吟行、2044年夏
宙港や蝶は光のとほきより
三伏をほろびやすくて自然肉
みんな裸足かつて青田の野を彷徨ひ
夕凪や時計屋の墓は日時計
AI文士情死を誘ふインバネス
肝を売るチラシのポップ体暑し
路上者より買ふ蟬揚げてゆふまぐれ
蜘蛛潰れカルトを洗ふ雨ならむ
朝焼に潜みて紙の本めくる
いなびかり国葬の貌どれも歪み
ゆふやけをぐるりと還り小舟の忌
擬似シナプス切つて夏野を書き殴る
かつて海
扁桃体の
滴り
て
夜祭はBombtrackを焚きつけに
箱庭に降り込められて旅の肌
灯台はしづか新型コレラ来ぬ
午睡めく雨よ錠剤資料館
けむりあめ海豚は泡を禁じられ
ロースハム西日を透かし愛二畳
いうれいの生まれぬ独裁の夜に
火蛾なんて知つてロビタは火傷する
旱天や聖デラロチャの切手貼り
バイオ風迫るや吾に赤富士に
立ち泳ぎしてUFOを待ち侘びる
虫送り端末人の鉦やさし
ディープフェイク演説みなづき皆わらふ
涼風をバイオ人夫とわかちあふ
艶消しの銃身涼し党祖廟
たちまちに
すいかは
けむり
手もろとも
緑雨やまず造血廠の塀ましろ
旱星ミールキューブのうす湿り
蓼の雨降り籠められてヒト工場
噎せるほど百合だヤミ麺麭でもお上がり
萬緑やカロリー違反者の眩し
太陽が呑み込むまでの夏なのだ
ヒト/記憶 残滓となりて天の川
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2112年の、ドラえもんが生まれた年のジャイフェスに参加したくて、タイムトラベルを試みた。
ところが三鷹のリサイクル屋で買い叩いた2182年製の中古マシンだったせいか、うまいこといかずに不時着することと相成った。
時空計の西暦表示は2044年。やや遡りすぎてしまったようだ。
どうせならと、マシンの充電が完了する間、吟行と洒落込むことにした(21世紀での吟行はこれが初体験である!)。
かつてない停滞、いや衰退の時代。
原始と剥き出しの不正義の香りに噎せながら、不覚にもデカダンな空気に酔い、いつしか頭脳解放運動に身を投じてしまっていた。
社会はまさに退行の踊り場にある。
独裁への消極的な是認、それへの一部市民の反発、偏執化する弾圧、運動の過激化、原理主義者の暴走、飛び交う手製火器、吹き飛ぶ身体、粉砕されるメモリーチップのきらめき。
いや、もうこれは吟行なんてもんじゃないよ。
さすがに今どきタイムパラドクス防止法違反なんてダサい罪状でTPのお世話になるわけにもいかないと思い直し、どうにかデラロチャ派の同志諸君及び恋人とやや不自然な別れを交わすに至った。
葛藤に満ちた人間性回復の時代も魅力ではあるが、安逸を志向する身には自律的すぎて、少々窮屈ではある。
さて、帰るとしよう。居心地の良い我が隷属の世紀へ。
※本記事は、石原ユキオさん(@yukioi)の企画 #2044年吟行 にインスパイアされた(便乗した)ものになります。楽しい企画に参加させていただき、この場を借りて感謝申し上げます。
様々な方の2044年吟行、そして2044年の句会の様子は、石原ユキオさんのネットプリント「副産物の会」でお楽しみいただけます。