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カメラのストラップの取り付け方の話。

「ニコン巻き」という言葉をご存知だろうか。

 かなりのカメラ好きなら、目にしたり、耳にしたことがあるかもしれないけれど、知らない人も多いんじゃないかと思う。

 食べ物は関係ない。恵方巻きとも伊達巻きとも無縁である。

 ちなみに、ニコンでは、というか、正確には、株式会社ニコンイメージングジャパンが運営する公式オンラインショップであるニコンダイレクトでは、ニコンのロゴが入ったようかんが売られている(もちろん「ニコンようかん」という商品名だ)。が、売っているのはようかんだけで、手巻きずしはない。

 まあ、それはいいとして。

 Googleなどで「カメラ ストラップ 取り付け方」で検索すると出てくるので、名前は知らなくても、やり方は知っているという人もいるかもしれない。人によっては「プロスト巻き」「プロスト通し」と呼んでたりもする。

 どれも俗称だ。「ニコン巻き」にしても、ニコンがそう呼んでいるわけではない。いつからともなく、そう呼ばれるようになって、ある程度定着はしているけれど、誰にでも通用する言葉ともいいきれないようだ。


 一眼レフやミラーレスカメラの使用説明書にも、ストラップの取り付け方は記載されている。古いカメラの場合は載っていないこともあるが、今のカメラなら、ストラップを取り付ける方法が書かれたページが、たいていはある。

 ついでに書いておくと、多くの人がよく使う「トリセツ」は「取扱説明書」を省略した呼び名だが、一眼レフやミラーレスカメラを発売しているメーカー(過去に発売していたメーカーも含む)のうち、「取扱説明書」派は、オリンパス、京セラ(コンタックス)、ソニー、パナソニックの4社。一方の「使用説明書」派は、キヤノン、コニカミノルタ、シグマ、ニコン、フジフイルム、ペンタックスの6社で、過半数を占めている。だから、ここでも、「使用説明書」と書く。

 さて、使用説明書に載っているストラップの取り付け方には、金具やリング状のパーツの外側からストラップの先端部をとおして留め具(漢字の「日」みたいな形のプラスティック製のパーツ。どのカメラの使用説明書にも名前は載っていない。手芸洋品店などでは「アジャスター」という名前で売られているらしい)の裏側を、下から上に抜いて留める方法と、上から下に折り込むようにして留める方法があって、現行の一眼レフやミラーレスカメラは、このどちらかとなっている。

 この、上から下に折り込むようにして留める方法が、いわゆる「ニコン巻き」である。もう一方の、留め具の裏側を下から上に抜いて留める方法については、名前の記載はないし、俗称も特にない。だからといって、いちいち、留め具の裏側を下から上に抜いて留める方法、とか書くのも面倒くさいので、ここでは「内側とおし」と呼ぶことにする。

「内側とおし」のいいところは、かなり不器用な人でも、たぶん問題なくやれる方法だし、取り外しもわりと簡単にできること。手順さえきちんと守ればゆるんだり、外れたりすることはまずない。

 実際、手もとにある240機種分の一眼レフとミラーレスカメラ(フィルムカメラは含めていない)の使用説明書をチェックしたところ、「内側とおし」が153機種で圧倒的多数派を占めていることが判明した。「ニコン巻き」は78機種、記載がないのが8機種。パナソニックのLUMIX L1だけは「内側とおし」の逆タイプ、ストラップをとおす金具の内側から先端部を通して留め具の外側を下から上に抜いて留める方法を採用している(「外側とおし」と呼ぶことにする)。

 うちわけを見ると、キヤノンとコニカミノルタ、シグマ、ソニー、フジフイルム、ペンタックスは全機種が「内側とおし」なのに対して、オリンパスとパナソニックの2社は、LUMIX L1をのぞいて全部「ニコン巻き」である。

 で、かんじんかなめのニコンといえば、「内側とおし」と「ニコン巻き」が混在していたりする。どういうふうになっているかというと、入門者向けのエントリークラスの一眼レフ(現行品だとD3300やD5500)とミラーレスカメラのNikon 1シリーズは全部「内側とおし」で、これが24機種。プロやハイアマチュア層向けの一眼レフ(現行品ではD4S、Df、D810、D750、D610、D7200)は「ニコン巻き」で、こちらも24機種。すでに生産がおわっているD1やD600、D7000など7機種は記載がなかった。

 ニコンが「ニコン巻き」派じゃないというのは、データとしてはとてもおもしろい。そして、オリンパスとパナソニックが「ニコン巻き」推しなのも興味深い。キヤノンやソニーがアンチ「ニコン巻き」なのは、なんとなくしっくりくるけどね。


 個人のブログとか、カメラ用品を扱っているメーカーやショップのサイトでの、ストラップの取り付け方を見ると、多くは、「ニコン巻き」を推奨している。中には「ニコン巻き」以外の取り付け方は邪道だ、ぐらいの勢いで推している人もいる。

 というのは、「ニコン巻き」はゆるみにくくて、しかも先端部がぴろぴろせずにすっきりまとめられるやり方だからだ。

 主流の「内側とおし」は、留め具の裏側から、ストラップのテープ部の先端が、ちょろっと飛び出してしまう。この飛び出した部分が、ぴろぴろしてうっとうしいし、見た目もあまりよろしくない。

 だからなのか、留め具から飛び出すテープ部分の先端を、めいっぱい短くする人がいるらしい。そのほうが、見た目がすっきりするというのはある。が、危ないから絶対にやめて欲しいと思う。なにかの拍子にすぽっと抜けてしまうことがあるからだ。特にテープ部分が薄かったり、滑りやすい素材だったりすると最悪だ。

 なにしろ、カメラは精密な光学機器であり、電子機器でもある。そして、安くない。買ったときにふところが痛まなかった人はそんなにいない。いないはずだ。そんな大切なカメラを、ストラップ一本んで、肩や首からぶら下げているのである。なのに、そのストラップが外れたら……などと想像するのはとても恐ろしい。考えただけでぞっとする。

 その点、「ニコン巻き」は、先端部を内側に折り込んで押さえて留めるかたちになるので、テープ部分が滑りやすい素材でもゆるみにくい。そのうえ、あまった先端部がぴろぴろしない。安心して使えるし、見映えもいい。というのもあって、おすすめする人が多い。取り付け方としては、少しばかり面倒くさいが、そんなに頻繁につけ外しするものでもない。最初の一回だけ頑張ればいいのだから、努力する甲斐は絶対にある。

 まあ、おすすめする人が多いのは悪いことではない。ただ、「ニコン巻き」がベストな方法で、ほかのやり方は全部だめ、みたいな紹介の仕方はよくないと思う。というのは、「ニコン巻き」がどんなストラップにも向くやり方だとはいえないからだ。

 世の中にはいろんなストラップがあって、「ニコン巻き」に向くストラップもあれば、そうじゃないものもある。「内側とおし」のほうがばっちりなストラップだってあるのだ。そこをきちんと見分けたうえで、それぞれのストラップに合った取り付け方をするほうが、ずっといい。


 では、「ニコン巻き」に向かないストラップの特徴をあげてみる。ひとつは、テープ部分に厚みがあるタイプだ。テープ部分が厚いと、留め具にとおしづらくなるし、留め具自体に負担をかけることになるので、割れたりする危険性が出てくるからだ。

 それから、遊環が薄いものも不向きといえる。遊環(ゆうかん)は、ストラップのテープ部分を重ねてとおせる四角いリング状のパーツで、たいていは留め具よりも柔らかめの樹脂製だ。この名前は、コニカミノルタのα-7 DIGITALの使用説明書にだけ登場する。

「ニコン巻き」にすると、折り返した先端部も遊環をとおすことになるので、テープ三枚をとおせるだけの余裕が必要になる。が、たいていの遊環は、テープ二枚をとおすのにちょうどいい厚みなので、そこに無理やりとおすと遊環が割れてしまうこともあるからだ。

 中には、折り返した先端部を、遊環をとおさないままにしておく人もいるが、それだと先端部がはみだしてぴろぴろしたりするので、あまりかっこうはよろしくない。

 つまり、「ニコン巻き」にしたいなら、テープ部分が薄めで、なおかつ、テープ三枚分の厚みのある遊環がセットされているものを見つけなくちゃいけないのである。

 でも、はっきりいって、これを探すのは簡単じゃない。たいていの場合、ストラップは箱や袋に入れた状態で売られていて、買って開封するまでは現物を見ることができないからだ。そのストラップのメーカーのサイトなどにストラップの取り付け方を説明しているページがあって、そこで「ニコン巻き」を推奨しているなら大丈夫な可能性は高いが、それでも百パーセント安全とはいいきれない。

 だから、買ったストラップが、「ニコン巻き」に向いていない可能性もあるということを、心の隅にちゃんと置いておいたほうがいいと思うのだ。それで「ニコン巻き」に不向きなストラップを買ってしまったなら、運が悪かったと思って、普通に「内側とおし」にすればいい。

 テープ部分が厚めのものは、基本的に滑りにくいので、「ニコン巻き」にしなくても、ゆるむことはそんなにない。ただし、留め具からテープの先端を、できれば三センチメートルぐらい飛び出させて留めるようにして欲しい。そうすれば、ストラップが外れてカメラを落っことすような不幸な事件が起きる確率は、たぶんだけれど、天文学的なレベルにまで下げられると思うのだ。

 その場合、飛び出した先端部のぴろぴろが気になるだろうから、留め具と遊環の位置関係を入れ替えてしまうといい。

 通常、ストラップの中央部に近い側に留め具、カメラ寄りに遊環をとおすのだが、この順番を逆にする。つまり、テープを最初に遊環にとおし、次に留め具、それからカメラの金具またはリングをとおして、留め具の下から上に抜く。それであまった先端部を遊環にとおせば、ぴろぴろせずに落ち着いてくれる。

 このやり方は、カメラの金具から留め具までの長さを短くするとき用だ。たいていのストラップには、遊環は二つしかついていないから、テープの先端部を押さえるのに使うと、カメラの金具をとおして折り返した部分がふくらむのを押さえることができなくなる。なので、金具と留め具のあいだが狭いほうが、見た目が悪くなりにくい。

 ただし、この方法だとテープ部分があまってしまう可能性が高いので、その場合は、留め具から四、五センチメートルほど残してカットしてしまう。そのままだと切った部分からほつれてくるので、ライターなどの火であぶって固めておく(この作業はやけどに気をつけてやること。うまくやれるかどうか心配な人は、カットしたあまりの部分で練習するといい。飛び出す部分を長めにしておくのは、本番で失敗してもやり直しがきくからだ)。

 たまに遊環が多めに付いているストラップがあるが、その場合は通常どおり、留め具の上としたにひとつずつつければいい。

 切るのがいや、面倒だという人には、「外側とおし」をおすすめする。この方法は、留め具から飛び出す先端部が、ストラップにつながっている部分に密着するかたちになるので、ぴろぴろしないのがいい点だ。これだと遊環は通常位置につけておける。ただし、テープ部分の裏面が表側に出てくることになるので、テープ部分の素材が皮革や皮革調だと、見苦しくなるケースもあるので、その点にだけは注意が必要だ。


 最後にまとめておこう。
・カメラメーカーはあまり「ニコン巻き」が好きではない。「ニコン巻き」を推奨するメーカーのほうが少数派なのだ。
・「ニコン巻き」には、テープ部分が薄く、遊環が厚いものが適している。
・買ったストラップに適した取り付け方をするのがおすすめ。

 それと、ストラップの取り付け方を説明してくれているページのリンクをいくつか。
http://cweb.canon.jp/e-support/faq/answer/eosd/73201-1.html

↑これは多くのカメラの使用説明書に載っている、つまり、世界でいちばんポピュラーなストラップの取り付け方。

http://ulysses.jp/user_data/strap_musubikata.php
↑これがいわゆる「ニコン巻き」のやり方。ゆるみにくく、あまった先端部が邪魔になりにくいのが利点。

http://203shop.jp/?mode=f12
↑遊環の位置が上になるバージョン。リンク先のは、途中の工程では遊環がどっか行っちゃってるけど。

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