見出し画像

関数男物語〜さまよえるやばいフォルダ02〜

 小学校の夏休みといえば、世間では「教員も休みなんだろう。」と思われているかもしれないが、実際は違う。子どもの登校しない間に会議を行ったり、作業や研修を行ったりする。それでも、敏腕教務主任高木の采配で、表計算小は、8月いっぱいは会議や研修などの予定はない。担当している分掌によっては、市や県からの指定の研修などがある場合もあったが、それ以外は、各々が自由に休暇を取れる環境が整えられていた。


 数男の脳裏に前任校の苦い記憶が蘇る。前任の自治体では、夏休み中に小学生の水泳大会が行われていた。親善を名目にし、各学校の6年生が参加する大会である。その大会に向けて、夏休み中に期間限定の部活動が行われるのだ。
 それだけではない。夏休み中に行われる地域の祭りの際、小学生がマーチングを披露するのだ。これは、4年生以上の希望者であったが、その指導も小学校の教師たちが行う。結果、夏休みとはいえ、午前中の間は子ども達が登校し、職員は、水泳とマーチングに分かれて指導を行う。そして、午後から会議や研修という日々がお盆直前まで続く。
 さらに、八月の後半からは陸上大会に向けた練習が始まるのだ。これまた親善の名目で5・6年生が参加する事になり、教師達は指導に駆り出される。結果、夏休みといってもお盆を挟んだ一週間程度しか取れなかった。
 教員、特に、学級を担任している場合は、学期中の平日に休みを取ることは中々難しい。年次有給休暇の取得は、労働者の権利であるため、遠慮する必要はないのだが、どうしても気後れしてしまうケースが多々ある。実際、小さい子のいる教員などは子どもの体調不良などで休むことも多い。しかし、独身で、滅多なことでは体調を崩さない数男は平日に年休を取ることはほとんどなかった。そのため、夏休みなどの長期休業中にできるだけまとめて年休を取得しようと思っていたのだが、前任校では、それは叶わぬ願いだった。

 それに比べれば、表計算小の夏休みは天国である。その気になれば、8月の一ヶ月間を丸々休みにしてしまうことも可能だろう。それにも関わらず、数男は8月の平日に出勤している。それは、腰を据えて戦わなければならない手強い相手が現れたからだ。
 先日の出席簿の運用に関する協議を経て、教頭と高木がセキュリティポリシーの確認を含めて運用のための細々とした内容について検討することになった。その作業を終え、校内サーバーでの運用に問題ないことが確認された。
 そして、いよいよ、出席簿システム(といっても、Excelのリンク機能を使ったものだが)を構築する事になった。各学級の出席簿を所定の場所に保存し、学級担任は、そのショートカットをデスクトップに作成する。そして、共有サーバー内で集計ファイルも稼働するようにした。学籍担当の木村は、その集計ファイルのショートカットから、市への提出様式を印刷すればよい。

 いざ、「所定の場所」を決めようとしたところで、大問題が発生した。


 職員共有サーバーのフォルダ構成である。


 実は、赴任当初から違和感、いやストレスを感じていたのが、表計算小の共有サーバーである。仕組み自体は、どこの自治体でも採用されているような「教職員のみが職員室にあるPCからアクセスできる」共有サーバーである。しかし、そのフォルダ構成が大問題だった。一番浅い階層に既にフォルダが乱立しているのである。
 さらに、恐ろしいことに「☆学年会計」や「00職員会議」といった具合に、フォルダ名に規則性のかけらもない。これでは、とてもではないが、自分の必要とするファイルに辿り着くまでに信じられないほどの労力を要する。
 それに輪をかけて恐ろしいことに、アクセスしづらいということが原因となり、一部の職員は、かなりの個人情報を含むファイルを自身のPCのデスクトップに保存している様子も伺える。


「これは、本当にまずい…。」


 むせかえる夏の暑さの中で、冷や汗をかきながら、数男の戦いが始まった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?