三月二十一日
【山行】檜洞丸
睡眠が好きだ。休日の朝、窓から差し込む陽気に包まれて眠るのはまた格別で、用事のないときはいつも昼過ぎまで寝ている。
ただ山行の日はそうはいかない。ましてやまだまだ日の短い季節、貴重な日照時間を目一杯使えるように、まだ日の登らない頃が起床時間だ。しかしおかげで普段見ることのない、最も好きな朝焼けの空を眺めることができているのだから、良い動機付けというものだ。
今回は電車とバスで片道3時間、西丹沢の檜洞丸へ向かう。バスでの登山口へのアプローチは初めてで、この季節でもバス便の多い丹沢の山を選んだ。
5時半頃に分倍河原で南武線へ乗り、6時過ぎ登戸で小田急小田原線へ乗り換え。人気の丹沢表尾根へのアクセスにも使われる小田急、登戸駅はこの時間も人の動きがあり、登山客をちらほら見かける。7時過ぎに新松田へ着き、富士急湘南バスで70分、西丹沢の玄関口「西丹沢ビジターセンター」に到着。
【今回の行程】
西丹沢ビジターセンター(540m) 8:50 -[ツツジ新道]-> 12:25 檜洞丸(1601m) 13:20 -> 14:45 石棚山(1351m) 14:50 -> 17:00 箒沢公園橋(520m)
キャンプ場を横切り少し進み、熊出没注意の看板から登山口へ。これから続々芽吹くであろう広葉樹に囲われる、小鳥の囀りが響く陽だまりの登山道。これまで行った中央線沿線の山々とはまた違い、背の高い森、といった印象か。なるほどこれは緑の季節に訪れたくなる。
しかし今回この時期に檜洞丸へ向かうお目当ては、ちょうど見頃を迎えるだろうミツマタの花だった。
歩き始めてそれほど経たないうちにちらほら姿を見せ始め、もう少し先に進むと見事な群生が広がっていた。
三叉に別れた枝の先に、集まって小さな鞠のような形をした花をつける姿が可愛らしくもどことなくシュール。まだ枯れ木の多い山に陽射しを浴びて群生する光景に目を奪われた。
早くも進むのが名残惜しくなってしまったが、今回はコースタイム7時間で登山開始は9時、先を急ぐ。
沢を渡り、変化の楽しい有機的な道を進んでいくと、噂に聞いていた木道が現れた。この先標高を上げていく中、このような階段が至る所に設置され、植生の保護と水源利用のためとして綺麗に整備されている。しかし土を踏みしめながら登る愉しみからは離れ、また段差で足を大きく上げなくてはならず、登る動作で疲れてしまう。
なかなかこたえた木道歩きだったが、調べてみると緑豊かな季節の木道の周りは美しく植物が生い茂っていて、励みになる景色が広がっているようだ。
今は登るごとに近付いてくる葉の落ちた枝の隙間から眺める富士山の姿を励みに、階段を休み休み登っていく。
長い木道を進み、少し開けた場所に出ると、そこは檜洞丸の山頂だった。
あっけない感じもするけれど、展望のある箇所それぞれに広い休憩スペースがあり、過ごしやすい。ここで大休止。
マルタイラーメンにツナ・とりささみパックと辛子めんたい高菜、塩昆布をトッピング。棒ラーメンはかさばらなくて持ち運びに楽だ。吹きこぼれないよう、しっかり見ながら火力調節を。
1時間たっぷり休んで下山開始。来た道を少し戻り、石棚山稜ルートへ向かう。
石棚山への分岐点付近からは眺望が開け、奥に聳える富士山と手前に連なる山並みが目に飛び込んで来る。後ろ髪を引かれながらも先へ進むと、岩場が多くも、動物の活動の跡やスプリング・エフェメラルとの出会いなど、なかなか心の弾む道程となっていた。
そして下山完了間近というところで、再びミツマタの群生地へ出た。やはりどこか現実離れした光景に、今回の山行の終わりに再び出会えたのは嬉しかった。
犬越路方面が昨年の台風による被害で危険な状態と聞いてこちらのルートを選んだが、この時期にこの道で回ることができて結果的にとても良かった。
ミツマタと咲き始めの桜の木を挟んで流れる沢を渡り、キャンプ場を抜けると、箒沢公園橋のバス停へ到着。当初西丹沢ビジターセンターまで歩いて戻る予定のところ、時間が押していたため、ここでバス待ちとした。
先客のお二方と山行の感想を話しながら、定刻より10分遅れでやって来たバスに乗車し、西丹沢を後にする。
今後も山深い場所へ公共交通機関で行くならばバスが多くなる。今回初めてトライし、なんとか無事時間内に下山し終バスに乗車できたが、よりマイナーな山域の場合、時間を間違えたり乗り遅れたりしないよう、綿密に計画し行動する必要があると実感した。
「お猿さんが結構いるので気を付けて下さい」という運転手の無線連絡に、この地域の路線バス運行の日常へ思いを馳せつつ、新松田駅へ帰着。
東海大学前駅近くの丹沢天然温泉 さざんかで汗を流し、帰路へついた。
今回、実は一週間程前から右足首に違和感があり、当日も残っていたため、初めてテーピングを行なった。見よう見まねながらしっかり固定され、行動中も心配なく歩くことができ、効果を実感できた。しかし、下山後入浴時にテープを剥がす際、皮膚が強く引っ張られ剥がれてしまった。テーピングを剥がす際にも注意が必要。ファーストエイドでしっかり使えるようにしておこう。
ツツジが咲く季節は特に人気という檜洞丸。人が多くなる前にバスに乗っておきたいということもありこの時期の山行を決めたが、それでも豊かな森林環境を感じ取ることができ、これまでとは一味違った楽しみの登山となった。人気だろうけれど、花や新緑、紅葉の季節のこの山も是非味わいたい。