ISO感度が画質を左右する理由と画素サイズを大きくするメリットについて。
※この記事は全文を無料でお読みいただけます。
ISO感度を高くすると画質が悪くなるのは頻繁にカメラを使っている人には知られていることだ。
じゃあ、どうして感度を上げると画質が落ちるのか?と考えはじめると、いまいちよくわからない。
ワタシ自身、だってそういうもんなんだから、フィルムだってそうだったじゃん、などと薄くわかったふりをしていただけだったので、この際少しだけまじめに考えてみることにした。
例によって、この記事は有料設定してあるが、購入しなくても全文を読めるようにしてある。
お読みいただけるだけでもうれしいし、ご購入もしくはサポートをいただければもっとうれしいと思う次第である。
光を電気信号に変換するメカニズム
ご存知のとおり、デジタルカメラの撮像センサーにはものすごい数の画素が規則正しく並んでいる。
たとえば、パナソニックのLUMIX DC-S5であれば、画面の長いほうに6,000個、短いほうにも4,000個の画素が並んでいて、掛け合わせると2,400万個にもなる。シグマのちっちゃいフルサイズミラーレスカメラSIGMA fpも同じく2,400万画素だ。
で、この画素ひとつひとつにはフォトダイオード(長いんで、以下「受光部」と略す)という部分があって、ここに光が当たると「電荷」というものが発生する。
「電荷」は辞書によると「すべての電気現象のもとになるもの」で、おおざっぱには「電気の粒」というふうにイメージするとよさげである。
この電荷は受光部に当たる光の量が多いほどたくさん発生する。ので、発生した電荷の量=電気の粒の数をはかると、その画素に当たった光の量がわかることになる。
2,400万個の画素の電荷の量をはかった情報を集めてきて、それを画像処理エンジンで調整したり加工したりして、できあがったデータをJPEGなりRAWなりのファイル形式でメモリーカードに保存する。
単純に言えば、これがデジタルカメラの仕組みだ。
画素は電荷を発生させて溜め込む容れ物
さて、ひとつひとつの画素の受光部は、レンズから来た光の量に応じた電荷を発生させる役割と、それを一時的に溜め込む容れ物としての役割を持っている。
受光部の面積が大きいほどたくさんの光を受け取ることができ、その分たくさんの電荷を発生させられる。容れ物としての余裕もあるので、たくさんの電荷を溜め込んでもおける。
また、電荷をたくさん発生させられるほうが電荷の量を把握しやすいこと。それゆえに、光がたくさんあるシーン=明るい状況のほうが受光部としては有利なことも覚えておいてもらえたらと思う。
一方、電荷を貯める容れ物としては、度を超えた量の電荷が発生するのは困る。容量以上の電荷は貯めておけないので、発生する電荷の量がそれより少なめであることが望ましい。
つまり、明るすぎもよくない、ということだ。
たとえばの話、電荷を100個まで貯め込める容量がある受光部に、電荷を200個発生させられるだけの光が当たったとしても、先着100個までしかカウントできない。残りの100個はスルーされてしまう。
ので、ほんとは電荷200個分の光が当たったのに、得られる情報は「電荷100個でしたよ」になってしまう。
これでは困るので、受光部に当たる光の量をほどほどに調整してやる必要がある。
この仕事を受け持っているのが、レンズをとおる光の量を調整する絞りと、受光部に光が当たる時間を調整するシャッターなわけだ。
ノイズはどこからともなく湧いてくる厄介もの
電荷はとても小さいので、その量を正確にはかるのは簡単ではない。
ノイズが邪魔をするからだ。
なにしろ、電子回路はそれ自体がノイズ発生装置のようなものなので、デジタルカメラの中のそこかしこからノイズが湧いてくる。
ここで問題にしているのは、電荷の量を把握するさまたげになるノイズのことで、受光部に貯まった電荷がなにかにはじき出されて減ったり、あるいは電荷にまぎれるにせものが混じって見かけ上増えたりする現象がノイズの影響だ。
たとえば、ある画素の受光部に光が当たって電荷が100個発生したときに、ノイズの影響で最大5個分の増減が起きる。と考えてみよう。
100個の電荷に対して、誰かが電荷っぽく見える別のなにかを混ぜたり、こっそり抜いて隠したりするのだ。
そうすると、受光部から得られるはずの「100個」という情報が、「97個」になったり、「104個」になったりする。
つまり、画像処理エンジンに送られる情報が不確かなものになってしまうわけだ。
隣り合う画素の情報と比べて差を減らす
ノイズには、固定的なパターン=クセを持つものと、都度都度変化するものとがある。
前者は「100個」という答えが出るはずのところを必ず「96個」になってしまうタイプ。これは足りない4個分を補う命令を紐付けておけば解決する。ので修正は比較的簡単だ。
が、もうひとつのは「100個」という答えが出るはずのところを、毎回違う数字で返す気まぐれ屋タイプ。こちらは対応がややむずかしい。
たとえば、並び合う画素からの情報が、
……95、103、98、101、96、105、97、102、99、104……
というふうにデコボコな状態だった場合、となり合った画素同士でそんなにばらつかないだろう、これはノイズの影響だね、と判断できる。ので、数字が大きい画素から引いて、数字が小さい画素に足して、ならしてやればいい。
たとえば、左端の2つなら「95個」と「103個」なので、多いほうから少ないほうに2個あげる処理をする。そうすると「97個」と「101個」というデコボコの少ないなめらかにつながる情報になる。
こんなふうに、ノイズによる情報のばらつきを減らし、汚れを落として、おそらくはもともとの状態に近いと思われる情報に仕上げるのがノイズ低減処理なわけだ。
ノイズ低減処理が画質を悪くする場合もある
もしかしたら、ケチらずにもっと多めに足したり引いたりすればもっとなめらかな情報にできるんじゃね?と思う人もいるかもしれない。増減の幅を「3個」に増やせば、「98個」と「100個」というふうに、デコボコの少ない情報にできる。
のはいいが、これがたとえば、
……95、98、102、105、99、97、101、103、96、104……
だとどうなるか。
これもノイズの誤差と判断してならしていくのか、あるいはこういう模様と考えて残していくのか、悩まないといけなくなる。
条件がよければノイズなのか模様なのかを判別しやすいかもしれないが、光が少ないとかのよくない条件のときには判断を間違うこともありえる。
そうすると、木目のような細かいパターンがノイズ低減処理によってのっぺりと塗りつぶされてしまう、なんてことも起きてくる。
ノイズは消したい。が、一方では木目のような細かいパターンの情報=ディテールは残したい。そういうところの駆け引きが、カメラの中で繰り広げられているのかもしれないわけだ。
感度を上げるには電荷の量を水増しする
前の記事で、「感度を上げることはカメラにとっては無理をすることなので、そのしわ寄せは画質にあらわれる」と書いたが、そこのところを少し突っ込んで考えてみる。
あるシーンで撮像センサーのどこかひとつの画素の受光部で「100個」の電荷が発生して、ノイズによる誤差は「±5個」としておこう。
これでたとえば光の量が半分になると、発生する電荷の量も半分の「50個」になる。それだと明るい画像を作るのには足りないので、電気的に水増しをする。「増幅率を高くする」というヤツだ。
半分の「50個」に減った電荷の量の情報を2倍にしちゃおう。というのがデジタルカメラの「感度を1段上げる」ことだ。
受光部からの情報に、「画像処理エンジンには「100個」って伝えておいてよ、そうしたらもとと同じ明るさの画像にできるよね」という札を貼る。で、画像処理エンジンには「100個」という情報が送られる。
光が減った分を電気的な水増しによって、もとと同じ明るさの画像を作りましょう、というわけだ。こうすることで、光が少ないシーンでも十分な明るさの写真が撮れるようになる。
情報を水増しするとノイズもいっしょに増える
問題は、電荷の量の情報にはノイズという誤差が含まれている、ということだ。
もとは電荷が「100個」で誤差が「±5個」だったわけで、得られる情報は「95個から105個のあいだ」になる。
それが、感度を1段上げると電荷は半分の「50個」に減る。が、ノイズは光の量とは無関係に発生して、やはり「±5個」の誤差を生む。
そうすると、得られる情報は「45個から55個のあいだ」となる。これを感度を1段上げる=2倍に水増しするのだから、得られる情報が「90個から110個のあいだ」になってしまう。
光の量がさらに半分、もとの4分の1に減ったとすると、発生する電荷の量は「25個」。ノイズを含めると「20個から30個のあいだ」となり、これを感度2段分の4倍にすると「80個から120個のあいだ」になる。誤差が4倍に増えるのである。
感度を上げれば少ない光で撮影できるが、得られる電荷の量が少なくなるので、水増しの度合いをアップさせてカバーしないといけない。にもかかわらず、ノイズの量は変化しないので、感度を上げるに連れて相対的にノイズは増えていく。
並んだ画素からのひとつながりの情報を見ると、デコボコの度合いが大きくなったような感じになる。これが空やボケた背景などの無地の部分にザラツキとなってあらわれる。
あるいはこのデコボコをなめらかにしようとノイズ低減処理を強めにかけると、夜景で言えばベランダの柵の格子のパターンだったり、街路樹の輪郭やら電線やらの細かい部分がノイズのデコボコといっしょに消されてしまう。
そういうふうにして画質が落ちていくわけだ。
念のために書いておくが、ここではものすごく単純なモデルを使って、画像処理のごく一部のプロセスだけの話をしているだけで、実際にはノイズの出る場所はいっぱいあって、出方もいろいろあって、それを低減するための処理もずっと複雑で高度である。
感度を上げても画質が落ちないようにする方法
今度は、感度を上げても画質が落ちないようにするにはどうするか、というのを考えてみる。と言っても、すでにカメラメーカー各社がやっていることなので、ちょっと考えれば誰でもわかることばかりである。
単純明快なのは撮像センサーのサイズを大きくすることだ。
画素数が同じであれば、撮像センサーを大きくするほどひとつひとつの画素のサイズを大きくできる。必然的に画素の中の受光部も大きくできる。
単純計算では、撮像センサーのサイズを2倍にできれば受光部の面積も2倍になる。同じ量の光が当たったときに発生する電荷の量は2倍になる。感度で言えば1段分だ。
光が少ないシーンでも大幅な水増しをせずにすむから相対的にノイズが減らせる。その分、きれいな情報が得やすい。結果、画質がよくなる。
スマートフォンやわりとお手軽価格のコンパクトデジタルカメラの撮像センサーは1/2.3型と呼ばれるもので、これに比べてマイクロフォーサーズの撮像センサーの面積は約8倍、APS-Cサイズだと約13倍、フルサイズでは約30倍になる。
感度で言えば、マイクロフォーサーズが3段、APS-Cサイズが3.7段、フルサイズは4.9段ぐらいかせげることになる。
これがそのまま画質の差になるのかと言うとまた話は別で、それは撮像センサーのサイズ以外の要素もいろいろあるからなのだが、暗いシーンでの強さを比べれば、やはり撮像センサーの大きいカメラの優位は間違いない。
ただし、撮像センサーを大きくすればカメラ本体も大きくなるし、レンズも大きくしないといけなくなる。大きくなれば重くなるし高価にもなる。持ち運びも簡単じゃなくなるし、お財布へのダメージも大きくなる。
画素数を少なくしたり、裏返しにする手法もある
撮像センサーを大きくせずに、となると、画素数を減らすのが簡単かつ効果的だ。
画素数を少なくすれば、ひとつひとつの画素は大きくできる。撮像センサーのサイズを大きくしなくていいのでカメラもレンズも大きくならないのがいい点だ。
この手法をとっているのがソニーのα7S IIIやパナソニックのDC-GH5Sあたりで、画素数を標準モデルのα7 IIIやDC-GH5の半分ほどに抑えてある。ひとつひとつの画素の受光部の面積は単純計算で2倍にできるのだから、感度1段分かせげることになる。
反面、画素数が少なくなるので、細かい部分の再現が重視される風景写真や美術品などの精密な複写といった用途には不向きになるし、大きなサイズのプリントや印刷物に仕上げたいときにアラが目立ちやすくなったり、トリミングの許容度が低くなるなどのマイナス面もある。
それ以上に、やや特殊な需要向けという位置づけになってしまうせいで、割高感が強くなる。実際、α7S IIIやDC-GH5Sも「画素数が少ないくせになんで?」と言いたくなるぐらいに立派なお値段だったりする。
あと、撮像センサーの構造を変える手もある。
通常の撮像センサーは、受光部の層の上に信号を伝達する配線の層を重ねた構造なので、受光部の面積をあまり大きくできないという泣きどころをかかえている。
でも、技術の進歩のおかげで、配線の層を細くしたり高さを抑えたりして、受光部に当たる光の量を以前よりも増やせるようになってきた。
さらに、裏面照射型というのもある。こちらは、配線の層の上に受光部の層が乗っかったような構造なので、受光部を大きくしやすいのが売りだ。
製造はややむずかしくなるものの、撮像センサーのサイズを変えずに、かつ画素数を減らすこともないとあって主流になりつつある。
とまあ、ISO感度にまつわる話を書き連ねてみた。感度を上げると画質が悪くなるわけ、撮像センサーが大きいほど画質面で有利になる理由も、なんとなくご理解いただけたのではないかと思う。
【追記】低い側の拡張感度で白飛びが起きやすくなるわけ
ひとつ書き忘れていたことがあったので追記しておく。
ベース感度より低いほうの拡張感度で白飛びが起きやすくなる理由についてである。
感度を上げたり下げたりすることは、ようは増幅率を上げたり下げたりすることであって、電気的に水増しにすぎない。
で、感度を下げるとその分を絞りを開けたりシャッタースピードを遅くしたりして帳尻を合わせないといけなくて、そうすると受光部に当たる光の量は増えることになる。
ところが、受光部に貯められる電荷の量にはかぎりがある。ので、光がたくさん当たる画素はあっぷあっぷになりやすい。結果、白飛びしやすくなるわけだ。
画素サイズが小さなカメラのほうが、普通に考えれば高感度に弱いはずなのにベース感度が高い傾向があるのは、そのへんが関係しているのだろうと思っている。
ここから先は
¥ 300
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?