ミラーレスカメラの三脚ネジ穴がレンズ寄りにある理由
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ここ何年かずっといやだなぁと思いつづけているのがミラーレスカメラの三脚ネジ穴の位置。これが前寄り、つまりマウント側に寄せられているものが多い。
Twitterを見ていても、たまに文句を言う人を見かけるだけで、どうも大半のひとは気にしてもいないらしい。
のだけれども、ワタシはこれがすごくいやでたまらない。そんなに大きくはないかもしれないけれど、無視してはいけない問題だとさえ思っている。
今回はそのへんを少し掘り下げてみることにする。
三脚ネジ穴が前寄りの機種が多いのはフルサイズミラーレスだ
同じレンズ交換式カメラでも一眼レフは前寄りのは少ない。底面の奥行き方向に対して中央あたりのものが多いように思う。
それがミラーレスカメラだと前寄りのものがすごく多い。APS-Cサイズやマイクロフォーサーズだとはそうでもないが、フルサイズ機になると急に前寄りのが多くなる。
キヤノンのEOS RPは真ん中あたりだし、パナソニックLUMIX DC-S1シリーズなんかはむしろ後ろ寄りなぐらいだったりするが、ほかはだいたい前寄り。中でもシグマfp、ソニーα7C、パナソニックLUMIX DC-S5あたりは寄りっぷりがすごい。
↑パナソニックLUMIX DC-S5の底面。三脚ネジ穴がかなり前側(画像の上方向)に寄っているのがわかる。
↑こちらはシグマfp。ボディが小さいこともあるが、三脚ネジ穴は前側にはみ出しそうなぐらいの場所にある。
その3機種中の2機種が実はワタシの手もとにあったりするからおもしろい。
DC-S5のは底面の前側いっぱいのところにネジ穴のパーツがあるし、fpにいたってははみ出しかけているのを底面を広げてごまかしちゃってる感さえある。
ちなみに、マイクロフォーサーズでもオリンパスのE-M1 Mark IIIやE-M5 Mark IIIあたりもうんと前寄りだったりする。
で、どうしてこういうことになっているのか、というのがずっとわからなかったのだが、最近ようやくその理由がわかった。と言うか、わかった気がしたのである。
ところで、距離基準マークって知ってます?
レンズ交換式のカメラであればカメラ上面のどこかに、あるいはファインダー部の側面あたりに「○」に「−」を重ねたような、真横から見た土星みたいなマークがある。
↑シグマfpの上面。真ん中へんにある「φ」を横倒しにしたようなのが距離基準マーク(シグマ式には「撮像素子位置マーク」である)だ。
これが「距離基準マーク」などと呼ばれるもの。フィルムカメラならフィルム面の、デジタルカメラなら撮像センサーの撮像面(表面ではない)の位置をあらわすマークで、ここからピントが合った位置までの長さが「撮影距離」である(ピントが合っていなくても、主要被写体までの長さを言うこともある)。
ちなみに、ここからマウント面までの長さが「フランジバック」だが、これはついでの情報である。
さて、距離基準マークに「など」とつけたのは、例によってメーカーごとに呼び名が違うからだ。
手もとにある使用説明書(カメラメーカーのサイトからダウンロードしたPDF版である)をざっと調べたところ、
キヤノン:撮像面マーク(EOS R5)
シグマ:撮像素子位置マーク(SIGMA fp)
ニコン:距離基準マーク(Z 6II)
パナソニック:撮影距離基準マーク(DC-S1)
ペンタックス:像面位置マーク(K-1 Mark II)
というふうにてんでばらばら。ユーザーにとっては統一されているほうがらくちんでいいと思うのだが、なぜかこうなってしまう。ほんと、面倒くさい人たちなんである。
ほかに、カメラにはマークはあるのに使用説明書には名称が書かれていない(見つけられなかっただけかもしれないが)というメーカーもあった。
この距離基準マークが、三脚ネジ穴が前寄りの機種が多い理由を読み解く鍵である(と、ワタシは考えているのである)。
撮像センサーのまわりはいろんな部品・メカだらけ
さて、フィルムカメラではフィルム面よりもうしろ(マウントとは反対方向である)には圧板と裏ブタがあるだけだ。カメラによってはデータ写し込み用の仕掛けがあったりもするが。
一方、デジタルカメラの場合はセンサーの本体がフィルムよりもかなり厚みがあるし、電子基板やモニターなどもある。なので、フィルムカメラに比べてボディが厚くなっている。
撮像面よりも前側(マウント方向である)には撮像センサー前面の赤外カットフィルターとかローパスフィルターとかがあるし、シャッターもある。
↑レンズを外したマウントの内側の青っぽく見えているのが撮像センサーの画面。そのまわりに撮像センサーのガワの部分があって、さらにそのまわりにボディ内手ブレ補正のメカがあり、その手前にはシャッターユニットもある。ので、カメラの内部には余裕があまりないのだ。
↑これはオリンパスE-M1 Mark IIのボディ内手ブレ補正ユニットの図だけど、画面サイズに比べてユニット全体がかなり大きいのがわかる(フルサイズ機になると画面サイズが違うんで見た目の印象も違うと思うけど)。
撮像画面の外側を見ると、まず撮像センサー自体の外側部分があって、それを固定する土台となるパーツもある。
それからシャッターユニットも上下左右のサイズがけっこうあるし、最近はボディ内手ブレ補正のメカもある。
そういう感じで、距離基準マークの前後と周囲にはいろんなものがわりとみっちり詰まっているんである。
カメラの中身とのかねあいで三脚ネジ穴の位置が決まる
ところで、三脚ネジ穴というのはカメラの外側から見れば小さなヘコミでしかないが、内側から見るとけっこうな出っ張りのはずだ。
穴のまわりの部材の厚みもあるわけだから、外から見える穴よりも、内側の出っ張り度合いはかなり大きいのが予想できる。
カメラのデザイナーがメカのレイアウトとかを考える際には、この出っ張りは相当邪魔くさい存在のはずだ。
ある程度、カメラの背を高くしても平気なららくちんだが、普通はなるべく小さくすることを考える。
なので、三脚ネジ穴の出っ張りがカメラの中身(撮像センサーとかシャッターとか手ブレ補正のメカとかのことだ)に干渉しないように位置決めをしないといけない。
と言うか、中身は距離基準マークの位置から動かせないのだから、必然的に三脚ネジ穴に移動してもらうしかない。
で、ネジ穴の位置を考えると、距離基準マークよりも後方はいろいろ詰まっているから無理。となれば、前方に移動させるしかない。
そういう次第で前寄りの場所に居着いてしまっているわけだ。
と考えてからあらためて、三脚ネジ穴が前寄りでないカメラを見てみると、EOS RPはボディ内手ブレ補正ではないし、パナソニックDC-S1系はゆったりサイズだったりする。
ようするに、ボディ内手ブレ補正を積んで、かつ小型軽量化を頑張ると、どうしても三脚ネジ穴を前寄りにせざるをえない。APS-Cサイズやマイクロフォーサーズのカメラに前寄りじゃないものが多いのは、撮像センサーが小さい分、内部の出っ張りとの干渉が避けやすいから、と考えられるのである。
前寄りの三脚ネジ穴には問題があるのだ
それでなにか問題があるのか?と言うと、ある。
わたしが知っている古い例はコンタックスAria。京セラがまだカメラを頑張っていた最後に近い時期に登場したキュートでコンパクトなフィルム一眼レフだ。
このAriaにPlanar T*85mmとかのフィルター径が67mmか、あるいはそれ以上の大きめレンズを着けて三脚に載せたときに、絞りリングが回せなくなったのである。
おかしいよね、まずいよね、というわけで京セラの中の人にも通報して調査を要請したところ、設計上はそういうことは起こらないはずだ、との返答をいただいた。
じゃあなにが悪くてこうなるんだろう?と思って考えた結果、次のような結論にいたった。
まず、ひとつにはコンタックスの多くのカメラは三脚ネジ穴が前寄りにあったこと。137MD/MAなんかもそうだったし、あのAriaもそうだ。
Bingの画像検索のリンクを下に貼っておくんで、興味のある方は底面の画像を探してみていただきたい。
そして、Ariaはコンタックスとしてはかなりのコンパクト設計のカメラである。
それに加えて、載せた雲台のコルクがわりと柔らかめのタイプだったことが重なった。
雲台のネジを締めると柔らかいコルクが圧でへこむせいで、カメラが少し沈む。
このときに、三脚ネジ穴がカメラの中央あたりにあったなら均等に圧が掛かって均等に沈んでいたはずだ。
が、前寄りの位置に三脚ネジ穴があるので、カメラの前側が余分に沈む。つまり、前側に傾いてしまう。ということが起きていたのである。
その結果、絞りリングの径が大きなレンズを着けると、絞りリングが雲台に接触してしまうのだ。
ただし、コンパクトなAriaには口径の小さなレンズのほうが似合うしバランスもいい。それに、三脚に載せるよりも手持ちでさくさく撮るほうが向いているカメラでもあった。加えて、雲台のコルクなりゴムなりが硬いタイプであれば沈み込みも少ない。
そういうのが重なり合ったからだろう、あまり問題にはならなかったように思う。ワタシ自身も載せる三脚を選べばいいだけ、と割り切ることにしたような記憶がある。
ので、口止め料や袖の下のたぐいは受け取っていない。と一応書いておく。
ミラーレスカメラなら絞りリング問題はない
さて、今どきのミラーレスカメラのシステムで、レンズのマウント部に絞りリングを持つものはないと思う。
マウント部に絞りリングを設けると、メカ的な内径が小さくなるので、光学系の設計上の制約となる。つまり、あほくさいだけなのでやる意味がない。
そういうわけなので、絞りリングが雲台に接触する問題は無視していい。
それにカメラが前傾してしまうのも雲台側で調整すればいいだけなので、そんなに大きな問題でもないだろう。
まあ、雲台との相性によっては多少不安定になる可能性もある。
細かいことを言えば、ネジを締めたときに圧が均等に掛からないせいで滑りやすくなるかもしれなくて、そうすると縦位置にしたときにカメラがくるんと回ってしまうことが起きないともかぎらない。
が、ネジをきっちり締めればたいていは大丈夫だし、縦位置にする際にグリップが下になる向きにすればネジが締まる方向に重みがかかるからゆるまない。
と考えれば、実質上の問題は、カメラが少し前かがみになるのがちょっとかっこ悪いよね、というレベルですんでしまう。
クイックシューは前寄りの三脚ネジ穴と相性が悪いのだ
ただし、クイックシュー派にとっては辛気くさい問題だったりする。
なにしろ、多くのクイックシュープレートは、プレートの中央あたりにカメラネジがある。
なので、三脚ネジ穴が前寄りにあるカメラの場合、カメラの底面に対してプレートも前寄りに着くかたちになる。
と、プレートがカメラの前側にはみ出すことになる。
↑シグマfpにジッツオのアルカスイス互換プレートを取り付けたところ。見た目としてもあまりよろしくない。
↑プレートがカメラ本体より前にはみ出している。ので、レンズ側で操作するときに邪魔になったりするし、角に当たって痛く感じるときもある。
これがまずかっこうよくない。うしろに余裕があるのに前にだけはみ出るのだ。お世辞にもばっちりなどと言えるはずはない。
もちろん、はみ出した部分はレンズを操作する手にとって邪魔になる。ものによってはエッジ部分が手に当たったり食い込んだりして痛い思いをする。
そのうえ、プレートとカメラの底面が接触する面積も狭くなるのだから滑りやすくもなる。つまり、ゆるみやすいというわけ。いいことがなにひとつないんである。
汎用のアルカスイス互換プレートの中にはネジの位置を変えられるものもある。が、どちらかと言うと少数派で、使っているカメラにちょうどいいものを見つけるのはなかなかにむずかしい。
となると、やはり専用タイプが出てくれることを祈るしかなくなるわけだ。
メジャーどころの中・高級機ならサードパーティーでもわりと安心できるメーカーが動いてくれる可能性は高い。が、そのあたりのだとお値段もそこそこお高くなるので痛しかゆしだったりする。
一方、ちょっとマイナーなカメラとなると選択の幅は一気に狭くなる。気に入って買ったカメラに使うプレート探しで苦労する、なんてことも起きてしまう。
結果、そこそこ以上のクオリティーのアルカスイス互換プレートが出ているかどうか、あるいは出そうかどうか、というのがカメラ選びの基準のひとつになってもいる。
のだけれど、そういうのはやっぱりおかしいという気もするのだ。だから、カメラメーカーさんにはそういうところもよく考えてから三脚ネジ穴の位置を決めてもらえたらなぁ、と思っているのである。
せっかくなんで、ワタシのブログ「どや顔カメラ通信」の宣伝もしておく。今回紹介したパナソニックLUMIX DC-S5とシグマfp用に買ったアルカスイス互換プレートの記事である。
さて、最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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