2015年7月のこと

(2016年7月に書いたものの再掲です)

   今時分が一年で一番日が長い季節であるのはスコットランドも同じで、しかも緯度は東京よりも高いのだから、夜の10時を過ぎるまで、あたりは真昼のように明るいのであった。スコットランドへ赴く往路の機中で彼女は、「日が長いっていうのが問題なんだよね」と言った。何が問題なのか、現地に着くまでさっぱりわからなかった。
 往路ではロンドンからグラスゴーへ行く国内便が欠航になり、エディンバラへ到着地を変えた。そのせいでくたくたになって、彼女がカメラをケースから出すことはなかったし、わたしもパソコンなんて開きもしなかった。
 だから、機中での言葉の意味がわかったのは、3日目の夜だった。
 2日目の夜は、あたりが暗くなっても彼女はカメラを手放さなかったのだ。エディンバラのパブの灯りは、あまりにも魅力的な光だった。
  3日目の夜、明日はいよいよアイラ島へ渡るという晩は、港町・オーバンに泊まった。エディンバラからの道のりではところどころで日が陰ったものの、到着してからはすばらしいお天気だった。夕刻、フィッシュアンドチップスやらなんやらの魚介料理を食べ終えても、まだ日は傾かない。
 海が夕焼けに染まり始めたのは、22時を過ぎた頃。そして薄紅に染まったオーバンの空と海を撮り終えて彼女が待ち合わせ場所の店に戻ってきたのは、23時になろうとしていた頃だったと思う。町が完全に闇に包まれてから、彼女は部屋に戻ってきた。それではっきりわかった。
 光がある限り、彼女はカメラを手放せない。
 光がある限り、彼女は撮る眼を休められない。
 
  結局その旅で彼女とわたしは、蒸留所で試飲したほかには、あまりスコッチウイスキーを飲まなかった。スコッチにふさわしい闇の時間が、あまりにも短かったからだ。スコッチを思う存分に飲んだのは最終日だけ。ポンドを使い果たし、キャッシュオンの1杯分をその都度カードで支払いながら、グラスゴー空港のホリディインのバーが クローズするまで3人で飲み続けた。さっぱりとして朗らかな気分だった。

いいなと思ったら応援しよう!