索していきたいと考えています。さて、次は夏の調査で!今後の活動にご期待ください。

text :奥村サヤ


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