見出し画像

【コラム】クラフトビールペーパー開発秘話/ぶちあたった壁の話

こんにちは。株式会社kitafukuです。

私たちは、クラフトビール醸造過程で廃棄となる"モルト粕"を紙に混ぜた
クラフトビールペーパーの開発をしています。

前回のコラムでは、クラフトビールペーパーをつくったきっかけ、開発した経緯についてお話しました。

そんな経緯があって生まれたクラフトビールペーパー、実は製造までに多くの課題がありました。(今なお直面している課題もありますが…!)

今回は、クラフトビールペーパーが生まれるまでにぶち当たった壁、課題について書きたいと思います。

課題1:たっぷり水分を含んだモルト粕の運び方

クラフトビールをつくっているブルワリーさんから、モルト粕をいただき
そのモルト粕を工場へ運ぶ工程から課題はありました。

クラフトビールをつくる工程で、まずは麦汁をつくるために細かく砕いた麦芽とお湯を混ぜていきます。
その後ろ過した麦汁は次の工程に進み、ビールがつくられていきますが、ろ過された後の麦芽粕(モルト粕)は釜から取り出され、基本的には廃棄となります。

画像6
モルト粕が釜から排出されていく様子

お湯と混ぜたあとの麦芽はたっぷりと水分を含んでおり、常温で放置しておくと段々と発酵し、匂いが強くなります。次第にはカビが生えることも。
(初回の実験ではカビが発生してしまいました。苦い思い出です…。)

匂いが強くなったモルト粕を紙の製造工程に加えることで、機械に匂いがついてしまう恐れがあり、なによりカビの生えたものは、いくら口にしないとはいえ商品として販売できません。

そのため現在は、醸造日に出たモルト粕を温度が下がってからなるべく早くにクール便で工場に送ります。

モルト_画像
仕込み直後に廃棄となるモルト粕

初めての試みでしたので、まず「紙をつくること」に重点を置いて、匂いや品質に問題のないモルト粕を混ぜるための対策でしたが、水分で重くなったりクール便による配送コストや環境負荷を考えると、現実的ではありません。

また、脱水・乾燥に多大なエネルギーを使うことも、本当の意味で環境にやさしくはないのではないかと考え、慎重に検討を重ねています。

この課題については、ブルワリーさんにモルト粕をいただきながら、社内で脱水・乾燥の実験を行うなど、引き続き解決策を探しています。

課題2:紙をつくるために、モルト粕は異物?

ふたつ目の課題は、紙の製造工程にありました。

紙を作る工程には、実はいくつもの手間暇がかかっています。
そのひとつに、異物除去の工程があります。

紙を製造するための材料の中に、異物がないかを確認します。
クラフトビールペーパーは、モルト粕以外の材料には古紙が利用されているため、異物除去の工程は特に重要です。

画像1
(クラフトビールペーパーの製造工程①)

本来であればその工程で異物は除去されるのですが、クラフトビールペーパーではモルト粕という、製造工程においては”異物”とされるものを敢えて混ぜます。そのため、その異物除去の度合いを下げる(多少の異物は通す)ように工夫してもらっています。

画像2
(クラフトビールペーパーの製造工程②)

製紙会社さんによっては「なんでそんなことを?!」と言われかねないような無理難題とも言えます…。
入ってきた異物がもし製造に支障が出ると検知してしまった場合は、機械が止まってしまいます。
製造の機械はロットによってはとても大きく、一度止まって異物を除去して、再稼働させるというのはとても大変な作業になります。(家庭用プリンタの紙詰まり…とはとても比べ物にならないコストがかかります)

画像3
(クラフトビールカードの製造工程①:巨大です)

一方でモルト粕をたくさん入れられたとしても、デコボコとしたモルト粕が目立つ紙になっては、印刷が難しくなります。
製造過程と同じく、異物として検知して印刷工程が止まってしまいます。
(凹凸と含有物が目出つ紙の場合、印刷所によっては印刷が断られるケースもあるようです)

クラフトビールペーパーは、会社のレーザープリンタや個人宅のインクジェットプリンタでの印刷実績があります。

印刷自体も簡単にできることで、より使いやすい製品を目指しています。

画像6
家庭用プリンタで印刷いただいたクラフトビールペーパーの年賀状

その上で、できるだけ多くのモルト粕を活用したいという想いから、工場にギリギリまで相談させていただき、クラフトビールペーパーはモルト粕の含有量を6%と決めました。
もっとモルト粕を活用できないか?少量ではないか?というお声もいただくことはありますが、こうした理由で含有量が決まりました。

この課題に関しては、kome-kamiという廃棄になる米を混ぜた再生紙を開発している株式会社ペーパルさんのこれまでの経験と実績、製紙会社さんの技術のおかげで解決できています。(本当にありがとうございます!)

課題3:誰が使ってくれるのか?

最後の大きな課題は、紙をつくった後に「誰が使ってくれるか」ということ。

製紙会社の方やデザイナーさんにも意見をいただきながら、「使いたい」と思ってもらえるプロダクトになるよう製品開発を進めましたが、いざ商品化したときに誰にも求められなかったらどうしよう…。という不安の気持ちはありました。

テスト紙がようやくできた段階で事業報告インタビュー。
(決まっていないことも多くて内心ドキドキ)

しかし実際に商品化した後、
「モルト粕が大量に廃棄される課題をなんとかしたいと思っていた!」
というお問合せを多くいただきました。本当にありがたいことです。

その中でも、あるブルワリーさんからは

「うちのモルト粕が再利用されることも勿論うれしいけど、大きな目的としては”モルト粕が大量廃棄になるのを解決したい”ことだから、まずは紙が流通して、どんどん生産できるようになってほしい。
紙としては正直高いと思うけど、まずは紙を使ってこそ広まると思うので、使っていきたいと思ってます。」

といったお言葉をいただき、本当に嬉しかったです。
(今でも時折思い出してはじんわりとしてしまいます、、。)
私たちとしてもこの課題に全力で向き合っていこうという改めて決意しました。

実際にそのブルワリーさんに併設しているレストランやECサイトなど、幅広い用途でペーパーを使っていただき、知り合いのブルワリーさんにもペーパーを紹介していただいています。
そのおかげで、クラフトビールペーパーが広まってきたな…と感じています。

画像9
(多くのメディア掲載、取材依頼をいただいております。ありがとうございます。)

紙をひたすら作って在庫として使われないことは本意ではありません。
(紙も傷んで、最終的には廃棄になる恐れがあるため)
紙を使ってもらうことで次の生産が検討できる状態です。

自社ブルワリーのモルト粕が入っている紙を使うことがブルワリー様としてもベストだと分かるからこそ、歯がゆく感じることも多いです。

そんな中で、大きな目的である「モルト粕を再利用する」という点を大事にして一緒に課題解決に取り組んでくれるブルワリーさん達と出会えたことは、なによりも嬉しいことです。

そして、ブルワリーさん達と話していて思うのは「クラフトビール業界全体をもっと盛り上げて、たくさんの人にクラフトビールを飲んでほしい、楽しんでほしい!」ということです。クラフトビールが大好きだということがすごく伝わってきます。
私たち自身、ブルワリーやクラフトビールに関わる方々とお会いしていく中で、前よりもっとクラフトビールが好きになりました。

クラフトビールペーパーを通じてブルワリーの皆さんの一助になれるようなプロダクトを目指していきたいです。

今後はより多くのブルワリーさんのモルト粕も活用し、大きな紙の活用サイクルが回っていければと考えております。

***

長くなってしまいましたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。クラフトビールペーパーのことを少しでも知ってくださるきっかけになれば幸いです。

ご関心お寄せいただいた方がもしいらっしゃいましたら、お問合せお待ちしております。

各種SNSのDMでもいつでもお待ちしています!

画像9

それではまた!

いいなと思ったら応援しよう!

株式会社kitafuku
いただいたサポートはクラフトビールペーパー・IoTデバイス開発の事業に活用させていただきます。