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DF-65がやってきた♪

 アキュフェーズのデジタル・チャンネルデバイダーDF-75を使って、わが家の4ウェイ「ホーム・タワー」をガンガン調教してきたが、さすがに税込みで100万円を超える新製品をそうそう借り続けてもいられない。避けようもなく返却日はやってきて、DF-75と同社のパワーアンプ2台は粛々と帰っていった。

■実験はしておくものだ!?

 しかし、いろいろと実験しては書き放題していた本noteの記事をアキュフェーズ首脳陣が読んでくれて、「これを第一歩として、もっと実験して下さい」という声がかかった。あそこまでやって"第一歩"ッスか!? という心の声はさておくとして、わが実験を認めてもらえたのはありがたい限りだ。


アキュフェーズ◎デジタル・チャンネルデバイダー
DF-65 生産完了

DF-45と同55はわが家で実験して着実な音質の向上を確認しているが、
DF-65とは今回が初顔合わせで、到着が楽しみだった。
早速いろいろいじくり回しているが、DF-75ほどの機能性は望めないものの、
音質的にはDF-55よりもやはり優っているのではないかと感じられる。

 というわけで、DF-75と入れ替わるように、代替のチャンデバがわが家へやってきた。1世代前のDF-65である。75との違いは少ないが、もちろんあの3,101ポイントに及ぶクロスオーバー周波数はなく、59ポイントにとどまる。

■この機能性に文句をいったらバチが当たる

 しかし、考えてもみてほしい。アナログ時代にマルチ派が愛用した超精密グラフィックイコライザーは、1/3オクターブごとの33素子だった。その倍近くのクロスポイントを持つのだから、何の文句があろうかというものである。

 他にも違いはあると思われるが、それ以外は先の実験でその効果に感激したディレイ・コンペンセーターを筆頭に、他をもって代え難いフィーチャーがほぼすべて収まっているように見える。うむ、これからわが家の4ウェイをこれで躾けてやろう、という意欲がムクムクと湧き出してくることを感じる。

 また同社は、パワーアンプも2台貸し出してくれた。AB級のP-4500とA級のA-35である。同社の貸し出し可能品の中から「どれがいいですか?」とある程度希望を聞いてもらえ、A級アンプならあのままA-48も借りられたのだが、中~高域に使うならそれほど出力も欲張らなくてよいし、ならば発熱量も小さい方が好ましい。それでA-35をお願いした次第だ。

■わが憧れのA-20/30シリーズ

 実はA-20から始まる小出力A級アンプのシリーズは、A-20Vからではあるが、マルチアンプに使うなら絶対使いたい製品として、大いに注目してきたシリーズである。


アキュフェーズ◎パワーアンプ
A-20V 生産完了

アキュフェーズの小型A級アンプ第2号機。
前作も故・長岡鉄男氏の「ダイナミックテスト」で取り上げたと思うのだが、
強烈な印象に残っているのは本機からである。
A級らしい優しさが時折顔をのぞかせつつ、
とにかく中~高域方向に猛烈な情報量と、
金粉の流れる大河のようなゴージャスな流麗さを聴かせてくれた。

 もう20年ほども前の話になるが、ある長岡派ウルトラマニアのリスニングルームを訪問した際、A-20Vを試聴モデルとして用意していた。「方舟」進水以降の長岡流は、サブウーファーを別アンプで鳴らす一種のマルチアンプとなっていたが、フルレンジとトゥイーターは1台のアンプで鳴らすのが通例だった。そこへ、トゥイーター用アンプとしてA-20Vを加えたらどうなるか、という実験である。

■トゥイーター別アンプの効果は大きかった

 A-20Vを接続し、音を出した瞬間の驚きは、少なくとも私にとってはとてつもないものだった。圧倒的に情報量が増し、超微粒子の金粉を音場全体に撒き散らしたような繊細さとゴージャスさをもって、あのパワフルで闊達、豪快で一刀両断の凄みを持つ長岡システムを、完全に支配してしまったのだ。

 一方でちょっとサラサラと流れが良すぎるような感じもあり、またバックロードホーンを全域で鳴らしてみたら、ちょっと力感に欠け、ジェントルな質感へ振れ過ぎてしまったようにも感じさせた。それがあってか訪問先のご主人はA-20Vをご購入へは至らなかったようだが、ということはつまり、先方よりもむしろ私の方に強い衝撃を与えた取材となったわけだ。

 という次第で、長年恋い焦がれてきたA-20シリーズだが、ひょんなことからA-35がわが家へやってきたのは、もう10年ほども前だったか。型番では連続性が分かりづらいが、A-20→A-20V→A-30→A-35という変遷を経た型番だ。

アキュフェーズ◎パワーアンプ
A-35 生産完了

一方、こちらがこのたびわが家で2台駆動することになったA-35。
こちらは低域も結構馬力感があり、BHをガンガン朗々と鳴らしてみせる。
私のような高能率スピーカー・ファンやマルチアンプ愛好者には、
他をもって代え難いアンプだったと、その退役を惜しむものだ。

■ほんの2オクターブ弱なのに!

 それまで3万円ほどで購入した小型PWMアンプで鳴らしていた、わが「ホーム・タワー」のミッドバスへA-35をつなぎ、音が出た時の感激を一体どう読者へ伝えればよいだろう。僅か2オクターブ弱という狭帯域しかドライブしていないアンプだというのに、音楽全体をジェントルかつ芳醇に奏で、全域に厚みと余裕を加える。かねてより、4ウェイ・マルチに組み合わせるならウーファーは駆動力、ミッドバスは表現力が大切という印象を持っていたが、それが一気に開花したというか、少しずつ蓄えられていた断片的な印象が、総体として正しかったということが分かり、ホッとしたものだ。

■"限界マルチ"では却って出力不足に

 A-35は小型A級アンプだけに、8Ωで30W+30Wと決して大出力とはいいかねる。一方、わが「ホーム・タワー」のミッドバスはアコースティックに低域をカットしているので、パッシブ/アクティブ問わずクロスオーバー・ネットワークがいらない。当初から実験していた「限界マルチアンプ」には必須の構成なのだが、これはつまり「ミッドバスに低域信号がカットされずに入る」ということを意味する。即ち、ミッドバスにはウーファーよりも大きな信号が入るということだ。そこに30W+30Wなどという小出力アンプを組み合わせてしまえば、音量が取れなくなるのはもう致し方ない。

 ここでA-35はじめ小出力アンプの弁護をしておくが、私のようなバカ大音量派でない限り、30W+30Wもあれば大半のスピーカーを駆動することが可能であろう。かくいう私だって、ごく一部の超絶低音が含まれた現代音楽で困るくらいのものである。出力音圧レベル100dB/W/mを優に超えるバックロードホーンの「ハシビロコウ」ならば、2W+2Wの真空管アンプでも、大半の音楽を十分な音量で奏でることができたくらいだ。

■高品位小出力アンプ受難の時代

 それだけ使いでのある小出力A級パワーアンプだというのに、このシリーズはA-35の後継機種A-36をもって終了となってしまった。個人的にはもう残念で仕方ないが、アキュフェーズの決断も理解できる。

 一つにはマルチアンプ、なかんずくホーン型ユニットを採用した中~高域用へ打ってつけの小出力A級アンプなのに、肝心のマルチアンプ人口が決して多くない、という事情が挙げられよう。もう一つは、高能率スピーカーへ似つかわしいアンプという項目だが、これも昨今のスピーカーシステムは能率が下がる一方で、20Wや30Wで鳴らし切れるメーカー製スピーカーが少なくなってしまった、というのも問題だったろう。自宅リファレンスの20cmバックロードホーンでは、A-35を用いて大半の音楽ソースを驚くような大音量で楽しむことが可能だけに、高級高能率スピーカーの壊滅的減少を悲しむものである。

■"鳥籠"から解き放たれた4ウェイ

 話題が反れたが、かくしてわが「限界マルチアンプ」システムは大きな飛躍を遂げ、しかし"限界"ゆえの鳥籠、具体的には1万円チャンデバを2台シリーズ接続したミッドバスからミッドハイ、トゥイータへのクロス、そしてミッドハイとトゥイーターを駆動する廉価PWMアンプが、とてつもなく大きな可能性を秘めた4ウェイの飛躍を押しとどめている、そのことは痛いほど分かっていた。

 そんなところへ天祐のように訪れたオール・アキュフェーズによる4ウェイの構築だっただけに、DF-75とP-4600、A-48が借りられた期間は、自分の設計・製作した「ホーム・タワー」が真の実力を発揮してくれたことに感激するやら、結局自らの財力でたどり着けない境地にガッカリするやらで、複雑な喜びを噛み締めていた次第である。

 しかし前述の通り、それらが旅立っていった後、チャンデバはDF-65、パワーアンプはP-4500とA-35がもう1台手元へやってきた。これでパワーアンプはP-4100とP-4500、A-35×2台ということになる。驚くべきことに、これらはすべてアキュフェーズとしては廉価な方のパワーアンプなのだが、4台合わせて発売当時のメーカー希望小売価格を足し合わせると、178万円(消費税の税率が違うため、本体価格で比較)になる。本来なら現行上級パワーアンプP-7500(同¥1,350,000)よりも高価な買い物となるだけに、徒や疎かでは済まされない。

■パワーアンプの配分をどうする?

 さて、手元にやってきた4台のパワーアンプをどう振り分けるか。現在はP-4100のスピーカーAに「ハシビロコウ」、Bに「ホーム・タワー」のウーファー部をつなぎ、XLRで前者、RCAで後者をドライブしている。しかし、P-4100よりも明らかにP-4500の方が表現力も駆動力も上だから、4500をウーファー、4100をミッドバスへ宛がおうかとも考えたのだが、この4100は何年もかけて鳴らし込んだ結果、BHから強烈なパワー、スピード感と切れ味を放射させているので、このまま使い続けたい。というわけでP-4100はそのまま、P-4500へミッドバスを担当させることとした。

 ミッドハイとトゥイーターは同じA-35が担当と、これは願ったりかなったりの展開である。30Wの小出力で大丈夫かといえば、かなり中~高域の張った強烈な現代音楽を大音量でかけても、今のところメーターが振り切った事例は発生していない。

例によっていろいろ映り込んでいることをお詫びするが、
DF-65の第一歩はこのパラメーターでいくこととなった。
これから少しずつ調整が加わっていくこととなる。

■機材の違いも認識しつつ、新たな実験へ

 DF-65がやってきて、よし早速DF-75で蓄えたデータを移植してやろうと意気込んだら、ウーファーのハイカットに300Hzがない。290Hzの次は315Hzに飛んでしまうのだ。しかし、そんなことは大きな問題ではない。まず290Hzで試してみて、低域のエネルギー感が薄ければ315Hzへ移動し、そこでミッドバスのローカット周波数を探ればいいだけの話だ。現在のところ290Hzでもそう違和感なくつながっているが、もう少し様子を見ながら煮詰めていきたい。

 というような次第で、ひとたび頂点を極めたわが家の4ウェイは、解体→再構成を経て再び「どこへ出しても恥ずかしくない」クオリティを獲得した。このまま一生これで楽しんでもそれほどの後悔はないレベルだが、それではせっかくわが実験精神を見込んで機材を快く貸し出してくれたアキュフェーズに申し訳が立たないし、何よりもっといろいろやってみたいではないか。

 という次第で、ここを"第一歩"に、さらなる実験を繰り広げていきたいと思う。連載はまだまだ続きそうだ。いやぁ、マルチアンプって本当に楽しいですね。それではまた次回。

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