職員室デジタライゼーション〜だったら差し込んじゃえよ③〜
「ちょっと、関くん、どういうこと?」
明子は慌てて、声をかける。状況が読み込めない。
「いちいち、担任名を変えるのは、大変でしょう?それを他の人の分までやるっていうの?」
5時間で帰った1・2年生の担任を除いて、3〜6年の担任は、この作業に取り組んでいなかったようだ。表計算小は、各学年2学級なので、8学級分の確認表を作成することになる。学年・学級・担任名を変更し、児童の人数分印刷する。これは、結構な手間だ。それを、数男が「一緒にやっちゃいますよ。」と言っているのだ。
明子は、そんな手間を数男が負う必要はないと思った。それに、学年主任としては、数男の学級分もこっそり印刷しておこかなと考えていた。それを先回りされてしまった。しかも、同じ学年を組んでいる者同士だけでなく、まだ作業が終わっていない(取り組んですらいない)他の学年の分までである。
「あ、印刷設定変えるだけなんで、すぐですよ。」
数男が飄々と答える。その姿を見て、3年生の学年主任の青木は、「あ、じゃあ、3年生分お願いね。」などと依頼していた。
明子は、「図々しい。」と内心毒づいた。実は、少し青木のことが苦手だった。40代後半のこの女性は、何かにつけて明子のやり方にケチをつけてくる。「一体、何が気に入らないのだろう?」と思いつつ、明子は青木に対して「触らぬ神に祟りなし」と一定の距離を置いて接していた。
「了解です。他、どうですか?田中さんは?」
と、数男は、明子に話を振ってくる。明子もまだ、確認票を作成していなかったのだが、つい口篭ってしまった。そんな明子の表情を読み取り、数男は言った。
「まだなら、印刷しちゃいますね。」
次の瞬間、信じられないことが起こった。プリンターから、次々と確認票が印刷され始めたのだ。それも、「児童名・学年・学級・担任名」が一枚ずつ別になって印刷されている。しばらく眺めていると、印刷される確認票は、次の学級のものになった。
数男は、これらのファイルをWordで一枚ずつ作成したというのだろうか。だとしたら、とても大変な作業なんじゃないか。