大人との境目
大人はずるい。大人というだけで全ての責任を自分で持つことができるから。
私は多くの人が行き交う新千歳空港の柱の影から、彼を見つめていた。やっぱり北海道から長く離れるためか、少し落ち込んでいるように見える。私はスマートフォンを取り出し、そんな傷心の彼にメッセージを送る。
遠目に見る彼は、すぐに私のメッセージを確認する。最後のデート時に渡していおいたお守りの中身を確認し、少しは元気が出たのか、意気込んだように手荷物検査場へと向かっていった。
「まったく、子どもみたい。先に大人になったくせに」
大人は平日に空港にいてもなにもいわれない。でもきっと私が平日に普段している格好……高校生の制服で、警備の人に目をつけられたら、それはきっと怒られることになる。
しかも恋人が社会人になった人だなんて、それが伝わったらせっかくの入社も無くなってしまうかもしれない。
私と彼が、いくら幼馴染で長い長い付き合いがあって、複雑な紆余曲折があってやっと恋人同士になったとしても、周りから見れば大人と子どもでしかないんだ。それは私達だけが分かっていて、きっと他の誰にも理解されない。
「はぁ……長いなぁ」
子どもを、高校生を卒業するまであと1年。メモにはあんなことを書いたけど、私だって寂しいに決まっている。
「……温泉でも入ってかえろ」
新千歳空港は、札幌からJRで40分。札幌市民でも、用事がなければなかなか来ない場所でもある。ただ自分の彼氏を内緒で見送りに来た、本当の理由はそれだけなんだけど、なんだかこんなに心配にさせる彼にムッとしてきたから、温泉で全て洗い流すことに決めた。
「ぜったいに私からはメッセージ送ってやらないんだから」
そんな小さな抵抗を胸に、私は彼と反対方向に歩きだした。
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●新千歳空港温泉
新千歳空港内4階にある温泉。湯着やタオルが全てついているので手ぶらで入ることが出来る。露天風呂はとても広く冬は北海道の寒さと暖かさを同時に楽しむのが醍醐味。備え付けのシャンプーやリンスがハスカップの香りなのも面白いところ。お食事だけでも可能なので、他の飲食店が混んでいても以外と待たずに入れたりもする。