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耳の名前、耳と名前
ジコウカイクウにおできができた。
耳甲介腔。耳たぶと耳の穴の間のくぼんだところ。調べてみたら、小さな耳の中にはたくさんの部位があって、そのどれもに一丁前に名前がついていた。
ダーウィン結節という大仰な名前の部位もある。
「耳輪の後上部のまきこんだ縁にときにみられるにぶい突起」
結節はしこりのこと。耳輪は耳のてっぺんのふちで、パッキンみたいな形をしているところだ。下にむかってたどってみると、若干こりこりした、何かの名残のようなものが感じられた。おお、ずっとここにいたのか、ダーウィン。
それはさておき、耳甲介腔。さわってみると、にきびというよりはおできと呼びたい大きさ。
オロナインをぬったりワセリンをぬったりしているけれど、時々うっかりさわってしまう。どうやら考え事をしているときにここをさわる癖があるようだ。それとも、おできがあるから勝手に手が向かうのかもしれない。どちらにせよ無意識だから、爪を立ててしまう。すると、かなり痛い。たんすの角に小指をぶつけたような痛みが耳に走る。いちおう考え事をするのがしごとだから、日に何度かさわってしまう。ぐう、と痛みに耐える。
耳と言えば、詩人の蜂飼耳を思い出す。こんなに完璧な名前があっていいのだろうか。わたしもほんとうは、筆名をつけたかった。ところが、考えようとすると、耳の字が浮かんで力が抜けた。じぶんには筆名をつける資格(才能)がないと思った。
筆名はもう遅いけれど、「異名」と「ラジオネーム」を考えることならできる。どちらもまだ、これだ! というのを思いつけていないけれど、きっといつか…と思っている。
ふと思い出したことがある。高校生のとき、唐突に、友だちからこんなことを言われた。
「あたしがキャバクラで働くとしたら、源氏名はカナにする」
そう言われて、わたしはとてもうれしかった。それからしばらく、自分なら何て源氏名にしようかな、なんて考えていたりもしたのだ。
異名にラジオネームに源氏名。考えることが多くて、また耳甲介腔に爪を立ててしまいそうだ。