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エッセイ『急死に一生スペシャル①〜窒息編』

おぎゃあと産声を上げて以来人間として32年も生きていれば、そりゃあ一度や二度は生死の境を彷徨った経験は持ち合わせている。

今日は私が過去に経験した死にかけた話、『世にも信じがたい本当にあったホンマでっか死にかけエピソードVol.①』と題しまして、その当時の恐ろしい体験をサブイボをおっ立てながら書き綴ろうと思う。

アレは確か20代前半の頃、当時お笑いコンビを組んで東京の某芸能プロダクションに仮所属していた時のことだった。

忘れもしない、その日は一ヶ月に一度行われる事務所ライブへの出演権をかけた大事なオーディションの日であった。

朝、いつも通り目覚めた私はある違和感に気づいた。「あれ?唾を飲み込むだけで喉に猛烈な痛みを感じる。はっはーん、これはつまり風邪を引いたのだな」と楽観視していたのも束の間、そう言えば今日は大事なオーディションの日ではないかっ!?と思い出した。しかも、よりにもよって大声で叫びながらツッコミを入れ続けるようなアホアホコントをやる予定だった。こんなことなら早めに【囁き漫才】でも確立させておけば良かった、と後悔しても時すでに遅し。

どーしよう、、でもコンビだし相方に迷惑を掛けるわけにはイカン、と、悩みながらも早急に喉を本調子に戻してくれるドラッグはないものかと薬箱を調べていたら、以前に買ってから殆ど使っていなかった喉に直接スプレーするタイプのお薬が見つかったのだ。

あっ!喉に直接スプレーするタイプのお薬だ!これなら即効性もありそうだし今日一日くらいは何とかなりそうだ!と喜び勇んで早速スプレーを喉に噴射してみることにした。

でも、そういえば僕はあまり喉に直接スプレーするタイプのお薬を使った記憶がないことに気が付いた。どちらかと言うと、うがい薬でうがいをする派だったのだ。前に興味本位で買ってみたものの思っていたより気持ち良くなかったのでそのまま捨てずに置いておいたのだ。

でもあの時はここまで喉は痛くなかったし、多分使い方を間違えていただけだろう、と自己判断し躊躇うことなくスプレーを喉に噴射してみた。

一回、二回押してみたが暫く使っていなかったせいで出が悪い。何度か押してようやく満足のいく量の液体が噴射された。

うーむ、、でも、今痛いのは喉のもっと奥の方なんだよなぁ。手前側に液体は届いているけど、ノドチンコのもうちょい奥の喉頭の辺りが腫れている感じがするから何とかそこまで液体を届かせたいなぁ、と鏡を見ながら苦悩していたら良いアイデアが浮かんだ。

鏡で口の中を見ている時に気が付いたのだが、口を開けた状態で大きく息を吸い込むと口内が広がり喉の奥がよく見えるようになるのだ。

コレだコレだ、正解はコレでしたわ。息を吸い込んでいる途中で液体を噴射させればきっと患部に薬が届くぞ、寝起きなのに冴えてるね、と自画自賛しながら意気揚々と大きく息を吸い込みスプレーを噴射させてみた。


南無三


通常の水よりやや粘り気のあるその液体は大量に噴射され、僕の気道を完全に塞いでしまったのだ。

呼吸ができない、息を吸えない吐けないの窒息状態に陥り、一人暮らしのワンルームでのたうち回るわ絶叫するわの大騒ぎ。

パニックに陥り何故かロフトのハシゴ部分を掴んで頭を大きく前後左右に振り、咳を何度も繰り返し、もがき苦しみ、そしてようやく気道を確保することに成功した。

拷問のようなその地獄から解放され、その場にうつ伏せでへたり込み、死を迎えることなく生きている喜びに安堵し涙するその姿は、一塁にヘッドスライディングするも間に合わず惜しくも甲子園出場を逃した高校球児さながらであった。

あのまま死んでしまっては警察も自殺か事故か事件か判断に迷うことになっただろう。

皆様も喉に直接スプレーするタイプのお薬を使う際には充分に注意していただきたい。

用法のところには、液体が目に入ったら洗おう、とか、皮膚に付着したらかぶれる恐れがあるよ、とかは記載されているが、大きく息を吸い込んだ状態で噴射しちゃダメだぞ、とは一言も書いていないから、自己責任になるぞ!

こうゆう経験を経て思うのは生きているだけで人は充分幸せなのだ。

生きているだけで一つの奇跡なのだ。

だからこそ、たとえ辛い状況に陥っても決して死にたいとか思ってはいけないぞ!


ちなみにその日のオーディションは死にたくなるほどスベったけど、僕は幸せだったぞ!

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