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ビートルズファンはGet Backを観ないと絶対に後悔する

ディズニープラスで11月から配信が開始されたザ・ビートルズ:Get Back3部作を鑑賞し終わったので、以下ネタバレ含む感想を書きたいと思います。

観終わった後の圧倒的な爽快感

もともとは、2時間程度の作品として劇場公開を念頭において製作されていたはずが、監督?の意向により、約8時間という超長編のドキュメンタリーに変わったため、敷居が一気に上がった作品になりました。
そのため、ビートルズファンじゃない人はまず観ないだろうし、ビートルズファンと言えども、それなりに熱心なファンでも無い限りは、8時間も一つのドキュメンタリーに身を預けるというのは、娯楽で時間の取り合いになっているこのご時世ではなかなか難しいところ。

そんな中、公開後に聞こえてくるレビューが好意的なものばかりだったので、意を決してこのためだけにディズニープラスに加入し、週末の休みでぶっ通して一気に観ました。
流石に8時間は長く、途中で中だるみした瞬間もありましたが、最後のルーフトップ・コンサートで興奮が一気に最高潮に達して、観終わった後は爽快感(とちょっとした感傷)に溢れたものでした。

観終わっての一番の気持ちとしては「この歳までビートルズファンを続けていて良かった!」というものです。
なお、これはエンタメ作品と言うよりも、あくまでも長編ドキュメンタリー作品という趣の方が強いので、ビートルズファンでない人が観てもしんどい作品でしょうね。

これまでのゲット・バック・セッションのイメージが一変

1969年のゲット・バック・セッションは、これまでの定説では、バラバラになりかけていたバンドを、ポール・マッカートニーがなんとか一つにしようと企画を打ち出して孤軍奮闘するものの、他のメンバーは白け気味な上にポールとジョージが衝突するなど険悪な雰囲気のまま進み、結局バンド解散の引き金になった、というものでした。

今回のゲット・バックを観ても、確かにポールと他のメンバーとの温度差は感じられたものの、ポールだけが孤立していたとか、険悪な雰囲気だったというのはごく僅かな一面に過ぎませんでした。

むしろ、全体を通して感じられたのは、それぞれのメンバーがこの時期はソロ活動に傾倒しつつも、ビートルズというバンドがあくまでも核であって、バンドで良い作品を作りバンドを続けていくということへの思いは一致していた、ということでした。
これが今回の作品でわかっただけでも、ビートルズファンとしては、長年抱えていたバンド後期へのネガティブなムードが払拭されて、とても胸がすく思いをしましたし、ビートルズファンとしてこれを観ないで死んだら絶対後悔していた、と強く感じました。

ただ、逆説的な話にはなりますが、解散の原因と言われていたゲット・バック・セッションがポジティブな流れで終わったにも拘らず、歴史的事実として、バンドは結局その約半年後には空中分解してしまったわけで、それはそれで観終わった後にちょっと胸が傷んだりということも否定できませんでしたが・・・。

個人的にグッと来たポイントを、以下箇条書きで書いておきます。

ハイライト

この作品のハイライトは言うまでもなく、最後のルーフトップ・コンサートです。
それまでのスタジオでのリハーサルがちょっとグダグダな流れで進んでいたのに、4人がステージに立った途端に見違えるようなカッコいい佇まいで演奏を始める姿は、言葉に表せない感動と興奮がありました。
このコンサートの躍動感や迫力、感動は、クイーンのボヘミアン・ラプソディのライブエイドとも重なるものがあり、観ていてずっと鳥肌が立ちっぱなしでした。

個人的にもう一つのハイライトシーンは、ビリー・プレストンが加わって初めてセッションした時のバンドのテンションが一気に上った瞬間です。
彼が加わった途端にメンバーの表情も演奏も生き生きとなったのが印象的で、まさに欠けていたパズルのピースが埋まったかのような、天才同士が共鳴した時のケミストリーが発生した瞬間に立ち会えたという感覚でした。

メンバーについて

ポールは、多分彼の長年のキャリアを通してみても、この時期が作曲能力・演奏能力・ボーカル力どれをとってもキャリアハイの無双状態だったことがよくわかります。
一人だけ才能もやる気も突出してしまっていたので、他の3人とのバランスが明らかに崩れていて、これだと確かに対等なバンドメンバーとしての関係性を保つのは難しいだろうなと思いました。
ただ、ポール自身の中でもそこは葛藤があったようで、自分の才能を存分に発揮したいと思う時と、バンドのために他のメンバーに遠慮している時とで揺れ動いているような様子もありました。
あと、小話としては、ルーフトップ・コンサートでの1回目のアイブガッタフィーリングのブリッジ部分の激しいシャウトが終わった直後に、ポールがちょっと立ちくらみしている姿が可笑しかったです。このライブに相当気合入ってたことがよくわかる瞬間でした。

ジョンは、この時期ドラッグにはまっていたようで、確かにその影響からか、終始テンション高めでムードメイカーにはなっていたものの、音楽的にはドント・レット・ミー・ダウンくらいしか見どころがなかったです。
ただ、最後のルーフトップ・コンサートをやるかやらないかでメンバーで議論している時に、どちらかと言うと後ろ向きなポールを真剣な表情で説得しようとしている姿にはジョンのバンドリーダーとしてのプライドが見えた瞬間でした。この時はドラッグの影響もなかったのかもしれません。
あと、ルーフトップ・コンサートでのジョンの佇まいは、彼がカリスマであることを改めて感じさせてくれるオーラ全開の姿で、とにかくかっこよかった。最後の「オーディションに受かると良いんだけど」という秀逸なジョークも映像で初めて観れて良かった。

ジョージは、今回この作品を観て一番好きになった存在です。
ポールとジョンになかなか認めてもらえず冷たくされながらも、必死に彼らに食らいついて自分を出そうとしている姿や、一時期バンドを脱退するものの、なんだかんだでバンドのために貢献しようと真摯に音楽に取り組む姿には胸を打たれました。本当に真面目でいいヤツだったんだなあ、としみじみ感じました。
あと、ルーフトップ・コンサートで、警察の目を気にしたマルエヴァンスにギターのアンプを消され、ジョンレノンが唖然としているのを横目に、ジョージが平然と電源入れ直して演奏に戻った姿は、彼のパフォーマーとしての芯の強さも垣間見えた興味深い瞬間でした。

リンゴは、とにかく良い奴だったことが再確認できました。
一人だけ時間通りにきっちり現れ、あまり意見とかも言わず、ちょっと控え目な立場で終始していたのに、ルーフトップ・コンサートをやるかやらないかで議論している時に、真っ先にリンゴが「俺はやりたいね。」と言ったところ、ジョンもそれに乗っかり、後ろ向きだったポールも前向きになって、一気に実現の流れに進んでいったところが感動的な場面でした。
良くも悪くも空気みたいな存在でしたけど、良質な酸素とでも言うべきか、バンドでも組織でも、こういうキャラクターって重宝するよねと改めて思いました。

その他気になったこと

この時期のイギリス人って男も女も皆本当にオシャレと思いました。特にグリン・ジョーンズとジョージ、モーリーンのファッションは今でも十分通用するくらいオシャレ。

こんなにバンドの裏も表も全て余すところ無く映像に収めた、というのはまさにマイケルリンゼイホック監督の執念だったのでしょう。ただ、結局企画は彼の思い通りには進まなかったわけで、そのフラストレーションが、かの悪名高い「レット・イット・ビー」の編集に表れているのかなと思ったりしました。
あと、同じくグリン・ジョーンズがレット・イット・ビーに批判的なのも、レコーディング中に散々メンバーに振り回されつつ献身したにもかかわらず自分のミックスをボツにされ報われなかったからでしょう。

これも各所で言われていますが、映像と音声が50年前の素材を使ったものとは思えないくらい鮮明かつ迫力があり、技術の進歩の凄さに唸りました。映像の中の出来事が、あたかも最近起こったことなんじゃないかと錯覚するくらいの臨場感がありました。

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