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テクノロジーの力で、地域を100年後の未来に受け継ぐためには【天草市×キッチハイク対談】

課題先進国といわれる日本。多くの地域でさまざまな課題が表面化し、各自治体職員は、持続可能な地域社会の創出に奔走しています。キッチハイクではそうした地域の課題と向き合い、食と暮らしを起点に、地域と生活者がつながる新しい仕組みの発明と実装に取り組んでいます。

2022年、キッチハイクは新たなサービスの提供を開始しました。「つながるDX」——関係人口を可視化・育成する自治体専用のシステムです。

このシステムを開発するきっかけとなったのは、天草市 地域政策課のみなさんとの出会いでした。

今回はプロジェクトのキーマンである天草市の濱口桂伍さんをお迎えし、「つながるDX」の開発を手掛けたキッチハイクの代表取締役CTO・藤崎祥見とこれまでの取り組みを振り返り、テクノロジーが地域課題にどのように寄与できるのか、今後の可能性について語り合いました。

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キッチハイク代表取締役CTOの藤崎祥見(ふじさき・しょうけん)(写真左)、
天草市 地方政策課の濱口桂伍(はまぐち・けいご)さん(写真右)

地域に住む人々の生活を支えるため、「関係人口」の創出に取り組む

—— 天草市では今、「関係人口」の創出に注力されていますね。地域ではなぜこのような取り組みが必要とされているのでしょうか。

濱口さん(以下、敬称略):今、日本ではどんどん人口が減っています。特に地域においては人手が確保できないと、生活に必要となる機能を維持することが難しくなっています。これはもはや、移住者を募るだけでは解決できない問題です。そこで注目されているのが「関係人口」です。

関係人口とは
地域に移住した「定住人口」や、観光に訪れる「交流人口」とは異なる形で、地域と多様に関わる人々を指す。新たなつながりによって、地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されている。

天草市では平成30年度から「ふるさと住民登録制度」という仕組みを導入し、関係人口として、地域外からでも天草を応援してくれる「ふるさと住民」を募りはじめました。

天草市が実施している「ふるさと住民登録制度」。「ふるさと住民(あまくさンサポーター)」に登録し、自身が市に協力できること、市のためにやりたいことを宣言して活動する。 <天草ふるさと住民note> https://note.com/ama_furusato

濱口:この制度を導入してから、継続的かつ効果的な管理・運用をしていくにあたり、DXの必要性を感じるようになりました。そこで必要なシステムの導入や仕組みの構築などを、キッチハイクさんに支援いただきながら進めているところです。

「ふるさと食体験」との出会い——一過性ではない継続的な関係構築へ

—— どのような経緯でプロジェクトがはじまったのでしょう? 改めて、天草市地域政策課のみなさんと、キッチハイクの出会いについて教えてください。

濱口:そもそものきっかけは、キッチハイクの古屋さん(古屋 達洋/地域・アライアンス担当)との出会いでした。

ちょうどふるさと住民を募集しはじめた頃、古屋さんが別件で天草にいらっしゃる機会があり、そのとき本当にたまたまキッチハイクの事業のひとつ「ふるさと食体験」のお話を耳にしたんですよね。

藤崎:古屋は「ふるさと食体験」を立ち上げたメンバーで、あのとき濱口さんとのつながりをつくってくれたことは、とても感謝しています。

キッチハイクが提供する「ふるさと食体験」。
日本各地の食材が自宅に届き、その土地の暮らしや食文化について楽しめる食体験サービス。

濱口:このお話を聞いたのがすごくいいタイミングだったんですよね。コロナ禍の影響で移住や観光に手が伸ばしにくくなる一方、巣篭もり需要が高まりはじめていました。

実際、登録してくださったふるさと住民のみなさんに「最近どんな活動をしましたか?」とアンケート調査を行ったところ、最も多かったのが「産品を購入する」という回答でした。そこで私たちも「ふるさと食体験」に可能性を感じ、イベントを開催することにしたんです。

—— 近しい取り組みをしている企業もあったと思いますが、最終的にキッチハイクを選んでいただいた決め手は何だったのでしょう。

濱口:食体験のイベントを一過性で終わらせず、その後のふるさと納税につなげる仕組みの構築と、その関係性を継続的に維持するところまで見据えてフォローしてくれる考え方そのものが、行政側としては大いに魅力的でした。

藤崎:私たちも同様の課題を感じていて、継続的に地域に貢献していく方法を模索していたところでした。地域課題のプロであり、広い視野をお持ちの濱口さんのような方と考え方や今後の方向性を共有できたことは、キッチハイクにとってもなかなか得がたい機会だったと思います。

濱口:なにより藤崎さんご自身が、天草と深いゆかりのある方だったのも、とてもうれしかったですね。

藤崎:そうなんです!私の母親が天草市の出身なので、個人的にも、自分自身のルーツがある地域に貢献できることをうれしく思っています。

未踏のDX領域で挑戦する、「未来をつくる手応え」の実装

—— その後、濱口さんから関係人口の効率的なデータ活用についてご相談いただいたことをきっかけに、関係人口特化型SaaS「つながるDX」が生まれました。お話をうかがった当初、藤崎さんはキッチハイクとしてどのように貢献できると考えましたか?

関係人口を見える化し、地域とのつながりを育む関係人口特化型SaaS「つながるDX」。
2022年5月に正式リリースしました。

藤崎:「システムが得意とすること」——例えばデータ管理、事象の定量化など、テクノジーで課題解決できる部分が数多くありそうだと感じました。そしてそれらは、キッチハイクの掲げている「地域の価値を拡充し、地球の未来へつなぐ。」というミッションとも直接つながる取り組みです。

日本における自治体のDXは、まだまだ初期段階にあるところが多いと思います。そんな中、天草市のみなさんには私たちが得意とする領域を通じて地域に貢献できる大きなチャンスを作っていただき、本当に感謝しています。

—— まだ取り組みは始まったばかりですが、現時点ではどのような可能性を感じていますか?

濱口:関係人口の創出は、短期間で成果が出る取り組みではありません。実際の手応えや成果は、これから少しずつ、でも着実に現れてくると考えています。

藤崎:まさに今日は、それについてお話ししたくて。DXを進めていく中で、テクノロジーは「未来をつくる手応えをつくる」ことに貢献できると思っています。

—— 「未来をつくる手応え」とは、具体的にどういうことでしょう?

藤崎:「自治体職員のみなさんに、未来を作っている手応えを感じてもらう」というのが、「つながるDX」の開発で大切にしていたコンセプトの一つでした。そしてこれは、濱口さんとご一緒したことをきっかけに生まれたんです。

濱口:そう、システム開発にあたり、私から藤崎さんにご相談したことがあったんですよね。先ほどお話しした、地域外から天草を応援してくれる「ふるさと住民」のコミュニティには、本当に可能性を感じています。

一方で、関係人口に関する取り組みは定石がないうえに成果の可視化が難しく、どんなにボールを投げてみてもどんな結果につながっているのか見えづらい——という状況に陥りがちなんです。それをなんとか解消できないか、と。

藤崎:「ふるさと住民」のことを伺って、離れていても熱量高く地域に関わろうとする人たちのつながりに、とてつもない価値を感じました。同時に、その凄さや可能性の証明、彼らへのアプローチ方法がまだ明確に可視化されていないところに、チャレンジできる余地がまだまだあるなと。

つながりの実態や、自分たちが行った取り組みの結果をデータで可視化できれば、効果検証と打ち手のアップデートが可能になります。

施策の仮説検証・成果が定量化できるようになることで、組織内や議会などにおける承認を得やすくなり、結果的に予算が増えてよりインパクトある施策が打てるようになる。つまり本当の意味で、地域の「未来を変えるサイクル」をつくり、それを循環させていくことにつながるはずです。まだまだ未踏の領域ですが、大きなやりがいを感じているところです。

濱口:何より少しでも前進している実感が得られることは、取り組みに関わる職員のモチベーション向上にも寄与すると思います。

藤崎:自治体職員のみなさんは、地域の未来をつくるため、常に多くの課題を解決するために奔走されています。しかしただでさえ人手が足りず多忙なのにもかかわらず、さらに重要な仕事がどんどん増えてしまう……そんな悪循環に陥っているケースが多いように思うんですよね。それは、濱口さんとご一緒していても痛感することが何度もありました。

そうした状況下で活用いただけるシステムを私たちが提供することにより、成果の可視化や効果検証はもちろんのこと、日々の業務の効率化、定型業務の時間短縮、コスト削減などにもつなげていただく。そうしてより未来を変えるための時間や創造的な業務をご一緒できればと思っています。

「つながるDX」の開発にあたって、天草市の職員のみなさんと膝を突き合わせて
何度も対話を重ね、議論を交わしてきました。

テクノロジーを活用し、「無形」のものを100年後の未来に受け継ぐ

—— 今後、さまざまなテクノロジーを活用することによって、地域の未来のためにどんな貢献ができるでしょうか?

濱口:持続できる地域社会の仕組みをつくるため、テクノロジーをさまざまな形で活用できると思います。例えば関係人口を生み出す一つのアイデアとして、インターネット空間上に「ふるさと住民街」のようなものを設置し、アバターを活用した交流や、産品の購入などができる仕組みを構築することなどをイメージしています。

もちろん、実際に現地に足を運んでもらって住民のみなさんと交流したり、移住していただいたりする活動も重要なので、両輪でやっていく必要はあると思っています。

藤崎:私自身が今注目しているのは「無形の資産」を受け継いでいくことです。これは仏教の考えなのですが、有形のもの、例えば建造物などはどんなにがんばっても、いずれはなくなってしまいますよね。50年後、100年後の地域の未来を考えたとき、無形のものをどう受け継いでいくかが大事なのではないかと思っています。

—— 「無形のものを受け継ぐ」とは、具体的にどういうことでしょう?

藤崎:あくまでも一つの例ですが、キッチハイクのメンバーに、実家がラーメン屋の人がいるんです。「店は継がないけれど、お父さんのつくるラーメンの味は継ぎたい」と、レシピを受け継ぎ自分で作れるようにしていて。

濱口:その受け継ぎ方、素晴らしいですね。地域で培われてきた、本質的に大切な「無形の資産」をちゃんとうまく引き継いで、さまざまな形で持続していくことができたらいいなと思います。

藤崎:それが、これから地域が目指す一つのあり方、考え方なのではないでしょうか。無形のものであれば、地域外にいる人とともに受け継ぐことが可能です。

一人ひとりが何かしらの形でつながり、関わることによって、複数の地域をつないでいける。だからこそ「関係人口」が鍵であり、そうした人々のつながりや関わり合い、支え合いを実現するためにも、今テクノロジーの有効活用が求められているのだと私たちは考えています。

その地域にルーツを持ち、地域的アイデンティティを広く持てる人

—— これからの地域を支える存在として、活躍できるのはどんな人だと思いますか?

濱口:今私が携わっている業務と直接つながるところでいうと、地域と地域外をつなぐ企画ができる人。地域に愛着をもって活動ができる人でしょうか。

藤崎:その地域出身であったり、何かしらの縁があったりと、自分自身のルーツがあるとさらに強い思いを持って活動することができ、地域に大きく貢献できるのではないかと思います。

それはつまり、地域的なアイデンティティを幅広く持てる人なんじゃないでしょうか。濱口さんご自身とお話しているとよく感じるのですが、視点が個人の範囲ではなく、「この街にどう貢献するか」「この地域にどう関わるか」という広い視野をお持ちなんですよね。

—— なるほど。より大きな範囲で地域や社会のことを捉えていらっしゃるんですね。

藤崎:そうです。私は濱口さんのような視点を持った自治体職員の方と一緒に、いろいろなチャレンジができることが本当に楽しいんですよ。

濱口:キッチハイクのみなさんは、藤崎さんに限らずいつも褒め上手ですよね。その言葉、そっくりそのままお返しします!(笑) 仕事は楽しくできるのが一番ですから。


天草市とキッチハイクは、仲間を募集しています

天草を応援する:
天草のまちづくりに関わりたいという方はもちろん、「ふるさと住民」として天草を応援してくださる方も大歓迎です。天草にゆかりがある方や、天草が気になる方は、ぜひ詳細をご覧ください。

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