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関数男物語〜その手で変えてごらん05〜

 校長室のソファに腰をおろすなり、高木が口を開いた。

「関くん、まずは、運動会の準備に大幅な変更がある。これまで、渡辺くんが担当していたところは、私が担当する。そして、私が担当していたところは、教頭先生が担当することになる。」

 ここまでは、数男の予想通りだった。しかし、この先は、予想外の展開だった。

「実は、今回のピンチを逆手にとって、あるプロジェクトを進めたいんです。」

 佐々木教頭が、話し始める。

「これまで、当校では、職員間の連絡は、口頭伝達や付箋のメモなどで行なってきました。そして、学年の活動予定などは全て高木先生に伝えるようにしていますよね。ところが、高木先生が学級担任を兼ねることになると、なかなか職員室で対応できなくなります。そこで、パソコンで見れる校内掲示板のようなものを作りたいのです。そうすれば、教室からも内容を確認することはできますよね。このデジタル掲示板は、実は、以前から高木先生と相談していたことなのです。」

 デジタル掲示板、つまり、チャットのようなもののことだろうか。水面下でそのような相談が進んでいたことを知り、数男は驚いた。

「そして、このデジタル掲示板の導入を関先生にお願いしたいのです。簡単なものでかまわないので、すぐに使えるものはないか検討してください。」

 佐々木は、本当に申し訳なさそうな顔で数男にお願いした。チャットの導入に関して、数男は大賛成である。まさに寝耳に水の案件ではあったが、数男には、既に心当たりが何種類かある。すぐにでも導入は可能だろう。
 そもそも、数男は、この学校の「口頭伝達至上主義」的な働き方に疑問を感じていた。しかし、その事に関して、教頭、教務主任の二人も近い意見をもっていたことが驚きだった。

「まずは、運動会の計画、担当を修正したものを職員に伝えてください。もし、時間が必要なら、6年生の授業、私が何かします。デジタル掲示板については、何かいいアイディアがあったら教えてください。」

 佐々木が話題を切り上げる。実際、既に子ども達が登校し始めている。教室に向かわなければならない。今日は、一時間、空きコマがあるので、そこで修正作業は終わるだろう。数男は、佐々木の申し出を断り、教室に向かう事にした。

 しかし、数男は、あまりの唐突な話に、大事なものを見落としていた。それは、佐々木と高木の提案に対して、何も口出ししなかった校長の表情である。そして、これが、数男を激しい戦いに突き落とす事になることに気づいていなかった。

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