広島大学起業部の歴史:起業家教育に意味はあるのか?
広島大学起業部は、2016年に設立された、学生が起業を人生の選択肢の一つとして考えることを支援するクラブです。当時、広島大学は国の「グローバルアントレプレナー育成促進事業」に採択されており、起業家育成のための教育プログラムを展開していました。しかし、「座学中心の教育だけで本当に起業家を育成できるのか」と課題を感じた佐々木先生が、実践的な学びの場を提供する目的で起業部を立ち上げました。
起業部は当初、非公式の活動としてスタートしました。2021年度からは学長の後押しもあり、大学の予算が支給される正式な部活動として再始動しました。現在も、学生たちが自らのアイデアを形にし、ビジネスへと発展させるための活動を続けています。
本ページでは、初代学生代表である北村の視点から、これまでの起業部の歴史を振り返ります。(敬称略)起業部に関わり、ご支援いただいた多くの方々がいらっしゃいますが、全てをご紹介しきれないため、主に学生委員とイベントを中心に掲載しております。
第一期 2016年度:起業部1st Penguin Club立ち上げ
学生代表:北村拓也
学生副代表:傳田寛人
担当教員:佐々木宏、平見 尚隆
当初は約7名のメンバーでスタートしました。創業者は佐々木先生です。主な活動内容は、毎週メンバー同士で各自のプロジェクトの進捗状況を共有し、意見交換や相談を行うことです。itobanashiを創業した伊達さんを中心に、広島大学で自身のプロジェクトを立ち上げて活動したいと考える学生たちが、VBL(ベンチャービジネスラボラトリー)の一室(以下の画像では左から二番目)に集まりました。
プロジェクトの例として、わたしが当時推進していたプロジェクトを3つ紹介します。
子供向けプログラミングスクール「テックチャンス」は現在も運営しております。
起業部初のイベント「夢への一歩の踏み出し方」
2017年2月15日、起業部初のイベント「夢への一歩の踏み出し方」を開催しました。ポスターを作成し、学校全体に掲示しました。参加者が集まるかどうか不安でしたが、予想以上に多くの方々にご参加いただき、大変嬉しく思いました。中には高校生の方々も参加しており、幅広い層からの関心を確認することができました。特に西原先生の話がとても面白くて人気でした。
第二回のイベント開催
第二回目のイベントは、イノベーションハブひろしまCampsにて「アイデアをカタチにするには」をテーマに開催しました。前回が講演のみであったため、今回はワークショップ形式を採用し、参加者が実際にアイデアを具体化する機会を提供しました。広島市内での開催となったことで、社会人の方々にもご参加いただけたことが印象的でした。Campsがおしゃれだったため緊張したことを覚えています。
第二期 2017年度 前期
学生代表:傳田寛人
学生副代表:北村拓也
担当教員:佐々木宏、平見 尚隆
代表職を半年ごとの任期制に変更しました。さまざまな学生が代表を務めることで多くを学べると考えたからです。第二期代表の傳田は私の同期で、起業部を向上心ある学生が集まるコミュニティにしたいと考えていたのが印象的でした。毎週の定例会では、学生たちがそれぞれ挑戦したいプロジェクト内容を共有し、参加者からのフィードバックを受ける形式を採用しました。また、プロジェクトリーダーが各自のプロジェクトを発表し、メンバーの募集を行うことで、チームの拡大とプロジェクトの推進を図りました。
当時はそれぞれの学生が外部の教育プログラムで学んできた内容や書籍の内容を共有することで、試行錯誤しながらプロジェクトを進めていました。
人数が増えたことで、新興宗教の勧誘を始めるメンバーがでたり、マルチビジネスに学生を勧誘する社会人がでたりとトラブルもありました。
おもしろラボでの説明会
工学部に新設された「おもしろラボ」で開催された説明会は大いに盛り上がり、参加した学生のほとんどが二次会にも参加してくださいました。二次会は鈴木さんが運営する「学生と地域をつなぐOlu Olu cafe」にて行われ、その熱気あふれる雰囲気が非常に印象的でした。
NEDOの後援
2017年に広島大学起業部は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)より後援をいただく運びとなりました。この後援の背景には、起業部が大学研究の実用化に積極的に取り組んできた実績が評価されたことがあります。
NEDOは、日本最大級の公的研究開発マネジメント機関として、経済産業行政の一翼を担い、「エネルギー・環境問題の解決」および「産業技術力の強化」の二つのミッションに取り組む国立研究開発法人です。
徐々に非公式の活動だった起業部の名前が広まってきていました。
中国新聞掲載
2017年6月10日、中国新聞に1st Penguin Clubについての記事が掲載されました。説明会の写真と共に同クラブの説明や、大幅な部員増加を遂げた現在の状況が主な内容です。プログラミングスクール「テックチャンス」についても紹介いただきました。
起業部メンバーのメディア露出
起業部メンバーのメディア露出も増加し、徐々に大学での起業部での認知度が上がってきました。
広島大学でのイベント開催
広島大学が主催するイベントとして、子供向けの体験会を開催しました。朝早くから多くの子供たちが訪れ(自分は寝坊しましたが)、活気に満ちた雰囲気となりました。
学生異分野交流会の開催
当時、起業部は他の学生から見るとまだ未知で怪しい団体でした。しかし、集まったメンバーの一人ひとりが魅力的であったため、交流を通じて団体の魅力を知ってもらう目的で、毎週食事を共にする交流会を開催しました。
2017年度 後期
学生代表:来田直也
学生副代表:傳田寛人、北村拓也、雨宮優佳
担当教員:佐々木宏、平見 尚隆
これまで大学院生が代表を務めていた起業部において、最年少の学部生である来田君が新たに代表に就任しました。起業部の代表は、時間的にも責任的にも非常に重いポジションです。しかし、彼は「先輩から受けた恩を返したい」という強い想いでその役職を引き受けてくれました。若きリーダーの就任により、起業部は新たなステージへと歩み始めます。
「もくもく会」開催
昼休み中、遠くの校舎から通うのが難しい学生もいたため、代表の来田君を中心に「もくもく会」を開催しました。この会では、各自がそれぞれの作業に集中できる環境を提供し、移動の負担を軽減するとともに、効率的な学習やプロジェクトの推進をサポートしました。
本格的なアクセラレーションプログラムの実施
経洗塾代表の井上氏をお招きし、学生ベンチャーの育成を目的とした本格的なアクセラレーションプログラムを実施しました。本プログラムでは、急速に事業を成長させている著名な起業家やベンチャー支援の専門家を講師として招き、参加学生に対して実践的な知識とネットワーキングの機会を提供しました。
2日間にわたる集中セッションでは、学生一人ひとりが自身の情熱と向き合い、具体的なビジネスプランの策定に取り組みました。
ゲスト講師&審査員:
板倉氏(株式会社Portable 代表取締役)
初谷氏(株式会社ビズ・クリエイション 代表取締役)
木村氏(初谷インキュベイトファンド)
松本氏(広島工業大学情報学部 知的情報システム学科 准教授)
2018年度
学生代表:北村拓也
学生副代表:原健也、雨宮優佳
担当教員:佐々木宏、平見 尚隆
起業部の紹介セミナーを開催しました。わたしがシリコンバレーでの短期研修および「飛び立て留学ジャパン」のアメリカでのインターンシップに参加していたこともあり、クラブの活動は控えめとなりました。
年度末には、創設者である佐々木先生と橋本センター長が大学を退職され、起業部の活動はほぼ停止状態となりました。さらに、大学の一部の方からは「学生の起業を支援することによる大学のメリットがわからない」という意見もあり、起業部の歴史はここで終わってしまうのではないかと感じていました。
2019年度:再始動
学生代表:原健也
学生副代表:清水祥平、雨宮優佳、中野 瑛登、北村拓也
担当教員:平見 尚隆
起業部にとって大きな転機となったのは、越智学長へのプレゼンテーションの機会をいただいたことでした。学長は起業家教育に前向きで、まだ学生であったにもかかわらず、わたしを学長特任補佐に任命してくださいました。その後、わたしは9月に博士課程を早期修了し、特任助教として起業部の再始動を任されることとなりました。
早速、入部説明会を開催したところ、予想を上回る70名以上の学生が参加してくださいました。これほど起業に興味のある学生がいたのに、起業部が停滞していたことを申し訳なく感じました。また、中国新聞にも取り上げていただき、大きな注目を集めることができました。多くの社会人の方々からも「再始動を待っていました」という温かい声をいただきました。
起業部が大学公認の活動に
広島大学起業部は、ついに大学公認の活動として正式に認定されました。新しい活動拠点として、新設された「福山通運小丸賑わいパビリオン」を利用できるようになり、活動の幅がさらに広がりました。さらに、学生や教授が大学の住所を使用して会社を登記することが可能となりました。登記の面接担当はわたしと起業支援部門の部長が務めることになりました。
メンター制度とゼミ化の導入
私が参加していた国内最大の学生起業家育成組織MakersUniversity(第三期)の仕組みに影響を受け、広島大学起業部でもメンター制度とゼミ制度の導入を決定しました。これに伴い、当時から無償で起業部を支援してくださっていた社会人の方々に声をかけ、起業部のメンター制度が正式にスタートしました。また広島ベンチャーキャピタルから支援を受けて学内ビジネスコンテストを開催しました。
2020年度:コロナ
学生代表:古財怜旺
学生副代表:米倉海晴、大橋 春仁
相談役:中野 瑛登
メンター代表:山田芳雅
担当教員:北村拓也、平見尚隆
2020年度からはコロナの時代です。わたしは起業支援部門の部門長になりましたが、大きな成果は挙げられませんでした。
学生運営委員の資料から当時の様子を紹介します。
(株)マリモホールディングスからの寄付決定とHPの刷新
平見先生のご尽力もあり、(株)マリモホールディングス様より寄付をいただくことが決定いたしました。また、大学からの金銭支援も受け、公式ウェブサイト(HP)を刷新しました。
2021年度
学生代表:米倉海晴
学生副代表:大橋 春仁、犬田悠斗、檢校由太朗
相談役:中野 瑛登
担当教員:北村拓也、平見尚隆
ゼミ・勉強会・イベントの仕組みづくりとメンター制度の解散
ゼミや勉強会、イベントなどの運営体制を整備しました。しかし、メンター制度の運営が困難となり、最終的にメンター制度を辞めることとなりました。熱意あるフルタイムスタッフが常駐するMakersの仕組みを模倣しようと試みましたが、同様の体制を再現することは難しかったのです。メンター制度がなくなった穴を、相談役として中野君が支えてくれました。
2022年度
学生代表:米倉海晴
学生副代表:佐久間英男、谷本和史
相談役:中野 瑛登
担当教員:北村拓也
本年度は、長年にわたりご支援いただいていた平見先生が異動されることとなり、起業部としては一時的に体制の変動がありました。しかし、代表の米倉君が卓越したリーダーシップを発揮し、起業部をしっかりと牽引してくれたおかげで、活動を滞りなく進めることができました。また、広島経済同友会主催のビジネスコンテストを開催し、多くの学生が参加する中で新たなビジネスアイデアの発掘と実践の場を提供することができました。わたしがあまり活動できない一方で、同期の合同会社ひとむすび代表の山田が支援してくれました。
2023年度〜2024年度 前期
学生代表:佐久間英男
学生副代表:荻野瞬樹
学生顧問:中野瑛登
担当教員:北村拓也
大学生×まちづくり実践発表会2024 in 三次において、広島大学起業部1st Penguin Clubの代表・佐久間さん(総合科学部3年)と学生顧問・中野さん(人間社会科学研究科修士2年)が登壇。私も学生たちと共に、3日間で起業を体験するスタートアップウィーケンド in 福山に参加しました。
代表の佐久間君から方針「想いをカタチにする場所」の発表。
2024年度 後期
学生代表:千田太志
学生副代表:竹内結萌
学生副代表:平野美咲
学生顧問:中野瑛登
担当教員:北村拓也
アドバイザー:井上 智央
2024年度後期より、千田君が広島大学起業部の新代表に就任しました。千田君のリーダーシップにより、起業部はさらなる発展と新たな挑戦を目指します。起業部の物語はまだまだ続きます。今後の起業部にご注目ください!
ぜひ起業部Instagramをフォローしてください。
(学生によると、いまはInstagramで発信するのが当たり前らしいです!)
https://www.instagram.com/firstpenguinclub_hiroshima/
あとがき:起業家教育に意味はあるのか?
この問いへの答えは、明確に「YES」です。インドネシア出身の留学生に同じ質問をしたところ、「当たり前だよ。インドネシアでは、就職よりも起業が一般的なんだから」と答えてくれました。実際、世界経済フォーラムの2019年の報告によると、インドネシアでは若者の34.1%が自ら起業した会社で働いており、それを上回る35.6%が将来も起業を望んでいます。
このように、起業が自然な選択となる環境や、起業が必要とされる社会では、人々は自然と起業の道を選びます。私自身も後者の理由から起業を選びました。中学生の頃から不登校で、社会の中で自分が不適合者だと感じていました。従来の会社組織では働けないと考えていたため、大学卒業後も一度も正社員として働いたことがありませんでした。生計を立てるためには、起業以外の選択肢がなかったのです。
一方で、私のように会社で働くことが苦手な人々が、無理をして組織に適応しようとしている現状も見受けられます。それは、起業という選択肢を十分に理解していないからです。起業の存在は知っていても、その具体的な方法やプロセスを知らないため、選択肢に含まれないのです。人は未知のものに対して恐怖を抱きやすいものです。
そもそも、起業とは何らかの目的を達成するための手段の一つに過ぎません。起業が優れていて、会社勤めが劣っているわけではありません。しかし、自分に適した道であるにもかかわらず、情報不足や教育の欠如によって選べない状況は非常にもったいないと感じます。
だからこそ、大学生の段階から起業が身近で当たり前の環境を整え、起業に関する知識や経験を得られる場、例えば起業部のような場所の存在は、学生たちの人生の選択肢を広げる上で非常に重要です。実際、現在の起業部では25人中5人、すなわち20%の学生が起業しています。起業が完全に当たり前になるまではいかなくとも、起業は誰でもできる、特別なことではないという文化が醸成されつつあります。私はそのような環境をより多くの人々に提供し、その輪を広げていきたいと願っています。
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