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【回想】2010年代、僕にとって渋谷はつまらなくて、歌舞伎町には面白いがあった話
渋谷の街に馴染めなかった二十歳の頃
二十歳くらいの頃、都内で「どこで集まる?」となると、だいたい渋谷だった。便利だし、選択肢も多いから、とりあえず渋谷。みんながそういう感じだった。
とはいえ、もうハチ公前でじっと待ち合わせる時代ではなかった。スマホが普及してきて、LINEや電話で「どこ?」「今向かってる」「じゃあ○○の前で」みたいに最終調整しながら合流するのが普通になっていた。だから、渋谷のどこかに行くことはあっても、街そのものに対して特別な感情を抱くことはなかった。ただ集まりやすい場所。それ以上でも、それ以下でもなかった。
渋谷の若い連中と馴染めなかった理由
渋谷に行くと、若い連中がたくさんいた。でも、なぜか彼らとも馴染めなかった。特に敵意があるわけじゃないし、話せば普通に盛り上がることもあったけど、なんとなくフィットしない感覚があった。理由はよくわからない。ただ、会話をしても、どこか噛み合わない感じがあった。
みんな同じような服装、同じような髪型、同じような雰囲気で、共通のノリがあった。流行を知ってることが前提で、どの店がイケてるとか、今何が流行ってるとか、そういう話題で盛り上がる。でも、自分はどうもそういう話にハマれなかった。楽しくはあるけど、何か違う。
渋谷と歌舞伎町の客引き(キャッチ)の違い
渋谷にも当然ながら客引きはいた。というより、渋谷では“キャッチ”と呼ばれていた。センター街や道玄坂を歩いていると「お兄さん、今なら○○円で飲み放題ですよ!」みたいな声がよく飛んできた。でも、声をかけてくるのは同年代くらいの若い連中で、服装もカジュアルだし、ノリも軽い。まるで「一緒に飲もうぜ」みたいな感覚で、特に怖いとか怪しいとか感じることもなかった。
一方で、歌舞伎町の客引きは全く違った。渋谷と同じ感覚で歩いていると、スーツ姿の強面の男たちが「お兄さん、いい店あるよ」と低い声で囁いてくる。雰囲気も圧も違いすぎて、最初は正直ちょっと怖かった。渋谷のキャッチが「楽しい場所を教えてあげるよ」という感じだったのに対し、歌舞伎町は「この世界に踏み込んでみるか?」みたいな空気があった。
だから、最初の頃は客引きを避けながら歩いていた。でも何度も通ううちに、彼らの存在も街の景色の一部として受け入れるようになった。客引きといっても、話してみると意外と気さくな人もいて、どこか人間味があった。ただ、それも今は昔の話。条例の影響で、渋谷も歌舞伎町も客引きはほとんど一掃された。治安が良くなったとも言えるけど、あの独特の喧騒がなくなったのは、逆にちょっと寂しい気もする。
歌舞伎町・ゴールデン街という異世界
そんな渋谷とは対照的に、歌舞伎町は混沌としていた。特に夜になると、街はさらに活気づき、独特の雰囲気が漂う。ネオンの明かりが反射する路地裏には、昼間とはまるで違う世界が広がっていた。
特にゴールデン街は、その中でも異質な空間だった。そこには偶然の出会いがあった。ただの飲み屋街ではなく、そこで出会う人たちは、普通に生きていたら絶対に関わることのないような大人たちだった。作家、演出家、ミュージシャン、飲み屋の店主——肩書きは様々でも、彼らに共通していたのは、みんな何かしらの思いや葛藤を抱えていたことだ。
矛盾を抱えながら生きる大人たちの深み
そういう矛盾や迷いの中で生きている大人たちの言葉には、独特の深みがあった。お決まりの成功談やきれいごとじゃなく、人生のどうしようもなさとか、諦めとか、でもそれでも生きていくんだっていうリアルが詰まっていた。そんな話を聞くうちに、自分の価値観が少しずつ広がっていくのを感じた。あの頃の僕たちにとって、ゴールデン街は単なる飲み屋じゃなくて、“示唆を与えてくれる場所”だったのかもしれない。
ゴールデン街が教えてくれた“大人”という存在
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大人っていうのは、ただ年齢を重ねた人たちのことじゃない。矛盾や失敗、迷いを抱えながらも、それを自分の中で咀嚼して、なんとか前に進もうとする存在なんだってことを、僕はゴールデン街で教わったのかもしれない。
そのときは気づかなかったけれど、今振り返ると、あの時の会話が、自分の中の“ものの見方”を少しずつ変えてくれていたように思う。自分の小さな世界の外側に、こんなにも多様な生き方があるんだってことを、教えてくれたのは、間違いなくあの街だった。
今振り返る渋谷と歌舞伎町
渋谷には、そういう出会いがなかった。同年代としか会えない街だった。対して、歌舞伎町には、人生の奥行きを感じさせてくれる大人がいた。
だから、渋谷は僕には少し退屈で、歌舞伎町は面白かった。
あの頃を思い出すと、今でもふとゴールデン街を歩きたくなる。今の僕は、当時の大人たちに少しでも近づけているだろうか。
まとめ
まとめると、逆に今の再開発された渋谷、好きになりかけてます。以上です。
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近藤魁人 拝