ドルコスト平均法はリスクを下げない。
はじめに
ドルコスト平均法は初心者向けによく説明される有名な手法です。
しかしその一方でドルコスト平均法はリスクを下げる事が出来ると勘違いされることが多いですが、これは誤りです。
なぜドルコスト平均法はリスクを下げないのかを説明します。
ドルコスト平均法とは
まずドルコスト平均法について説明します。これは毎月一定額を購入する方法です。
例えばある投資信託が一口価額を1000円、800円、1200円と推移する場合。
価額に関係なく一口ずつ購入すると、計3000円で計3口購入出来ます。
しかし、ドルコスト平均法では月1000円購入すると事前に決め、口数に関係なく1000円ずつ購入します。
すると計3000円で3.08口購入することが出来ます。
なぜ0.08口多く購入することが出来たのかというと、一つ目の方法は口数に注目した買い方だったため、安いときも高いときも一口ずつ購入しています。
ですがドルコスト平均法では価格に注目し、安いときには多く買い、高いときには少なく買いました。そのため平均取得価額が下がり、より多く口数を買えたわけです。
ドルコスト平均法でリスクは下がるか?
さて、ドルコスト平均法の説明においてここまでは良いのですが、よく次にこのように説明が付け足されます。
『ドルコスト平均法は購入時間を分散することで一括投資よりもリスクを下げることが出来ます。』
本当にリスクは下がるでしょうか。
ではここでもう一つ例を挙げます。
まず、一括購入した1000万のTOPIX投信。
次に、ドルコスト平均法で積み上げた1000万のTOPIX投信。
どちらのリスクが低いでしょうか。
同額の同じ投信ですから当然リスクは、さらにリターンも、同じです。
「いや、待って。ドルコスト平均法では購入時間が分散されているから途中までならリスクが低いはずです。」
そう思う方がいるかもしれません。
では一括投資した1000万のTOPIX投信とドルコスト平均法で半分の500万まで積み上げたTOPIX投信を考えてみます。
この場合のリスクは異なるでしょうか。
この場合でも、リスクもリターンも同じなのです。
そもそも同じ金融商品を保有している以上、1000万でも500万でも同じリスクとリターンを誰もが共有しています。そこに購入方法によって違いなどはありません。
ではなぜドルコスト平均法でリスクが下がると誤解してしまうのか。
その理由は二つのリスクを混同してしまっているからではないでしょうか。
二つのリスクとは相対値と絶対値です。
通常リスクというと相対値を差します。すなわち%で表されます。
TOPIX投信は標準偏差(リスクの意味)が19%程度ですが、この場合1000万も500万も同じ19%のリスクを負っています。
しかし、人は絶対値でも考えます。これはつまり100万円の損失などと表されます。
この場合の損失額(リスク)は1000万なら190万円、500万なら80万円と考えます。すると一見すると損失額(リスク)が異なるように見えます。
この錯覚がドルコスト平均法がリスクを下げるという誤解を広げている一つの原因ではないかと考えています。
「相対値ではリスクが下がらなくても、絶対値である損失金額が下がるならば、実質的にはリスクが下がっていると言えるのでは?」
そう思うかもしれませんが、その場合リターンの絶対値も下がっていることを忘れてはいけません。
TOPIX投信の期待リターンが5%ですが、この場合1000万なら50万の利益が期待出来ますが、500万なら25万円に下がります。
リターンとリスクが同程度下がるならば、それは当たり前のことであって特別リスクが下がったとは言えません。
結局、ドルコスト平均法を使おうとも使わなかろうとも期待リターン5%、リスク19%は全く変わらないのです。
にもかかわらず「ドルコスト平均法でリスクが下がる」という文言をリターンに影響させずにリスクのみを下げるように誤解する事が多いですし、そうでなくてもドルコスト平均法を使っているから安全に資産運用していると考える事が多いです。
しかも絶対値に注目したとしても、1000万よりも500万、すなわちドルコスト平均法を使用した形成中の運用資産額、の損失額が小さいのはドルコスト平均法の効果ではなく、単純にリスクに曝している資産額が小さいからです。すなわち500万ならば一括投資であろうともドルコスト平均法であろうとも1000万よりは損失額は小さいと言うだけなのです。
よって一括投資であろうともドルコスト平均法であろうとも買付方法でリスクが下がることはありません。
ちなみに後述しますがリスク管理としてはドルコスト平均法よりも単純にリスク資産額の多寡を調整することが遙かに効果的です。
ドルコスト平均法の価値
ドルコスト平均法がリスクを下げないならばドルコスト平均法に価値は無いのかと思う方がいるかもしれませんが、そんなことはありません。
既に説明したとおり、お得に買える可能性がある買い方であることに違いはありません。
更に副次的な効果として定期的な買付による着実な資産形成が可能であることもあります。
つまりドルコスト平均法の効果として正しい表現は、
【リスクを下げる効果はありませんが、平均取得価額を押し下げつつ更に着実な資産形成に効果的な手法です。】
というものです。
リスク管理の方法
最適な運用資金の求め方は色々ありますが、標準偏差を今回使ったのでこちらを使った運用資金の求め方を示します。
仮にTOPIX投信への投資を検討する1000万の余裕資金が有、そのうち200万まで失ってもいいとした場合を考えます。
先ほど標準偏差を使うと95%の確率で-33%に収まることがわかります。(これの説明・計算過程などは本旨から外れるので省略します。)
もし1000万を全て運用すると最大330万の損失の可能性があり、耐えきれません。
そこでこの損失が200万に収まる運用額を求めると、次の計算で求められます。
運用元本 × 最大損失割合 = 最大損失額
? × 0.33 = 200
? = 200 ÷ 0.33
? = 606.06…
よって606万円であることが分かります。
つまり、200万までの損失に限定したいならば606万円を超える額を運用してはいけないのです。
なお、もし損失が400万まで耐えられるならば次のようになります。
? × 0.33 = 400
? = 1212.12…
よって1000万を全額運用した上でその運用益を元本に積み増して計1212万円まで運用することが出来ます。
ちなみに、仮にリターンは5%で同じですがリスクが15%に下がった金融資産があるとします。
この金融資産を運用して最大損失を200万に限定する場合の最大元本は次のようになります。
? × 0.25 = 200
? = 800
先ほどの606万よりも多い800万まで運用出来ることが分かります。
すなわち同じ200万円の最大損失リスクを負っている一方で、期待リターンは30万から40万へ増えることとなります。
リターンが同じ場合、リスクは少ない方がより多くの利益を獲得出来るのです。
ただ現実ではそのような美味しい金融商品は直ぐに市場で調整されて他と変わらないリスクになってしまいますが。
これらは過去の統計から算出した95%の確率で成立する事例です。
逆に言うと5%の確率で、或いは過去の統計が参考にならない場合、200万を超える損害が出るということですから、この数字が完璧に正しいとは言えません。
ですが、耐えられる損失額から逆算する運用資産の求め方はご理解頂けたと思います。
耐えられる損失額、すなわちリスク許容量は人それぞれですので、将来設計や経験から導くしかありませんが、許容出来る損失額さえ分かるならばこの算出方法は有効でしょう。