限定提供データの指針案について
第10回 産業構造審議会 知的財産分科会 不正競争防止小委員会の資料として、限定提供データの指針(案)が公表されています。
限定提供データというのは、平成30年改正の不正競争防止法で導入されたもので、IoT、ビッグデータ、AI等の情報技術により、気象データ、地図データ、機械稼働データ、消費動向データなどについて、付加価値が高まり、他方、不正取得されてしまうと投資回収の機会を失ってしまうことから、限定提供データの不正取得・使用・開示行為等の不正競争行為について、民事的な規制の対象とするというものです。
問題は、「限定提供データ」というのは、どのようなものなのか、その範囲はどのように確定されるのかというところでした。
不正競争防止法第2条第7項は、
この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)をいう。
と定めているのですが、「相当量蓄積され」の相当量というのは、どれぐらいなのか、文言だけではよく分かりません。
そこで、ガイドラインで相当量蓄積されるというのが具体的にどの程度なのか明らかになるものと期待していました。
指針案(9頁)を見ると、
(1)「相当量」について
「限定提供データ」は業として提供されるデータであり、「相当量」は、個々のデータの性質に応じて判断されることとなるが、社会通念上、電磁的方法により蓄積されることによって価値を有するものが該当する。その判断に当たっては、当該データが電磁的方法により蓄積されることで生み出される付加価値、利活用の可能性、取引価格、収集・解析に当たって投じられた労力・時間・費用等が勘案されるものと考えられる。
となっており、相当量は、「社会通念上、電磁的方法により蓄積されることによって価値を有するもの」とされています。この文言を素直に読むと、それほどの量でなくとも価値を有することになりかねないという印象です。エクセルの数百行程度のデータであってもそれなりに価値が生じる場合はあるでしょう。ビッグデータを念頭に置いて立法されたことからすると違和感があります。
なお、指針案(9頁)には、原則として「相当蓄積性」を満たすと考えられる具体例が掲載されています。
<原則として「相当蓄積性」を満たすと考えられる具体例>
・携帯電話の位置情報を全国エリアで蓄積している事業者が、特定エリア
(例:霞ヶ関エリア)単位で抽出し販売している場合、その特定エリア
分のデータについても、電磁的方法により蓄積されていることによって
取引上の価値を有していると考えられるデータ
・自動車の走行履歴に基づいて作られるデータベースについて、実際は分
割提供していない場合であっても、電磁的方法により蓄積されることによって価値が生じている部分のデータ
・大量に蓄積している過去の気象データから、労力・時間・費用等を投じ
て台風に関するデータを抽出・解析することで、特定地域の台風に関す
る傾向をまとめたデータ
・その分析・解析に労力・時間・費用等を投じて作成した、特定のプログ
ラムを実行させるために必要なデータの集合物
これらが、相当量蓄積されているということにおそらく異論はないのでしょうが、逆に相当蓄積性がないものの例が欲しいところです。
指針案を見る限り、該当する範囲が広く、実務的には、例外事由にあたるかの方が重要になるのかもしれません(第19条第1項第8号ロ、指針案14頁以下)。