関数男物語〜その手で変えてごらん04〜
本当に不幸中の幸いにも、渡辺のけがは命に別状はないものだった。事故の状況としても相手の過失が大きいらしい。しかし、骨折した部位が悪かったらしく、手術と入院生活を余儀なくされた。復帰は、一ヶ月後を目処にしているらしい。
重々しい表情で教頭の佐々木は臨時の職員打ち合わせで詳細を告げた。そして、渡辺の復帰までの具体的な対応も示された。
現在、渡辺の担任している3年2組の担任は、教務主任の高木が代行することになった。担任が病気などで休んだとしても、すぐに代理の教員を外部から迎え入れることはできないのだ。
自治体のルールにもよるが、病休期間が一定日数を超えない場合、代理教員を雇用できない場合もある。そもそも、現在、圧倒的な教員不足なのである。仮に、渡辺の代理教員を採用できるとしも、その人物を教育委員会ではなく、校長や下手をしたら一般教員がツテを頼って探すという事態にもなりかねない。
そこで、多くの場合は、教務主任や専科などの学級を担任していない職員を再配置することで対応せざるを得ない。ひどい場合には、管理職が担任などというケースも出てきているようだ。
今回、渡辺の代わりに一時的に担任になった高木は、普段、教務主任として学校全体の教育課程や外部との交渉などの校務を行なっている。それらの仕事は、教頭の佐々木や校長が一部引き受ける形で進めるらしい。
また、高木は、高学年の一部の授業を受け持っている。数男の担任している6年生の理科は、2クラスとも高木が担当している。それらの出張授業は、当面の間、各学級の担任が受け持つことになった。
「みなさんには、大変、ご迷惑をおかけすることになります。しかし、この事態を乗り越えるために、お力をお貸しください。」
校長が、深々と頭を下げて職員打ち合わせは閉じた。
「関くん、ちょっと。」
と、高木に声をかけられ、数男は、「運動会のことか」と思いながら、管理職と共に校長室へと連れて行かれた。