エッセイ『続•続 アルバイトを始めました』
コロナ渦で新しく始めた某ファーストフード店でのアルバイトも段々と板についてきた
持ち前のコミニュケーション能力の高さを存分に発揮し、共に働く戦友の外国人アルバイトさん達とも仲良くやれている
ベトナム人やネパール人に囲まれて過ごす職場は何とも新鮮で、日々、自分の感覚が世界水準にアップデートされているような気がして嬉しい
こころなしか顔の彫りも深くなったような気がする
しかし未だに理解し難い感覚も多々ある。海外の方特有の感覚。一緒に働いてみてわかったのだが、
「今日ハ何時マデ入ッテルノ?」
と、他人が何時までシフトに入っているのか、ほぼ毎回必ず聞いてくるのだ
これはかなりの確率で、もはやあるあるに近い
「オハヨウゴザイマスー。今日何時マデ?」
「休憩アリガトゴザイマシター!アラ、キタサン!今日何時マデ?」
「オ客サン、タクサンネ、忙シイネ、今日何時マデ?」
冗談でも言い過ぎでもなく、毎日別々の人にこのレベルで聞かれるのだ
この感覚はどうも理解ができない。「まさか誘われているのでは?」と最初の頃は勘違いをしてしまっていた
他人が何時まで仕事をするのか把握しておきたい性分なのか、コミニュケーションを簡単に取りやすい定型文的な会話なのか、はたまた忙しい職場で少しでも一人一人の仕事の分量を分散させたいという堕落思想から生まれる質問なのか
謎は深まるが、会話のきっかけにはなるのでこのお決まりの質問のおかげで大変助かっている
しかし、最近は少し雲行きが怪しくなってきた
僕は基本、16時〜19時の三時間しかシフトに入っていないため、フルタイムで働く外国人アルバイトの〝ベマさん〟や〝スアンさん〟や〝アンズさん〟から若干苦言を呈されるようになってきてしまったのだ
ベマさん「今日何時マデ?」
僕「19時迄です」
ベマさん「早イネ、スグ帰ルノネ」
スアンさん「今日ハ何時マデ?」
僕「19時迄です」
スアンさん「エーッ、ズルイヨー」
アンズさん「キタサン今日何時マデ?」
僕「19時迄です」
アンズ「何デ?短イヨ!モット働カナイト!」
僕「いや、朝から別の仕事してんすよ」
アンズ「何ノ仕事シテル?」
僕「ボウリング場ですよ」
アンズ「ボウリング?…ソンナノ仕事ジャナイヨ!」
などなど、イジられているのか呆れられているのか、とにかく近頃風当たりが強いのだ
野球で言うと、左のセットアッパーで一軍登録されている僕のようなポジションを海外の方に理解させるのは極めて難しい
まさか外国人相手に、
僕「僕はね、昔の阪神タイガースで言うところの、遠山なんですよ。松井秀喜の時だけ登板して1打席だけ抑えて交代するような、中継ぎの代名詞みたいなポジションなんですよ」
アンズさん「エッ?ナニ?トーヤマ?マツイ?」
僕「ゴジラ松井ですよ」
アンズさん「ゴジラハ知ッテルヨ」
僕「うん、そのゴジラをね、抑えるための、言わばそれだけの男ですよ。あなた達は先発だったり抑えだったりで、華々しい活躍とかして人気もあるし年俸も高いでしょう?チームの軸ですよ。中継ぎは地味なのよ、年俸も低いし、知名度も低いし、玄人向けなのよ、左のワンポイントの悩みもわかってくれよ」
アンズさん「チョット何イッテルカワカラナイネ」
こんな会話をしてしまっては日本の恥だ。喩えを交えたり長尺の説明で理解させることが不親切だと分かっているからこそ、自分が三時間しか働かないヒールに徹底するしかないのだ
悲しい性やね
でも、そのぶん、その三時間は全力で働きますさけ、なんも文句は言わせんですけぇ、安心してくだせえ
唯一怖いのは、
「ドウセアイツ19時マデダヨ」
と、外国人達の間で噂が拡まって誰もこの質問をして来なくなった時が訪れるのが一番怖い
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